第4話 ギャルからのモニコ

 黒板に次々と書かれる委員会の名前。

 委員会に付かなきゃならないのはクラスの内の約半分


 俺の手に握られている紙に命運が掛っている 

 委員会なぞ何の得にもならないもんは願い下げだ

 最低でも週に一回はやってくる当番。

 それにより朝の時間や昼休憩。放課後にまで時間を取られてしまう



「ねぇ。『いっせーの』で開けようよ」


 吉沢さんは机に置いた紙をシャーペンでトントンと軽く叩いた。


「良いよ」

「アタシには何も書かれてませんように」

「俺も白紙でお願いします! 」


 開いた紙が白紙なら委員会はなし、数字が書かれていたら、黒板に書いてある数字と照らし合せた委員会になる。


「「いっせーの」」


 俺と吉沢さんは同時に開いた


「……5」


 うわっ 最悪だ

 無情にも紙には『5』と書いてあった


「アタシ『3』だよ」


 紙を片手でひらひらさせると吉沢さんはため息を吐いた


「ぴえん。やるならやるで、若生君と同じなら良かったのに」


 そんなに深い意味はないのだろうけど、変に意識しちゃうから辞めて欲しい



「じゃあ。皆、開いたと思うんで『1』が書いてあった人は手を上げてください」


 学級委員長が次々に不運にも委員会になったものの名前を書いていく


「次は『3』が書いてある人」


 いやいや手を上げると、野々宮さんも手を上げていた


 マジで!? 『3』は図書委員だから、昼休憩や放課後に貸し出し係りとか、本の整理……野々宮さんと2人で?

 これは逆にありよりのありじゃねーか!



「若生君。何か嬉しそうじゃん? 」

「え、いや。別に」

「ふ〜ん。葵ちゃん可愛いもんね」


 『葵ちゃん?』……吉沢さんと野々宮さんって知り合い? ってか、何やらジト目で睨まれてる気がするのですが

 やっぱりカラコン怖いし吉沢さん怖い…………


「あっ。アタシ美化委員で松岡君と一緒じゃん」

れんと? 」

「ウン。黒板に書いてあんじゃん」


 黒板にはしっかりと美化委員の所に、吉沢さんと蓮の名前が書いてあった。

 蓮が小さくガッツポーズしているのが見えた。


「美化委員かぁ、朝早くに学校周りの清掃じゃん。無理だよアタシ」

「でも、サボったら当番回数増やされるよ」

「うぅぅ。分かってるけどさぁ……さっそく、明日からあるみたいだし最悪だぁ」



 吉沢さんは机に突っ伏してしまった

 確かに見るからに吉沢さん、朝とか弱そうだもんな。

 それにしても野々宮さんと図書委員とか運が向いてきた!


 1年の時はほとんど話せなかったけど、本屋では野々宮さんから声を掛けてくれたし、少しは仲良くなれそうな気がするぜ!

 いや、仲良くなってやる!!


「そうだ! 良いこと考えた」


 唐突に吉沢さんはガバっと顔を上げると『ウシシ』と怪しい笑顔とともに、こちらを向いてきた


「若生君って、いつも何時に起きるの? 」

「え? 俺は電車の時間に合わせなきゃだから7時前位だよ」

「ナイスゥ! 」


 親指を上げる吉沢さん

 何か良からぬ方向に行ってそうな……


「『ナイスゥ!』って、まさかだけど、俺が吉沢さんに連絡して起こすんじゃないよね? 」

「ノンノン」


 今度は人差し指を左右に振ると、クックックと悪役の様な笑みを浮かべる吉沢さん。

 あっ これ、完全に面倒くさいやつだ


「逆だよ逆」

「逆? 」

「もし、若生君から電話あっても、アタシ起きる自信ないもん」

「それを自信満々に言われても」


「だから。そしたら若生君に悪いじゃん」

「って、ことは? 」

「アタシが6時55分に若生君にモニコする」


 モニコ?…………


「そしたら、アタシは若生君に電話しなきゃ。って責任感が出るから、ちゃんと起きれると思うんだよね」


 モーニングコールってことか


「蓮とやったら良いじゃん。蓮も俺と起きる時間一緒くらいだし、吉沢さんと同じ委員会だし」

「松岡君の連絡先なんて知らないし、若生君で良いじゃん! 」


 そんな力を込めて言わなくても……


「吉沢さんが俺に電話忘れたら? 」

「もちろん若生君がアタシに電話してもろて」


 してもろて……って、それじゃ最初から俺が電話しても変わらない気がするんだけど


「決まりね! 若生君はぐっすり眠ってて、アタシが起こしてあげるから」


 まぁ。もう、何を言っても無理だろうな

 吉沢さんって一度言い出したら止まらないし

 自分に素直なところは羨ましい……






 ぜんっぜん眠れない!

