第20話 ざけんな!

 吉沢さんと他愛もない話をして時間を潰していた。

 それこそ、最強スプリンターや最強ステイヤーなど、距離別での最強馬はどの馬か?


 って、競馬ファン同士が語るには、思い入れや重要視する要素が違うのだから、一向に正解まで辿り着かない話だけれど


 吉沢さんはメジロマックイーンを挙げるが、中距離でも活躍してるのだから、生粋のステイヤーと呼んでいいのか微妙だ

 もちろんステイヤー適性は高いし、名馬中の名馬なのは間違いない。


 だが、しかしステイヤーならスルーオダイナだろ! ステイヤーズステークスとダイヤモンドステークスを連覇した馬は他にいない。

 ただG1実績もないから最強と呼ぶには心もとない……



「なんだかんだ、けっこう時間経ってたね」

「結局、どの距離別も答えは出なかったけどな」


 隣を歩く吉沢さんのTシャツは、ほとんど乾いていた。


 あんだけ白熱した議論を交わしたんだからな 時間なんか気にしてなかったし

 学校では隣の席だから当たり前だけど、学校外でも吉沢さんが隣にいるのが増えている


 前より自然体で話せるし、最初に見た時は関わりたくない。って思ってたのに、もっと吉沢さんと話したいし一緒にいたい……かも



「あの2人は何、話してんだろ」

「松岡君とあおいちゃん。か」


 教室では蓮と吉沢さんは普通に絡んだりもしてるけど、蓮の告白に吉沢さんは何て言ったんだろ?


 気にしても仕方ないのに気になってしまう






 そんな蓮と野々宮さんの所に戻ったは良いが明らかに雰囲気が重い!!

 遠目からでも、ここだけどんよりしてる様に見えたし、実際に来ると重い重すぎる!!

 この空気に圧死しそうなんですが



「た ただいま」

「……遅かったじゃん」


 う〜ん れん君おこなの? おこだよね? そりゃそうだよね

 好きな人が幼馴染と2人きりで長時間話してたんだから


「ちょっと、帰りに迷って」

「連絡しろよ」

「ごめん……」


 ガチで怒ってる? 普段は淡々としてて喜怒哀楽の喜と楽しか見せないのに。

 雨の中で久しぶりに哀を見たと思ったら、今度は怒かよ



「戻ってきたのですから良いじゃないですか」 

「そうだけど」

「子どもじゃないですし、心配しすぎです」


 え? 野々宮さんは野々宮さんで、めっちゃツンツンしてない??

 銀髪の無表情クール系美少女キャラみたいな顔と声音してるよ



 もう、ホント面倒くさいんだけど

 俺も当事者で俺にもこうなった原因があるのは分かる。あるのは分かるよ。

 それでもめちゃくちゃ面倒くさい!


 今までの学生生活は無風だったから、何も感じなかったけど、恋愛ってこんなに面倒くさいの?

 こんなことをみんなやって、付き合ったり振られたりしてるの?? 

 凄いな! どんだけパワーいるんだよ!! 



 ホントこんな風になるんだったら、俺と蓮で付き合って、野々宮さんと吉沢さんが付き合えば良いんじゃない!


