第38話 煽り

「ほら、鞄を持つよ」

「いやいや、いいよ! そこまではいいから! それ、むしろ周りから見たら私が悪い女の子になるよ!?」


 友(?)たちに見送られ、夕日の美しい街を二人並んで下校するセブンライトとピュアナ。


「あら~? あらあら~、意外と……お似合いだったりかもしれませんわね~」

「姫様、お戯れを……」

「いえ、案外そうかもしれないわね。ピュアナって、一見オドオドしているように見えて、相手が誰でも言うときは言うから、ああいう子の方が彼には案外……」

「ぬっ、この雰囲気は……友達というより、甘い雰囲気を感じる! 先生と先輩が二人でいるときのように……」


 その背を温かい眼差しで見送る四人。

 だが、ホッコリしたのも束の間で、すぐにフォルトは含みのある笑みを浮かべながら……


「さ~て、シィーさん。ワタクシと放課後デート……というかもう、このまま屋敷にいらしてくださいな~」

「む、今日もお邪魔してよろしいのだろうか?」

「あ~ら、つれないですわ~。ワタクシたちはもう、と~~っても仲良しな関係ではありませんの~♥」


 それは、クルセイナとジャンヌに見せつけるかのように、己の谷間にシィーリアスの腕をハメてゴロニャンと甘えてベタベタするフォルト。

 

「あ、ぬ、フォルト姫、今日もというのはズルいです! シィー殿、どうだろうか! 今日は我が屋敷に……いや、屋敷には母上も妹も……つまり、アレはできないわけで……し、しかし、家族に紹介というのも……」


 焦って、逆サイドからシィーリアスを引っ張ろうとするクルセイナ。それに対してフォルトは……


「あらぁ? クルセイナさんも、今日も一緒に来ていただけると思っていましたけど~、違いますのぉ?」

「ふぐっ!?」

「あら~、残念ですわ~、それなら本日はワタクシがシィーさんを―――」

「お、お待ちを! お伺いさせていただきます! ええ、是非とも私も!」


 クルセイナを排除ではなく引き込んだ方がいいだろうとの判断か、本来はライバルのような関係になるクルセイナも家に招くことに―――



「あら、意図的に私を無視しているのかしら? 私もシィーリアスくんとお話がしたいのだけど」



 そこでジャンヌが割って入った。笑みを浮かべながらも、どこか好戦的な目をするジャンヌに、フォルトは真っ向から受ける。



「あ~ら、そうですの。シィーさんがお友達になりたいと申し入れた時にはお断りした心の狭い優等生さんが、今更シィーさんに何の用ですの~? シィーさんが、フェンリルを倒せるぐらい素晴らしい力の持ち主と分かった途端に、手のひらクルリンですの~? でも~、あなたは~『君が強いのは分かったし、君が『正義の味方』を志しているのは分かったけれど、それ以外のことを何も知らない君に、私の方から時間を割く気はないわ』と言ってませんでした~~~?」


