第4話 暗闇の中

 吾作は暗闇の中にいた。


 足元さえ見えないくらい真っ暗闇。そしてやたら寒く、空気が肌に刺さるような痛さがある。吾作は心細く不安な気持ちになった。


 とにかく脱出しなければ!


 そういう思いから手探りながら歩き出した。

 しかし歩けど歩けど暗闇から抜け出せる感じがしない。

 そのうち心細さから走り始めていた。

 暗闇は気がつけば大量の枯れた木々に変わり、その木の枝が更に無数の手のようになり、その手が迫りくるような、まとわりつくような感覚に襲われ、さらに吾作は恐怖のあまり走って逃げた。

 吾作は逃げている先に人影らしきものを見つけた。吾作はそれを人影と確認すると、一目散にむかった。


「た、助けて!」


 するとその人影が振り向くなり、こう言った。


「スイマセーン! アナタのー、チをー、スウツモリはー、ナカッタのデース!」


 そのへんな日本語で謝ってきたのは、まさにオロロックであった。


「お、おろろ~っっ」


 吾作は驚きのあまりその場で慌てて立ち止まった。


「オロロックデース!」


「な、な……っっ」


「シカシー、アナタもー、ヨクナカッタデース! ワタシをカンオケからー、ダソウとシタデショー。ナノデ~、ついカンデシマッタね~」


 驚いている吾作にオロロックは難癖をつけてきた。吾作はじりじりと後ずさりしながらも、なんで文句を言われているのか困惑した。


「え、え? わしがいかんかったの?」


「アナタはー、コレからー、ヴァンパイアデース! ヒトのチをー、スッテー、ナカマにナリマショー!」


 吾作はヴァンパイアという言葉は分からなかったが、


[血を吸って仲間になる]


と、というオロロックの言葉は聞き取れ驚いた。


「な、何、訳の分からん事言っとるだん!」


 吾作はそう叫ぶとオロロックから離れ、反対方向へ走り出した。


「ハヤク、ヒトのチを、スイマショー! スワナイと、ナカマにナレマセーン!」


 離れていく吾作に向かってオロロックは話した。

 しかし吾作は必死で走っていたのでその声は届いていなかった。


 吾作は目を覚ました。


 よかった……何だかもう思い出せないけど、とても恐くて嫌な夢だった。


 吾作はほっと一息ついた。そして、ここはどこだ? と、我に返った。

 この天井は見覚えがある。あ、わしの家だわ! ようやく吾作は自分の家の自分の布団で仰向けになって寝る事に気がついた。


(あれ? なんでわし、ここで寝てんだ?)


 吾作はだんだん目が覚めてきて冷静に考え始めたがよく分からない。それに起き上がろうと動いたが、思う様に体が動かない。


 すると目の前で涙ぐんでいるおサエの顔が目に入った。

 それによく眺めると、おサエの横にはおサエのお母さんが来ていて、それ以外にも家の中に仲のいい村人の権兵衛や長三郎や彦ニイなど、近所の村人たちがわんさかいる事に気がついた。


「おお! 吾作が目を覚ましたにー!」


 吾作の兄貴分の彦ニイが、家の外へ声をかけた。するとさらに多くの村人たちが家に押し寄せてきた。

 まだ事態を把握していない吾作だったが、村人たちが親切に話してくれた。


「おサエちゃんがな、『ウチの旦那さんが倒れとるで助けてくれ~!』って、わんわん泣きながら走ってきたんだわ」

「ま~びっくりしたで~! 小屋で倒れとるおまえさん、死んどるようにしか見えんかったもんでよお~」


 その話を聞いて吾作は、ようやく自分の身に起こったことを思い出し、オロロックのことも思い出した。


「あの、あの」


「あ、沈没船かん? 今、お役人たちがいっぱい来て、浜は大騒ぎになっとるわ。ほんでなあ、おサエちゃんがその~なんだー……化け物の話かん? その話も全部お役人さんに話したで。ほんでその化け物なあ。ほんなんおらんかったに。安心しりん」


 吾作が質問をする前に一番近くにいた友達の権兵衛が教えてくれた。

 そしておサエが一安心した顔つきに変わると、


「まあどんだけ心配したか~……」


 また泣き始めてしまった。


「まあ、勘弁してえ。どえらい心配しただで~」


 おサエのお母さんもほっと胸をなでおろしていた。こうして集まった村人たちは、みんな胸を撫で下ろし、「よかったよかった」と、口々に言いながら帰って行った。

 安心した吾作も、またパタリと寝てしまった。

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