第33話 ギャルが気合入れてる姿は可愛い

 とりあえず急いでアイリの家へと向かう。

 通勤ラッシュの時間帯だからか地下鉄は混んでいた。


 学生が夏休みの間も、こうやって働いてんだから社会人って大変だ。

 いっそ、本当にアイリに養ってもらおうか。

 土日は中央競馬やって、平日は地方競馬やって、そこそこ稼げば良いだろ。


 なんならTwittorとかで無料予想アップして、的中実績を作ってから有料予想として売れば、自分が馬券をハズしても予想を誰かが買った分だけ収入は入る!


 ガハハ 勝ったな!!


 って、よほどメンタル強くないと、プロ予想家なんてなれねぇよな。

 ハズれたとき購入者の言ってくる罵詈雑言は、野々宮さんの辛口発言以上だろうし、収入も不安定になりやすいし。


 Twittorでも、予想家と購入者の血みどろラリーを観るからな。

 やっぱ、趣味の範囲でやるのが良いんだろう。

 好きなものを仕事にすると大変って話も聞くし。

 俺も将来のことを真剣に考えないといけない時期になってしまった。

 


 自分の人生と向き合ってるうちに、アイリのタワマンに着いた。

 オートロックを解除してもらうためにインターホンを鳴らす



「あら、若生わこう君。いらっしゃい、いま開けるわね」

「おはよう御座います。朝早くからすみません」

「娘が呼んだでしょ。若生君も大変ね」


 そのままオートロックを解除してもらいエレベーターに乗り込むが


 お母さんは普通な感じだったけど、アイリは何がそんなに大変なんだ?

 あんな慌てて電話してきたけど




 部屋の前でインターホンを押すと、すぐにドアは開きアイリのお母さんと、綺麗な女の人が一緒に出てきた。


「若生君。今日はお願いね」

「ごめんね。初対面なのに巻き込んでしまって」


 お母さんと綺麗なお姉さんが次々に言ってくるが


「え? あぁ、はい」


 何か良く分からないけど、とりあえず言っとけ


「大丈夫よ。この子はあと何年かしたら、私の子どもにもなるから」

愛梨あいりちゃんと、そこまで約束してるんだ」


 2人で笑い合ってるので俺も笑ってみたものの 愛想笑いしか出来ない! 


「じゃあ、行ってくるね。帰りは18時過ぎだと思うわ」

「お礼するから愛梨ちゃんとお願いします」

「分かりました。行ってらっしゃい」



 勢いで『行ってらっしゃい』言ったけど、なんなんだ?

 ってか、あの綺麗なお姉さんはだれ?


「お お邪魔しま〜す」


 リビングからタッタッタッと勢い良く小さい女の子が向かって来る。


「アイリちゃんの彼ピッピだ彼ピッピでしょ? 」


 舌っ足らずに話してきては俺を指差して来るけど

 今度はだれ!? 5歳くらいかな?


「えっと。こんにちは、アイリいるかな? 」  


 しゃがみ込んで目線を合わせる。

 子ども特有のサラサラとした髪にクリクリとした丸い目が可愛い。将来は有望な美少女になるだろう。


 ってか、話し方が昔の芽郁めいに似ていて笑ってしまう


「いるよ〜。アイリちゃ〜ん」と、叫びながら、女の子はタッタッタッとリビングへと戻っていく。




 あれ? こっちに戻ってきたは良いが1人増えてる??

 リビングから向かってくるアイリの両手には、それぞれ女の子が手を繋いでいた。


 双子ちゃんか? 服の色やお団子にしてる髪のヘアゴムの色が違う。

 さっきの綺麗な人の娘さん?


「そうた〜。ヘルプだよヘルプ、陽菜ひなは家中ガンダするし、結奈ゆいなはガン泣きするし」


 ガンダってなんだ?


「えっと。陽菜ちゃんがこっちで、結菜ちゃんがこっち」


 陽菜ちゃんは明るく『ハイ』と片手を上げてくれた。服の色もヘアゴムも薄いピンクでダッシュしてきた子……ガンガンダッシュの略がガンダ??


