(5/17) 秘密の質問。

リナと最後に会ったのは、

兄ヨースケの葬式そうしきの日だった。



まだ6歳だったリナは、

式の間はコータのお腹に

ずっとしがみついていた。



似合わない喪服もふく姿のコータを

父親の面影おもかげに重ねていたのか。



幼くして親を亡くした子供の気持ちは、

あの場の誰にもわからなかった。



6年の歳月は残酷ざんこくなものがあった。



あの幼く可愛らしかったリナは、

たくましく成長してやんちゃに育った。



コータは兄の死後6年経っても引きこもりで、

リナは複雑な事情を抱えても毎日学校へ通い、

祖母そぼとともに買い物にも出かける。



そこに生まれや年の差など関係もなく、

コータにとって彼女はまぶしすぎて

直視のできない存在感を放っていた。



「おじさん、いくつ?」



「えっ?」



「年齢だって。」



「あ、…27です。」今年でもう28歳になる。



「血液型は?」



――パスワードでも聞いているのだろうか?



そんな疑問がふと思い浮かんだが、

誕生日や血液型をパスワードに設定するほど

コータのネットリテラシーは低くない。



オー型です…。」



「おじさん、パパと一緒なんだ…。

 マクラくっさ…。カレー臭?」



コータの仕事中にも関わらず、

リナは部屋にやってきてベッドで寝そべり、

他愛のない会話を求めては、

その会話を一方的に拒絶きょぜつされる。



「おじさんなんでそんなことやってるの?」



と、リナにたずねられたが、

コータは返答にきゅうした。



コータの父がかたわらで営業の仕事をして、

コータは地元の商店街でウェブサイトの管理や、

折込おりこみチラシ、店内のメニュー作りなどを

手掛けている。すべて父親のコネのおかげだ。



コータがなぜそんな仕事をできるのかといえば、

生前、兄のヨースケが、

「引きこもるなら手に職をつけたらいいぞ。」

と、アドバイスをしたからだ。



高校中退後のコータは、

将来が不安でどうしようもなかった。



その不安を解消するための行為を、

ヨースケが提案してくれた。



しかしいまは、両親は定年間際であるし、

世話焼きで頼れる兄とは今年で同い年になる。



モラトリアムの延長に過ぎないかもしれない。



そんな事情を端的たんてきに説明するための、

上手く取りつくろう言葉が見つからずにいる。



「マクラ洗って。」



しかしリナはコータにまくらを投げつけて、

部屋を出て行ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る