「せっかく癒やされに来たのに、雰囲気悪いのも勿体ない……じゃん? 」


 あっ 吉沢さん。語尾が疑問形になったけど、蓮を振っといて俺と2人きりになった、私が言うのもおかしいかな。と思ったな。


「ごめん。俺が空気悪くしちゃったよね、気を付ける! 」

「私も感情的になりました。ごめんなさい」


 蓮に続いて野々宮さんも謝るけど、野々宮さんは感情的っつーか、無感情な声音だったけど、それが野々宮さんの中では感情的になる。ってことなのか……


「じゃあ。みんなで『ごめんなさい』してフリスビーやっちゃお、フリスビー! 」



 吉沢さんはとびっきりの笑顔とともに、バッグからフリスビーを取り出すと蓮に手渡した


「め、めっちゃ懐かしい! 俺、得意だよ」

「私は小さい頃にしかやった事ないので、上手く出来るか不安です」

「問題ないって、俺が教えるし」

「本当ですか? それは心強いです」


 ふむ、吉沢さんの笑顔に少し照れた蓮。不安顔の野々宮さんは、あざとく蓮の袖を引っ張る。

 それに対し蓮が優しく微笑みかける。

 最後に野々宮さんがオーバー気味に喜ぶ…………意識して観察してみると色々と面白い


 少しの会話と表情と仕草に各々の思惑が凝縮されてたな。


 今まで知らなかったけど、こういう事をみんなやって成長していくのか。 ホントすげーな








 色々とあったピクニックも終わり、蓮が俺の家に寄ることになった。

 気持ちの整理が付いたから俺に話したいらしい

 今更、何を聞かされるのか怖いが知りたい気持ちもある。





「ただいま」

「で、て、け。で、て、け」



 リビングから玄関に向かってくる芽郁めい

 手拍子とともに出てけコールが聞こえてきた。

 こいつも律儀に玄関まではいつも迎えに来てくれんだけどな



「お邪魔しま〜す」

「蓮ちゃん! いらっしゃい!! 」


「お前、出てけコールはどうした? 」

「お兄ちゃん限定コールだよ。早くレスポンスしてよ」

「出ていかねーつーの。蓮と部屋にいるから、邪魔すんなよ」



 芽郁の頭をポンっと叩いたら『すぐ頭洗わなくちゃ』って呟きが後ろから聞こえてきた



「相変わらず仲良いな」

「そう見えるなら眼科、行って来い」



 部屋に入るなり真剣な目付きになる蓮


「とりあえず座れよ」


 テーブルを挟んで向かい合う。

 いつもならベッドに寄りかかる様に座る蓮なのに

 マジな話ってことか


颯太そうたは何か隠し事あるか? 」

「ねーよ」


 反射的に言ってしまった

 吉沢さんとの事は隠してるつもりはない……んな言い訳通じねぇよな。


「別に隠し事してても良いぞ。幼馴染だからって、全部言わなきゃなんね。ってこともねーし」

「で、話したいことは? 」


 あまり突っ込まれたくないから話題をそらした


「気付いてるだろうが、前に吉沢さんに振られた」

「そっか。俺は野々宮さんに告る前に振られたよ」

「で、その野々宮さんから……告られた」



 早くない? 野々宮さん告白はまだしない。みたいに言ってたよな? 


「吉沢さんが好きだから、ごめん。って、言ったんだよ」

「野々宮さんはなんて? 」

「『知ってます。知ってて告白してます』ってさ」


 何を考えてんだ? 野々宮さんって負ける戦いはしなさそうだし、石橋を叩き過ぎるほど叩いてから渡るタイプに見えるけど


「野々宮さん言ったんだよ」

「なにを? 」



 ドクドクと鼓動が早くなる。何か良からぬことを言ってそうで


「『若生君と愛梨ちゃんは付き合ってるみたいですよ』って」

「付き合ってねーよ! 」



 あの清楚系ビッチ! せっかく協力してやってんのに、これかよ!!


「蓮、ごめん! 俺、吉沢さんに告られたんだよ。でも、断っ」

「断った? っけんな」

「え? 」


 なんだよこれ。どうすんだよ


「ざけんなっ! 何、俺に謝ってんだよ!! 」


 蓮はテーブルを足裏で押し出す様に蹴ると身を乗り出してきた


 早くに俺が蓮に言わなかったから、こうなったんだよな

 俺も落ち着いたら蓮に話す。言っといて黙ってたから!


「言おうと思っても言えなくて」


 殴られる!


 胸ぐらを掴まれそのまま引き寄せられた


「違ぇ! 言わなかった事はどうでも良い。さっき『別に隠し事してても良いぞ』言っただろ」


 蓮の唇はかすかに震えていた


「颯太。お前の意思で断るのは勝手だが、俺を気にして断ったり、中途半端な態度をしてんじゃねぇ」

「蓮は吉沢さんが好きなんだろ? 」

「めちゃくちゃ好きに決まってんだろ! 野々宮 葵を振るくらいに! 」


 全然意味が分からない……


「俺の事を気にして中途半端な態度を取るのは、吉沢さんが可哀想だしフェアじゃない」



 ハートを直接思いっきりぶん殴られた気分だ


「だから俺のことは関係なく お前自身の気持ちで動け! それでも俺はお前に負けない」

「なんだよ、それ。俺が告白を受ければ、蓮は吉沢さんと付き合えないんだぞ」

「そうなったら仕方ねーだろ。キッバリ諦める努力をする」



 摑まれていた胸ぐらをパッと離された


「吉沢さんが颯太を選ぶなら仕方ねーだろ。俺の自慢の幼馴染だし」



 頭をかきながら少し照れたように笑う蓮だけど


 コイツは……っとに

 何処までかっけんーだよ!

 イラつくなぁ

 ほんとイラつく、 顔も良くて性格も良くて 程よくバカで……


「俺も野々宮さんに言われてんだよ」

「はい? 」

「『諦めませんよ。私、覚悟決めてますから』って。何か背中がゾクゾクした」



 背中がゾクゾクするのは分かるかも 

 ってか、野々宮さん勝手に暴走するなよ!

 おかげで、いつも片隅にあったモヤモヤは消えたけど



 俺は吉沢さんと付き合いたい


 第3章 完




※競馬がテーマでもある読まれにくい作品にも関わらず、ここまで読んで頂きありがとう御座います!

感謝です!! 次章も読んで頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします!

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