第41話 で 電気……明るいの……やだ

 電車がめちゃくちゃ混んでるけど、花火大会終わりの観客だろうな。

 顔をウチワで仰いだり、屋台で買ったのか、綿菓子の袋を嬉しそうに持ってる子どもたち。


 祭りのあとのどこか儚く楽しげな余韻は電車内にも満ちていた。



 アイリと意識しすぎて上手く喋られない……アイリは何を考えてんだろ?


 ドアに寄り掛かる目の前のアイリに視線を向けると、わざとらしくアイリは後ろ向きになる


 なんか、もう雰囲気てきにオッケーな感じだよな?

 両親いないことを知って誘ってきてるし。

 アイリともっと一緒にいたいのは本当だげと、エロいことしか浮かんでこない!


 彼氏彼女だしお互いの同意があればシテ良いよな??


 きゅうに電車が揺れアイリはバランスを崩しドアに手をついた。


 窓越しに目が合うも、すぐに視線をそらすアイリ。

 そんなの気にせずにアイリの体を引き寄せた。



「揺れて危ないから捕まって」


 数秒迷ってから小さく頷くと振り返りシャツの裾をギュッと掴んでくる。やたらとアイリの顔が赤くなってる気がするが


「夏風邪? 熱ある?? 」


 オデコに手を当てると、アイリは首を横に振る。


「だ 大丈夫」



 もしかしたらアイリも、このあとのこと色々と考えちゃってる?

 


 何か起こっても夏のせいにすれば良い。

 って、ほんの4ヶ月前までなら下らねぇ。何が『夏のせいだよ! 無責任なやつの発言だ!! 』って、思ってたかも。絶対に思ってたな。


 花火大会も行かなかっただろうし、観覧車にも一回も乗らなかったはず。

 ホント、一気に変わった数ヶ月だ。俺も少しは成長したよな?







 家に着くなりアイリはエアコンを付けた。


「アタシ汗臭くない? 電車混んでたし、消臭スプレーも途中してなかったし」 



 それで変な感じだったのかよ。やたらと恥ずかしがってたけど


「俺はぜんぜん分からなかったよ。むしろ俺が臭くないか不安だ」

「先に颯太がシャワー浴びてきなよ。アタシ髪を洗うと長くなっちゃうし」


「あ あぁ……じゃあ、借りようかな」

「一度も使ってないパパの服もあるし、あとで置いとくね」




 タオルとバスタオルを手渡されてしてしまったが

 これはいよいよカウントダウンがスタートしたみたいだな!

 魔法使いになるのは諦めるよ俺!!


 だってホンモンの賢者タイムなるものに出会えそうだから。


 魔法使いより賢者のほうが上位種だろ? 賢者になれそうなのに、好き好んで魔法使いになるかってんだ! 


 30歳超える頃にはアイリによって俺は大賢者になってるかもしれない


 そんな訳のわからんうわついた心とともにシャワーを浴びる。



 自分家じぶんちと比べられないくらい、大きくて綺麗な浴槽は羨ましく思える。

 何か小洒落たボトルやらが、たくさん並んであるが、どれがシャンプーでボディーソープなのか良く確かめないと分からない。



 カーリング選手が氷上をこする以上のスピードで、体のスミズミを洗っていく。

 ボディーソープの良い匂いとアワアワが高揚感を誘ってくる。


「颯太。パパの使ってない服、置いとくよ」

「あ ありがと」



 本当にどうしよう? 何十回何百回と頭ではアイリとエッロぃことをしていたが

 実際になりそうだと不安だ!


 高揚感と不安がゴチャ混ぜで、鼓動は早まるし鼻息は荒くなる。



 浴室から出てアイリが置いてくれた服に着替える

 Tシャツに半ズボンだったと思われるが、俺が着ると七分袖に七分丈になってしまう。


 俺も170はあるのだが、アイリのお父さんは、蓮よりデカかったし、185くらいあったもんな。


 あのお父さんと上手くやって行けるのか将来が不安だ




「めちゃくちゃサッパリした」

「あ……アタシも浴びてくるね。冷蔵庫にあるの勝手に飲んで良いから」

「あ。うん……」


「あ、あと。べ 別にアタシの部屋で待ってても良いんだからね」

「じゃ、じゃあ。アイリの部屋で競馬の本でも読んでようかな……」



 言いながら浴室に向かうアイリの後ろ姿を目で追ってしまう。



 はうっ! ギャルのくせに恥ずかしそうにしていたがアイリも初めて?


