休憩タイム

 ホノカとンベルは横に並びながら建物に挟まれた国道を移動していた。


 そして、ホノカは体をひねり、横にいるンベルに笑顔を向ける。


「ねえ、手、繋ごうか?」


「えっ?」


「だって、その方が仲良しっぽいでしょ?」


「そうだけど……」


 ホノカはそっと手を差し向けて、ンベルの手を握った。


 尻尾をくねらせながらうろたえるンベル。


「それにしても、今日は暑いね。向かい風が冷たくて心地いいよ」


「ん? 普通じゃない?」


「あっ、ああ! ボク、熱があるからね! しゃごっ、しゃごっ!」


 対面から向かってくる移動している人たちの視線を浴びながら、ホノカとンベルは道路を進み続けていった。






 ホノカとンベルは自然に恵まれた土地を走り続けていた。


 そして、道路の脇にいくつもの建物が並んでいて、ホノカは店舗群を指さして口を開く。


「ちょっと休憩していく?」


 ンベルはホノカが指さした方向を見つめながら頷いた。


「うん、いいね」


「どこがいい?」


「ホノカが入りたいところで良いよ」


「うーん……じゃあ、お客さんが入ってないこのお店で」


「了解!」


 二人は木造の店の近くで電動ローラースケートを脱ぎ、店内に入っていく。


 店内は落ち着いた雰囲気で溢れていて、壁に食べ物のメニューが書かれた長方形の紙が貼られていた。


 ホノカとンベルは店内のベンチに腰を下ろし、壁に視線を巡らせる。

 そして、ホノカは優しい声音を漏らした。


「なに食べる?」


「うーん……たこ焼きは、無いかな」


「だよね。ちょっぴり暑いもんね」


「でも、暑い時に熱いものを食べると、体にいいんだよねー」


 ホノカは苦笑しながら頬を掻く。


「だとしても……気持ちには正直になりたいよ」


「んー、だよね!」


「やっぱり、冷たくてさっぱりしたやつ……そう、冷ややっことかところてんが良くない?」


「アイスクリームじゃないのね……。それで、ホノカはどっちが食べたい?」


 ンベルは小さく笑いながら小首をかしげる。


 そして、ホノカは壁のメニューを凝視した。


「そうだなぁ……ひや――いや、ところてんがいいかな。料金、一杯おにぎり三個のやつ」


「じゃあ、ボクもところてんにするよ」


「うん。あ、黒蜜と酢醤油があるよ」


「うーん……ホノカはどっち頼む?」


「ん、酢醤油にしようかな」


「それなら、ボクもすじょう――あっ、黒蜜にしよっと」


「りょうかーい」


 ホノカはンベルの顔から店の奥に視線を移し、強く叫ぶ。


「すみませーん! 注文いいですかー?」


 すると、店の奥から穏やかな女性の返事が返ってきた。


「はーい」


 そして、店奥から三十歳ほどの女性店員が早足気味にホノカ達に近づいていく。


(え、猫人間キャヒュマンット? ……なんでこの娘は一緒に居るの?)


 店員は一瞬ンベルに視線を向けていたけど、すぐに微笑んだ顔をホノカに向ける。


 ホノカは壁に貼ってあるメニューを見つめながら呟く。


「ところてん二つお願いします。あ、黒蜜と酢醤油、別々のお願いします」


「ところてん二つ、黒蜜と酢醤油、別。かしこまりました。少々お待ちください」


 店員は体を反転させ、小走りで店の奥へ消えていった。

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