第2話ランチタイム

小林千紗は暖かい春の日差しを浴びながら、グラウンドの端っこのベンチに座りサンドウィッチを食べていた。今年の春からこの旭高校の数学教師として赴任してきた、教師歴4年の新人だ。

旭高校は進学校として有名だが、中部都市の中心部から離れているので、周りには山があり、田んぼもある。

彼女は咀嚼したサンドウィッチをカフェオレで流し込んだ。

そこへ、二人の男が近づいてきた。

国語教師の貴島宏樹と世界史教師の神岡智弘だった。

この2人の先輩に小林はずいぶん助けてもらった。


この高校では人気のある教師はアダ名が付けられている。

貴島は【ヒロ坊】、神岡は【トノ様】、そして小林は【マドンナ】であった。

マドンナはたった2週間程で生徒に馴染みアダ名で呼ばれるようになった。

実は、この男達が"マドンナ"と言うアダ名を付けて流行らせたのであった。

2人がこのベンチに来たのは他でもない、喫煙の為だ。25年前の1997年当時は教師は学校で喫煙していたのだ。

マドンナは喫煙はしない。

すると、ヒロ坊とトノ様が喫煙していると、

「あら~、マドンナちゃん。若いっていいわね~。この男たちに口説かれてたんじゃなぁ~い?」


「おい、キャサリン、オレ達は紳士だ。なっ?ヒロ坊」

「キャサリン、髪切った?」

「あら~、誰かさんとは違ってお目が高いわ~貴島先生」

この、【キャサリン】と呼ばれる女は保健師の西里美と言う名前で、ダイナマイトなボディーだから【キャサリン】なのだ。

キャサリンはセブンスターを吸っていた。

マドンナはこの短い昼休み時間が楽しくてしょうがなかった。

雨の日は、キャサリンや他の女性教師と一緒に生徒に混じり学食で日替わりランチを食べたりした。

そして、ホームルームが終わるとバトミントン部の顧問なので帰宅の準備をするのは7時過ぎが多かった。しかし、彼女は充実していた。

そこに、1人の男が近寄る。

「やぁ、小林先生。今夜、食事でもどう?」

話し掛けてきたのは、広瀬幸治だった。彼は教頭であり【青シャツ】と呼ばれていた。


慣れていない学校で、2人きりで食事なんてしたくない!マドンナは心の中で祈った。誰か助けてくれと。

「あら、お二人さん。ウッス、教頭」

職員室に現れたのは、ヒロ坊だった。そして、「キラッキラキラッキラスタースター、キラッキラキラッキラスター……あら、まだみんないたの?」

トノ様は恥ずかしそうに、頭を掻いた。

「お先に失礼」

青シャツは帰って行った。

「皆さんありがとうございます。最近、教頭先生が毎日の様に私を食事に誘うんです」

うつむき加減にマドンナは話した。

「じゃ、3人で帰ろっか」

3人は正門を閉じて学校を後にした。

「な~お二人さん、ちょいと引っかけない?」

トノ様が提案した。

2人は待ってましたとばかりに、賛成した。

「マドンナ先生、今夜は愚痴を聴いてあげるから、思いっきり飲みなさい」

「……はいっっ!」

3人は割烹料理屋へ吸い込まれた。



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