「ええ、そうよ。手のひらクルリンしてしまうぐらい、あまりにも素敵な男の子に心を奪われてしまったわ。お友達が不満なら、シィーリアスくんの女にしてもらおうかしら?」


「はー! はー! とんだ、ぱっぱらぱーな思考ですわねぇ。既に大幅に出遅れているあなたでは、もうこのレースに出走はできませんことよ~。ねぇ~、シィーさん♥」


「あら、たった数日のお友達関係程度でアドバンテージのつもりかしら? 箱入りのお姫様がちょっと外に出ただけで随分と強気ね。頭の中もお花畑なのかしら?」



 フォルトの嫌味や強気な発言に一切怯むことなく真っ向から受けて立つジャンヌ。

 相手が大国の姫だというのに、この胆力は「只者ではない」と見ているクルセイナに思わせるものであった。


「待ちたまえ、フォルト! 何だか口論のようになっているが、ジャンヌ……君は僕の友達になってくれるというのか?」


 とはいえ、その口論もあくまで張本人であるシィーリアスを無視して繰り広げていたもの。

 シィーリアスが割って入ることで……


「むぅ……シィーさん」

「うふ♪ ええ、そうね。今度は私の方からお願いするということで、……私と友達になってくれないかしら、シィーリアスくん♪」


 話は簡単に済むのであった。


「なんと! それならば僕に断る理由もない! 是非とも、よろしく頼む! ジャンヌ!」

「ええ、よ・ろ・し・く♪」


 友達になりたいと言われて、シィーリアスが断るはずもなく、アッサリと認められたジャンヌ。

 するとジャンヌは少しむくれたフォルトに……


「ふふん♪」

「ほーん!」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、それがフォルトの癇に障った。

 だからこそ……


「まぁ、いいんではありませんの~? とはいっても、シィーさんとのスキンシップもまだできていない程度のお友達でしたら、ワタクシの敵ではありませんし~!」

「ちょ、姫様、そ、それは?!」

「ん? スキンシップ?」


 フォルトの言葉に慌ててクルセイナが止めに入ろうとするも、ジャンヌは反応。

 

「あら、何かしら? 友達のスキンシップ? シィーリアスくん?」

「いや、別にそれほど大げさなものでは……ただ友達として普通のことかと……」


 シィーリアスたちのスキンシップとは何か?

 ハグやパンティーチェックや足にキスとかそういった類のもの……そこまで行っているとは、ジャンヌも全く考えていなかった。

 そのため……


「それは気に食わないわね、シィーリアスくん」

「……え?」

「既にフォルトやクルセイナとスキンシップとやらを済ませておきながら、私とはしていない……これは、差別と言えるわよ?」

「ジャンヌ……そ、そんなことは……」

「いいえ、看過できないわ! 私はもっと君と仲良くなりたいというのに、私だけ差別するのは傷つくわ……」


 このとき、ジャンヌはスキンシップの中身が何なのかまでは想像できなかったが、それでもこの差は面白くないと思っていた。


(王族貴族である二人が済ませておきながら、私だけしないというのはダメよ。将来彼を……こちら側に引き込むためにもね……いずれは、身体を使ってでもこちら側に引き込むのだから、こんなところでスキンシップだのなんだので差をつけられるわけにはいかないもの……どうせ、大したものではないでしょう)


 だからこそ、ジャンヌはシィーリアスの腕を掴んで……


「そのスキンシップ、私にもしなさい、シィーリアスくん」

「え?」

「ふふん♪」

「ひゃ!? な、ジャンヌよ! ま、待つのだ! それだけはやめた方が―――」


 そのスキンシップを自分にも。

 そう告げるジャンヌに、フォルトは「かかった」と笑みを浮かべ、クルセイナは顔を赤くして慌てて止める。


「ジャンヌよ、このスキンシップとやらは、そ、その、アレ的なので、決して軽はずみに受け入れてよいものではない! だから―――」

「あら、クルセイナ。焦っているのかしら? 自分たちのアドバンテージがなくなることを」

「そ、そうではなくて、こ、これはだな……」


 全容は恥ずかしくて言えないクルセイナの言葉では、ジャンヌは止まらない。


「良いのか、ジャンヌ! 僕とスキンシップを……」

「ええ、構わないわ!」


 そんなジャンヌを更に煽るように、フォルトは……



「おーっほっほっほ、無理はやめなさいな、ジャンヌさん! あなたでは無理でしてよ! これはワタクシたちとシィーさんの神聖なるもの……というわけで、シィーさん! 今宵もワタクシの家でスキンシップを行って友情を深め合いますわ~♥」


「勝手を言わないで貰えないかしら、フォルト! お姫様の言葉であろうと、そんなことで引き下がる私ではないわ! というわけで、シィーリアスくん! 私とスキンシップをするわよ!」



 と、こうなってしまった。


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