 まぁ 良いや。クリーム色っぽい服とヘアゴムが結菜ちゃんか。

 結菜ちゃんはずっと俯いてるけど、泣き腫らしたのか目が真っ赤だった、性格も真逆っぽい双子だな。



 確か朝飯食う時間なかったからバッグに飴を入れてきたはず

 むかし芽郁にやってた、簡単なマジックでもやるか。

 マジックとも呼べないような子どもだましだけど



「陽菜ちゃん結菜ちゃん。どっちにあるか当ててね」


 取り出した飴を手のひらに置いて、双子に見せてから右手に掴んだ。

 そのまま大げさに左手に力を入れて、双子の視線を誘導するように、拳を握り上へと突き上げた。双子の目線が突き上げた左腕に集中してるのをチラッと確認する。


 その間に右手で掴んでいた飴を咄嗟に地面から双子の方に静かに転がした。

 あとは、同じように右腕もグーに直して突き上げる、バンザイしてる感じになった。


 よしよし全くバレてない!

 しょせんは子どもよのう

 今の俺の右手には、もちろん飴はない。双子の足元に転がってるからな。

 だが、双子の目線は俺が突き上げた左拳に止まってるので全然気付いてない!

 完璧すぎる!!


「どっちに飴はあるでしょう? 」


 上を向いたままシゲシゲと俺の握りこぶしを左右交互に見てくる双子ちゃん。

 目線が慌ただしく動くのが可愛い。


「こっち! 」と元気に言いながら、陽菜ちゃんは俺の左手を指差し、結菜ちゃんは黙ったまま俺の右手を指差す。


 本当はどっちにも入ってねーけどな!

 バンザイしてた腕を少しずつ下げ、双子と同じ目線にしてから拳を開く


「残念。どっちにもありません」

「なんでーー? 飴、どこ行ったのーー!? 」


 子供らしく騙されてくれてお兄ちゃん嬉しい!! 勘が鋭くない素直な子どもは大好きだよ


「下みてごらん。お兄ちゃんからプレゼント」


 双子は揃って足元を見る


「ヤバっ! 天才じゃん! 颯太って超能力あんの? ホント凄いんだけど。飴が瞬間移動した!? 」


 お前が驚くんかい!?

 なんでアイリが1番驚いてんの? そんな感動した目で見つめられても……

 高校生でこれに騙されるって、素直を置き去りにしすぎだよ。前から思ってたけどバカだよ。

そんなとこも可愛い。って、言いたいけど少し心配しちゃうよ



 双子もビックリするタイミング失って、飴を口に入れちゃってるじゃん


「お兄ちゃん。ありがと」

「ありが……と」


 双子でこうも性格が違うとは実に面白い。

 満面の笑みでお礼を言う陽菜ちゃん。相変わらず俯きながら小声で礼を言う結菜ちゃん。



 リビングに入ると、まぁ部屋は汚されていた。

 おもちゃやクレヨンは散乱してるわ、画用紙やティッシュはビリビリになって散らばってるわ


「颯太。まだ7時でこれだからね! 最初は1人で大丈夫だろ。思ってたけど、即無理だと悟ったわ」



 アイリから話を聞くと

 お母さんの妹さんが北海道から遊びに来ることになって、家に前泊をすることになった。

 で、2人は出掛けるから1日だけ姪っ子をアイリが預かる事になってたらしい



 やんちゃだった妹がいる俺からしたら、ヒドイにはヒドイが、そこまでとは思えない。

 一人っ子のアイリからしたら、どうしていいか分からなかったのだろう


「よし、じゃあ。陽菜ちゃん、結菜ちゃん。ゲームしよ」

「ゲームするぅ!! どんなゲーム? 」


 元気だと言う事を全身でアピールするように両手を上げる陽菜ちゃん。

 最小限のエネルギーしか使わねぇぞ。とばかりに、コクンと小さくしか頷かない結菜ちゃん。


「この箱にはおもちゃを。こっちの箱にはゴミを早く丁寧に入れるゲーム」


 おもちゃ箱とゴミ箱を指差した。


「早く終わった方には、美味しい甘い食べ物が待ってます」

「ハイ! アタシめっちゃ頑張ります!! 」


 甘い食べ物に釣られたのか、握りこぶしを作り気合を入れているアイリ。

 ギャルが気合入れてる姿は可愛いよ。可愛いけど子どもと張り合うな。




 なんかさっきから子どもが3人いるような気がするんだが……

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