第29話 全身をメッタ刺し(愛)

 重大なことに二つ・・気づいてしまった。


「そういえば、パパさんって遥のメイド服に何も言わなかったな」

「そ、そうだね。もしかするとだけどパパと一緒に住んでいた時、日常的にコスプレしてたからかも」


「え? そうなのか?」


「うん。ほら、オタク女子の友達がいるって言ったでしょ。その子に頼まれてよくメイド服を着ていたから」


 そのオタク女子は、いったい何者なんだ。仮にもお嬢様である遥に同人誌を見せたりしているようだけど。でも、納得した。そうか、それで遥のパパさんは気にしていなかったのか。


 さて、あともう一つ・・・・だ。


「俺の飯が食われてしまった」


「そうだ、パパが食べちゃったから……う~ん。分かった、わたしのと半分こしようよ」


「いいのか?」

「うん、いいよ。一緒に食べよう」


 手招きされて、俺は遥の横に座る。遥は、直ぐに“あ~ん”をしてきた。レンゲには、黄金チャーハン。なるほど、そう来たか。


 もちろん、ありがたく頂く。


 ぱくっと食し、幸せと共に噛みしめる。次第に涙がボロボロあふれて俺は泣いた。さっきの遥パパさんのようにナイアガラの滝状態だ。



「うまっ……」

「遙くん、泣きすぎ~。じゃあ、今度はわたしに“あ~ん”して」


「なっ! 俺が遥に?」

「うん、わたしにも食べさせて」


「そんな甘えた声で強請ねだられると断れないな」



 俺が作った料理を遥に“あ~ん”して食べさせてあげられるなんて、なんたる僥倖ぎょうこう。ハッピー! 断る理由なんてない。


 今度は俺がレンゲを手にし、パラパラのチャーハンをすくう。適量を乗せ、そのまま遥の口元へ。


 ゆっくりとゆっくりと近づけ、零さないよう緩慢かんまんな動作で近づけていく。優しく、そっと――けれど確実に。



「あ~ん……うんうん。美味しいっ!」

「口に合って良かった。ほら、味付けが濃いだろ。これ、親父から教わった秘伝だから、男好みっていうかね」


「濃い方が好き。それに“あ~ん”してもらったから、余計に美味しく感じたよ。遙くんの料理を食べれて、わたし幸せ」



 ほっぺたが落ちるような笑顔。どうやら満足いただけたようだ。それから、食べさせ合いっこは続き――特製中華そば共々完食。お腹はすっかり満たされた。



 * * *



 疲労がピークに達している。


「――ふぅ」


 湯船に浸かり、溜まりにたまった疲れを癒す。今日は恐ろしい程に色々あった。今までこんなトラブルに見舞われた一日はなかった。


 教頭に生徒会長に、風紀委員長。そして、遥のパパさん。これから、一体どうなってしまうんだろうと想像もつかない。せめて、この生活だけは邪魔されないよう心がけねば。


『遙くん、湯加減どう~?』


 遥だ。脱衣所越しで聞いてきた。


「丁度いい湯だよ。悪いけど、もう少し入らせてくれ」

『うん、わたしも今入るからね』


「……はい!?」


『大丈夫。ちゃんと水着をつけるから』

「あ、ああ……」


 しばらくして水着姿の遥が現れた。黒色の紐付ひもつきビキニ。シンプルだが――遥が着ると凄まじくエロスを感じた。グラビアアイドルかよっ。



「お待たせ、遙くん。あれ、スマホで何見てるの? まさか、えっちなサイトじゃないよね」

「目の前に現役女子高生がいるんだぞ。その必要ないし」


「あー、そか。って、遙くん、わたしをオカズにしてるの!?」

「バ、バカ! そんなわけあるか!」

「え、別にいいのに。ほらほら、谷間~」


 うわっ、近っ!

 たゆんたゆんの胸が目の前で暴走していた。な、なんて光景だ。水着越しとはいえ、破壊力が凄まじい。


「は、はしたないぞ遥。もっと見せろ」

「遙くんのえっち。でもいいよ、いっぱい見てね」

「お、おう……ぶくぶくぶく」


 まったく、下半身がそれどころじゃないってーの。ジロジロ見るわけにもいかず、俺はスマホに視線を向けた。


「そういえばさ、遙くんって生徒会長さんと仲良かったっけ」


「ん。いやー、話したことなかったけどな。今日、突然話しかけられて俺もビビったよ。あの高嶺たかねの花とか言われてる生徒会長が俺に興味を持つとか、どうなってるんだ」


「なんか遙くんって、わたしと結婚してから妙にモテるようになったよね」

「なんでだろうな。俺も不思議だよ」


「可愛い女の子ばかり近寄ってくるし……浮気したら、問答無用で容赦なく刺すから」


「え」


「誰かに奪われるくらいなら、遙くんの全身をメッタ刺しにして、わたしも最期に死ぬの」


 腕を丁寧に洗いながら、遥は“病む病む”を発動。最近、どんどん悪化しているような。こりゃ、下手な行動は死を招くな。



「ひとつ教えてくれ、遥。どうして、そんなおっかない行動をするんだ」

「……だって、遙くんを誰かに取られちゃったら生きていけないもん。それが他人の女とか絶対に許せない。だったら、遙くんも相手の女も抹殺まっさつする」


「抹殺すなー! いや、けど……そこまで言ってくれるのか。嬉しすぎるよ、それ」


「うん。プロポーズされたあの時から、わたしはずっと遙くんばかり見てる。日常が大きく変わって、毎日がドキドキ。一緒にいると楽しいの。だから、離れてると辛いし、遙くんのことが気になって不安になっちゃう」



 なんだ、気持ちは一緒だったんだな。それを聞けて俺は安心した。俺も近頃は、遥に依存しつつあったんだ。


 ……そうか、日に日に気持ちが変化しているし、強くなっていたんだな。

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