第14話 オークションデート

「しかしあなたも変な人ね…自分の身内ならまだしも赤の他人のオークションを見守りに来るなんて」


宮古レインドールはそう言って、久島五十五に聞くが、それは自分でも愚問な質問だと思った。


「そう言われればそうですね…けど、赤の他人とは言えませんよ」


そこで初めて、久島五十五は悲しそうな表情をして、そしてすぐに優しい顔つきに戻る。

宮古レインドールは心を痛めた、馬鹿な質問をしたと思った。


「それもそうね…さっきのは失言だったわ。忘れてちょうだい」


そう言って、オークション会場の中心へと目を向ける。


「分かりました…まあ、それに。俺だけじゃなくて、他にも彼女を心配してる人はいますよ。ほら」


久島五十五は指を差した。

その先には、変装をしている宮古エナや、普通の格好で会場の下層に座る宮古メメ。

車いす用のスペースで、オークションを見ている宮古ハルメンなどが居た。


「周りを見てもらえば分かりますが、レインドールさん以外にもメメさん、ハル姉さん、エナも来てます」


言われた所で宮古レインドールは顔を向けると、確かに、久島五十五以外にも、宮古六姉妹の姿が其処にあった。


「本当ね。全然気がつかなかったわあ」


やはり、どんな時であろうとも、姉妹の行動は一緒なのだと、宮古レインドールはそう思って思わず綻んだ笑みを浮かべる。


「そういえば懐かしいわあ…こうして同じ場所に姉妹が揃うなんて…あの時以来じゃないかしら?」


その言葉に、久島五十五も同調する。


「そういえばそうですね…あの時以来だ」


それは誰にとっても苦い思い出だ。

久島五十五が歯車を手にして、宮古姉妹たちから疎まれていた時代。

まだ、誰も、久島五十五に好意を抱いていなかった時の事だった。


其処に思いを馳せるよりも、オークションは司会を続けている。


「まず、出品されるダンジョンアイテムはこちら『砂時計』です。こちらのダンジョンアイテムは『旱魃砂漠迷宮』にて回収したダンジョンアイテムであり、その効果は生物に対して5分間の疲労や肉体のダメージを逆流させ、負荷事態をなかったことにする事が出来るダンジョンアイテムですっ!こちらは目玉商品の一つとしても販売されているご様子、最低価格は2000万から始まりますっ!!」


オークションが開始される。

するとともに、ピー、と機械の様な音が鳴ると共に、会場のホール中心に設置されたドラム缶の様な機械が、女性をベースにした合成音声を鳴らす。


「5番・2500万」「14番・2600万」「5番・2800万」「33番・3000万」「5番・3500万円」


「3500万、出ました、3500万円、他に、他にありませんか?」


司会者が煽っていく。

それに乗せられる様に、更に機械の音声が響く。


「14番・4000万」


「4000、4000万です、これ以上はありませんか?…なしッこれ以上の声は聞こえてこず、14番様、ご購入、ご落札ですッ!!」


何処から聞こえて来るのか、拍手の音が響き出す。

それは会場に居る会員からじゃなかった。

恐らくは予め用意していた音声ソフトから、拍手の音を流しているのだろう。


「あれ…」


久島五十五は訝し気だった。


「どうかしたのかしら?…もしかして自分の方が上だから、値段的に安過ぎと思っているのお?」


「いや、まあ。道具と張り合うつもりは無いですけど…俺が思うにかなり優秀なダンジョンアイテムだと思いますけど…」


久島五十五はダンジョンアイテムの効果が優れているのに、4500万ほどで落札されたのが不思議でならないらしい。


「そうねえ…例え、かなり優れた効果を持つダンジョンアイテムであっても使える人間はいなければ意味がないのよ」


宮古レインドールは久島五十五にそう言って、適当に説明を交える事にした。


司会者が小さなカードを見ながら、会話を続ける。

そのカードはどうやら、カンペであるらしい。


「続いての商品はこちらッ!なんとこちらのダンジョンアイテムはアメーバのように姿を交えて蠢く『生きた砂』ッ!こちらのダンジョンアイテムは500万から始めますっ!」


500万。

その言葉を聞いて、宮古リティは眉をしかめた。

明らかに、不満げな表情だった。

その表情に、久島五十五は見逃さなかった。


「あれ?リティが少しムッとした表情をしたぞ?」


何故彼女が怒りにも似た形相をしているのか理解できない様子だが、家族であるレインドールは理解している様子だった。


「きっと、出品者リティと運営側との希望金額のすり合わせが出来なかったのね」


すり合わせ、と言われても、久島五十五には到底理解出来ずに首を傾げる事しか出来ない。

付け加える様に、宮古レインドールが小声で会話を続ける。


「まあ要するに、リティは1000万程の値段で販売したかったけど、運営側はその値段じゃ参加者の食指が伸びないだろうからと判断して、値段を下げたと言った所かしら?」


宮古リティを見る。

椅子に座る宮古リティは、なんともつまらなさそうに、自らの髪を指で絡めて巻いている。


「そうなのか…そりゃ怒るよな」


久島五十五は宮古リティの感情に共感するが、宮古レインドールは複雑な表情を浮かべていた。


「でも運営側も悪気があってやったわけじゃないのよお?誰も買わなかったら出品者の出品物の評価が悪いとされるし、出品者自体も悪評が着けられる場合もあるから、まだ、価格を下げてオークションに通す分、優良ねえ」


この世界では、オークション会社は多くある。

その中でも出品者の意向に合わせ、まったくすり合わせをしない会社も多い。

宮古一族が贔屓にするオークション会社は、ある程度の良心を持っているらしかった。


話は進んでいき、司会者が声を荒げる。


「3000万、3000万で落札ッ!14番様、おめでとうございます!!」


司会者の言葉に、久島五十五は首を傾げていた。

何か、変な違和感を覚えているらしく、彼の行動に目敏く反応した宮古レインドールは伺う。


「どうかしたのかしら?」


そう言われ、久島五十五は、ああ、と相槌を打つ。


「いや…別に、…ただ、同じ番号の人が落札しているなと思って…」


彼の疑問に、宮古レインドールは納得の表情を浮かべる。


「ああ、そうねえ。自分が使える使えない以前に、オークションでダンジョンアイテムを落札する事なんてよくあることよお」


基本的に、女性はダンジョンアイテムを所持し、使役するのに制限はない。

だが、その代わりに、属性と言うものが定められている。

ある一定のダンジョンアイテムしか使えない代わりに、そのダンジョンアイテムの所持数無制限に、安定した高出力の適合率を誇る。


「そのために金を使うのか?」


「ダンジョン攻略さえ適度にこなしていけば、お金なんて簡単に溜まっていくから、衣食住…これに金をかければ、あとは簡単にお金が溜まっていくもの。余る金の使い道なんて趣味に使うくらいだろうし…金を掛けて特定のダンジョンアイテムのコレクションなんて、ダンジョン攻略者なら普通にある事よお?」


そう理由付ける宮古レインドール。

久島五十五はそれを聞いて頷きはしたが、彼の直感が、なんとなく、嫌な予感を過らせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る