第41話 掃除用具入れ事件

 体育倉庫の扉が閉まった。


 閉まってしまった……。



「う、嘘……またかよ!!」

「ねえ、遙くん……まさか、また閉じ込められたの!?」



 取っ手を引っ張ってみる。

 ガタッと堅くロックされており開けられない。以前とまったく同じ状況となった。


「……無理だ。鍵が掛かってる」

「そんなぁ。今度は教頭先生とかに見つかったら、もうさすがに言い訳出来ないよ」


「絶体絶命のピンチかも。でもさ、遥」

「え……」


 俺は、遥かの方へ歩み寄っていく。

 不安気な表情で身を引く遥。


「もうこうなったら、体操着姿の遥をここで……」

「ちょ、やっぱりナシ! 今、わたし汗臭いもん」

「さっきは良いって言ったじゃないか」

「そ、そうだけど。引かない?」

「ぜんぜん平気。じゃあ、改めて押し倒すよ」


 恥ずかしいのか、遥は無言でうなずく。

 ゆっくりとマットへ寝かせ、覆いかぶさるようにする。汗で少し湿っている体操着に手を伸ばし――俺は。



 ……が、そこでスマホが激しく振動バイブ



 ああ、そうだ。

 俺ってば、今日はスマホをポケットの中に仕込んでいたんだった。



 取り出し画面を見ると、そこには『ヒカリ』の文字が表示されていた。なんてタイミング。



「え、誰から?」

「会長から。そうか、会長に頼んで扉を開けて貰えばいいんだよ!!」


 この前はスマホを持っていなかったけど、今はある。しかも、当時と違いヒカリや椎名のラインも知っている。外から開けて貰えば楽勝じゃん。



「なるほどね! って、遙くん。授業中はスマホ持参厳禁なんだよ」

「怒らない怒らない。おかげで外に出れるんだぜ」

「そ、それもそうか。うん、ごめんね」


 俺は、改めてスマホの電話に出た。


「もしもし、ヒカリ」

『やっほー』

「やっほーって……どうしたん?」

『いやさ、なんか不吉な予感がしてね。それで電話してみた』

「その通りだよ。俺と遥、体育倉庫に閉じ込めら――『ピーピー』――」


 へ……?

 なんか途中で電話が切れた。


 ――って、ああああああああああ!!



 電池が『1%』しかなかったらしく、たった今『0%』になってしまった。プツンと電源が切れ、画面がブラックアウト。真っ暗になった。



「終わった……」

「え? なになに?」

「スマホの電池が切れた」


「うそー!! 遙くん、充電してなかったの!?」


「悪い。俺ってギリギリまで使うタイプだから」

「もー! せっかく出れるチャンスが……」



 だけど、落ち着け。

 電池が切れる寸前、俺は『体育倉庫に閉じ込めら――』までは言ったはず。この意味がきちんと伝わっているのなら、ヒカリは察してくれているはず!



「まだ諦めるな。多分、気づいてくれているはず」

「うん、会長を信じるしかないかな」


「その間、続きするか?」

「えっ……さすがに会長に見られちゃうかも」

「だなあ。けど、せめてキスくらい」


 俺は、遥の肩に手を置く。

 ゆっくりと丁寧に唇を重ね合わせていく。けど、遥は汗を気にしているのか、少し距離感があった。……状況的に仕方ないか。



 * * *



 数分後、体育倉庫の扉が開いた。

 そこには生徒会長のヒカリ。

 良かった、あの電話は届いていたんだな。



「お待たせ、遙くん。遥さん。って、なんだか汗凄いね」

「そりゃそうだよ、こんな炎天下なんだ。体育倉庫の中は灼熱地獄だ」

「う~ん、怪しいなあ。まさか、人に言えないようなことをしていたんじゃないよね」


「……っ! そ、そんなわけないだろ」


 俺が否定すると、遥は後方で顔を真っ赤にしてうつむいていた。いかん、あれはバレちゃうぞ。



「そっか。遙くん、次は私と体育倉庫に閉じ込められてみる?」


「――なッ!」



 この会長、たまに爆弾発言するな。

 おかげで遥が石化してしまっている。

 後々が恐ろしい。



 今回は、ほぼ何事もなく体育倉庫から脱出を果たした。教室へ戻って、休み時間ギリギリ。汗を拭ってそのまま授業を受けた。



 ――放課後。



 遥はずっと席に着いたままだった。なぜか知らないが、教室にクラスメイトがいなくなってから動き出した。


「ふぅ。ごめんね、遙くん」

「いや、どうしたのさ」

「だ、だって……汗が」

「あー、そっち。でも、汗拭きタオルとか制汗スプレーしていたし、平気じゃないか? しかも、今は着替えて夏服だし」


「やだやだ。臭いとか言われたら、ショックだもん」


「いやぁ、遥は良い匂いだけどなあ。うん、別に臭くはないぞ」

「ほんとぉ?」


 俺は、くんくんと匂いをぐ。……うん、別に普通というか、制汗スプレーのレモン系の匂いがした。


「気にしすぎだと思うけどな」

「もっと嗅いで」


「え」


「遙くんにちゃんと確かめて貰うまで動かない」

「マジかよ。仕方ないな……」



 遥のあらゆる部位を嗅いでいく。俺は犬か! けど、胸のあたりで興奮した。相変わらず、すごい谷間。ここは問題なし。そのままオヘソも。うんうん、良い香り。


 さて、問題の下腹部は……。



「そこはダメぇ……」

「遥、なんか声がエロいぞ」


「だ、だって……遙くんの吐息が……」



 あえぎ声が漏れそうになったのか、遥は自身の手で口を塞ぐ。と、言ってもスカートの上からだけどなあ。夏服で薄いせい?



「う~ん、もっと近づいていいかな」

「だ、だ、だめ! それ以上は怒る」

「怒っていいからさ。ほら、股を開いて」

「そ、そんなぁ……恥ずかしい」



 俺は、もっと接近してこうと思ったのだが――廊下から声がして咄嗟とっさの判断で顔を離す。



『遙くんのクラスは、ここだよね』

『そうですよ、会長。このクラスです』



 この声は、会長と風紀委員長!

 まずい、こんなところを見られたら誤解される。


 どうする、どうすれば……あ!


 “掃除用具入れ”に隠れればいいんだ。



「遥、掃除用具入れに入るぞ!」

「え、ええっ! む、無理!」

「無理でも入るぞ」


 遥の背中を押し、掃除用具入れに押し込む。俺も中へ入る。ぎゅぅっと密着したタイミングで、教室の扉が開いた。


 ……って、これでは体育倉庫よりマズイかも!!

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