 逆に明日の6時55分に吉沢さんから電話が来ると思うと、緊張して眠れない!!

 よくよく考えたら女の子からのモーニングコール何て初めてだしな


 スマホは枕元に置いてあるし、何なら目覚ましはいつもより早い6時30にセットしてある。


 第一声は『おはよう』で良いんだよな?

 蓮なら『良い朝だな』とか言いそうだけど、そういうの言った方が良いのかな?


 今が1時でしょ……1時? ヤバい、そろそろ俺も寝ないといけないのに目も頭もギンギンに冴えてやがる!!





 …………ホントどうしよう、睡眠導入音楽聴いても寝れないし、羊を数えても途中から吉沢さんが出てくるし、眠るのってこんなに難しかった?

 もう、3時だよ! 今から寝ても4時間位しか寝れない。もう寝るの諦めちゃう?

 今週の日曜は『天皇賞春』があるし、過去のレース映像でも観てるか……最終調教もチェックしないとだし

 こんななら、やっぱり俺から電話する言えば良かった





 新聞配達のバイク音もとっくに過ぎ去り、チュンチュンと外からは小鳥さんのさえずりが聞こえ初め、カーテンの隙間からは薄日が差し込み始めた。

 結局、一睡も出来ないまま6時50分にまでなってしまった。

 おかげさまで天皇賞春に出る18頭の調教診断とレース展開予想は頭に叩き込めたが


 こんなに長い時間スマホとにらめっこする羽目になるとは


 1分1分が凄く長く感じた……あと1分で6時55分。

 いつ電話がなっても良いようにスマホを手に取る



 はぁ〜 一晩中、競馬と吉沢さんの事しか考えられなかった。

 本当ならクラスの中心にいてカースト最上位にいるような吉沢さんとは、何の接点も繋がりもないまま1年が過ぎ去るはずだった。


 毎年の様に教室の隅で人知れず……空気みたいに過ごしていた。それで俺は良かったのに、何の間違いなのか『競馬』って言う2人だけの秘密によって、吉沢さんが入り込んで来た。


 誰も知らない吉沢さんを俺だけが知ってる。と言う、優越感は少しはあるけど


「うぉい! 」


 びっくりした~ スマホが突然震えだすから…………吉沢さんだ!

 ディスプレイには『吉沢 愛梨』の文字が映し出されていた

 本当に学校1のギャルからモーニングコールが来てしまった


「も、もしもし」

『おはよう! ごめんね。少し遅れちゃった』


 もう7時になってたんだ。それにしても朝が弱い人だとは思えない位に元気なんだけど吉沢さん


『若生君? おーい。若生君戻っておいで〜』

「……ごめん。大丈夫だよ」

「若生君、寝ぼけてるでしょ。起きたばっかみたいな声出して」


 むしろ緊張して一睡もしてないのですが


「たまには朝早く起きるのも悪くないね。凄い目覚めが良いよ」

「それは良かった……」

「ハハハ。若生君、また寝ちゃいそうだね、とりま顔洗って目覚めなよ」


「そうだね。そうするよ」

「じゃ。また、学校でね若生君。バイバイピース」



 ふぅ〜 何か今頃になって、どっと疲れが来た。めちゃくちゃ眠い……








「せっかくアタシ起こして上げたのに遅刻しちゃったの? 」

「す すみません」


 あの後もれなく意識を手放した俺は、産まれて初めて3時限目から登校すると言う見事に大遅刻をかましてしまった



「次の当番の時は、アタシが今日以上にモニコして上げるよ」


(いえ。ホント、もう勘弁してください)


 早起きして調子が良いのか、満面の笑みを浮かべる吉沢さんに小声で呟いた


 そのまま机に突っ伏し俺は覚悟をきめた


 ダメだ。今日は授業を諦めて寝よう………


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