 とりあえず冷蔵庫から炭酸飲料を貰い、アイリの部屋へと向かうが、頭ではどう誘うのか? いろんなセリフが駆け巡る。



『初めて? 』なんて聞けねーよな!? 明るく『俺ってエッチ初めてだけどアイリも? 』

『今宵はお互い良いエッチしようぜ! 』


 そんな雰囲気あります!? なんかスボーツ感覚なんだけど! カップルの一大イベントだよ? もっとロマンティックなもんだよな?? 

 


 ガチャ


 そうそう、この部屋みたいに、良い匂いがしてアロマキャンドルが焚いてあったり、ベッドの枕元に間接照明が置いてあったり、それ相応の準備と言いますか雰囲気づくりと言いますか………置いてある!!



 あれ? 前に来たときは百合百合しいお部屋で百合と競馬グッズに囲まれてたのに

 何かやたらとお洒落でちょっとムーディな感じな部屋になってない?


 クローゼットの中にグッズはしまったのか?



 しかも部屋に入ったは良いが、この場合はどこに座れば良いの?


 ベッドの上だと、あからさま過ぎだし

 かと言ってベッドから遠すぎてもスムーズに行かないし

 テーブルをベッドに近付けて……待てよ。



 このベッドだけどヘッドボードに背もたれ用ソファーあるじゃん!

 前はなかったはずだし、明らかに新品っぽいけど


 これに2人で寄りかかりーの、お話しーの、時間が過ぎてくーの

『今宵はお互い良いエッチしーの』1番ダメなセリフ選んじゃった。







 周りを見渡せば見渡すほど、お洒落なラブホに思えてきた。

 葛藤をしつつ炭酸飲料も飲み干してしまった。

 ってか風呂に入ってるわけでもないのにアイリちゃん長くない?


 髪の毛が長いから乾かす時間もかかるのかな?



 トントントン


 なぜにアイリの部屋で待ってる俺にアイリがノックしてくるんだ?


「はい」

「そ 颯太。こっちにいたんだ」


 カチャッと開けて入ってきたのは



「え? 浴衣じゃん!! めちゃくちゃ似合ってて可愛い!」



 普段はしない髪をお団子にして、濃紺に金魚柄の浴衣姿のアイリ。


 控え目に言って宇宙1可愛い。神話になって語り継がれるレベル。


「どうしても颯太に見てほしくて」

「写真撮って良い? ってか撮る! 」


 スマホを手に取るとディスプレイに蓮と野々宮さんからのRINEが何件か入ってるみたいだったが無視した。

 特に急ぎや重要なことなら電話してくるはずだし




「撮ったやつ見せて 」

「いま確認するよ」


 スマホを覗き込んでくるアイリ。ボディーソープの匂いがただよってくる。

 湯上がりだからか顔も火照ってる感じだし浴衣姿だし


 ギリギリで理性が勝ってはいるが


「あれ? ロック画面ってアタシの寝顔? 」

「前に双子ちゃんと眠ってたの撮ってた」


「めっちゃ恥ずかしいし! 」

「凄い俺のお気に入り」



 一気に顔も耳も赤くなるアイリはベッドに飛び込むと俯きになり、足をバタバタとし始めた



「もう! 思い出しちゃったじゃん!! 」

「なにを? 」

「お 教え……ない」



 このアイリが眠ってたときって、チョコキスしたときだよな? アイリが寝ぼけてベロチューして来て、欲求不満かも言ってた……


「アイリがエロい夢を見てたときか! 」

「言うなし! 」


 足のバタバタのスピードがまだ増していくだと! 水泳なら50mは秒で進んでそうな勢いだ。


「俺も何回も見たことある。夢でアイリと……」


 パッと振り向くアイリの唇にほつれた髪がくっついていた


「アイリが好きだ。アイリが欲しい」


 夢から正夢へとしていけばいい。

 ゆっくりと近づき唇にくっついていた髪をよける。キスがしたくてアイリの下唇を少し押し下げた。



「で 電気……明るいの……やだ」



 俺の肩をギュッと掴んで視線を外したかと思うと目をつむるアイリ

 今すぐにキスしたい気持ちを抑え電気を消す。


 アロマキャンドルのゆらめきと間接照明が、少し乱れた浴衣姿のアイリを照らす。

 赤く火照ってる色っぽい鎖骨にキスしたい。

 はだけた浴衣から見える、なまめかしい太ももにもキスしたい。アイリにキスしたい。


 アイリの両膝に自分の片膝を割ってオデコにキスをする。 形のいい鼻に、柔らかいホッペに、何回でもしたくなる唇に

 少しずつアイリの吐息が漏れてくる。

 今までで1番可愛く思えるし、そんな声を聞いちゃうと余計に興奮してしまう。

 

 やり方なんて分からないけど、今はアイリと1つになりたい……



 あっ コンドーム持ってないや

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