第二章 授業開始

第17話 魔法を使いこなす授業

「皆さんの中には既に中級以上の攻撃魔法を扱えるも人も多いでしょう。しかし、魔法が【発動できる】のと【使いこなせる】は、違う意味になります」


 学園の広い魔法訓練用の広場にて、クラスメート全員が白い半袖の運動服に、男子は膝ほどの長さの青いショートパンツで、女子は下着のような形をした紺色のブルーマという帝国が古来より採用している伝統的な衣服を着用して集合。

 妙齢の女講師が皆の前で実技を交えて授業。


「そこで……いま私が立っているこの場所から、あの壁際にある木人の目標物に攻撃魔法を放って、【命中】させて【破壊】することができるかどうか。それが今日の授業です」


 女講師が指定した目標物までの距離を見て、男女ともに戸惑いの表情を見せる。


「ちょ、せ、先生……さすがにあそこまでは……遠すぎないでしょうか?」


 男子の一人が手を上げてそう口にすると、クラスのほとんどの者たちが同意見なのか、同調するように頷いた。

 すると、女講師はその反応が分かっていたかのように……


「そう、距離が近ければあの木人を魔法で破壊することができるでしょう。しかし、距離が遠くなれば命中させるために力をコントロールさせる必要があります。強い魔法ほど練った魔力が荒れて、放ったところで思うところに当てられないものです。しかし、逆に遠い距離の目標物に命中させようとコントロールばかり意識すると、肝心の威力の方が落ちてしまいます。それでは魔法を【使いこなせる】とは言えないのです……このように!」


 すると、女講師が掌に魔力を集めて詠唱を始める。


「風の精霊王の加護を宿し、刃となりて斬り裂かれん―――――」


 長い詠唱を唱えるたびに徐々に女講師の掌に研ぎ澄まされた魔力が鋭く刺すように場の空気に溢れ、男子も女子も『一部』を除いて顔を引きつらせている。

 そして……


「ウィンドカッターッ!!」


 放たれた風の刃。

 鋭く、大きく、その動きに揺らぎもなく真っすぐ飛び、さらに速さも加えて広場の端にある目標物を左右均等に真ん中から真っ二つに裂いた。



「とまあ……こんな感じです。君たちには今月までにこれレベルは使いこなせるようになってください」


「「「「「おおおおおおぉぉおおおお!!」」」」」



 涼しい顔でデモンストレーションを行った女講師に、生徒たちが一斉に感嘆の声と尊敬のキラキラとした眼差しを向けた。


「す、すごい……あんな離れているのに……」

「しかも、速くて威力もすごい……」

「それに、真ん中から真っ二つって……ただ当てただけじゃなく……」

「これを今月……」


 早速、魔法分野のエリートの卵ならでは、今の女講師の魔法の質がどれだけのものかを理解した。

 そして入学早々早速難しい課題だと、大多数の生徒たちが頭を抱えた。

 一方で……



「おほほほほ……ドヤ顔ですわ~。ま、ワタクシもこの程度ではまだ帽子は脱ぎませんわ~。シィーさんには聞くまでもありませんけど、クルセイナさんはどうです?」


「私も……当てて破壊するまでなら今でも……とはいえ、あれだけの精度は流石に……」


 

 フォルトやクルセイナなどは『これは余裕』といった表情である。


「ふん……やれやれ」


 そして、カイをはじめ、他にも数名ほどはまだこの最初の授業は『自分たちには容易い』という、早速クラスの中でも優秀か、平均か、それとも落ちこぼれになるかをふるいにかけるような状況になってきた。

 一方で……


「というわけで、シィ~さ~ん♥ 今日の授業はパパっと終わらせて、んふふ~、放課後はワタクシとハグハグ(*´з`)チュッチュとしっぽりしませ~ん?」


 フォルトは「シィーリアスなら余裕に決まってる」と分かっているからこそ、そんな話をしてシィーリアスの腕にくっついた。

 だが、シィーリアスは……



「うーむ……これは、初日の授業から由々しき事態だ」


「……ぱぁ?」



 余裕などまるでない、実に真剣な眼差しで腕組んで目標物を睨んでいた。

 それは……


(困ったな。普通なら別に問題ないのだが……今の僕ではあの距離にあるあの目標物を破壊できるだけの魔法を放つことができない……基礎中の基礎のそよ風や火の玉だけでは……っていうか、先生……これ……詰んでないでしょうか? 魔力封じて魔法学校卒業って……これ……すごく難しい課題では?)


 そう、今のシィーリアスは魔力に関してはFランクなのである。

 昨日のカイとの小競り合いははあくまで「戦闘」であるために、身体能力や戦闘技術を駆使して圧勝できたが、魔法を使った授業はシィーリアスにとってはAランクの実力者を倒すよりも難題とも言えると、シィーリアスは今になって気づいた。




「そもそも……ウィンドカッターすら今の僕は使えないかもしれない……」


「ぱぁ?」


「「「「はっ!!??」」」」



 それはクラスメートたち全員の反応であった。

 カイすらも眉間に眉を寄せている。

 それは当然のはず。

 なぜなら、シィーリアスは既にAランクのカイを倒しているのである。

 そして、この授業のレベルも実際にはE~Dランクの授業内容であり、シィーリアスができないということ自体がありえないのである。

 しかし……


「いや、驚かれても……今の僕の魔力はFランクだから……」

「……え……っと、シィーさん……それをワタクシたちにまだ信じろと言われましても……」

「むっ、僕はうそをつかないぞ!」


 そう言ってちょっとむくれるシィーリアス。

 すると……


「あら、ではまずはあなたから見せてもらおうかしら?」

「へ?」


 女講師がそう告げた。

 それは単純に女講師の個人的な想いもあった。


(Aランクのカイを倒した正体不明のFランク……学園長も言葉を濁されていたけど、果たして彼の本当の力はどれほどのものか……)


 女講師も含めてこの場にいる全員が「シィーリアスはFランク」というのをもはや誰も信じてはいなかった。

 仮にFランクで登録されていたとしても、それは書類上の話であると。

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