7 別の宿屋だよ

 風精霊の宿り木亭に帰って夕ご飯を食べた。


「あ、このスープ美味しい」


 昨日とは違うトマトベースのスープだった。とっても美味しい。

 トマトはなんだかんだ言って好きだったりする。

 うん、今朝はこの宿はハズレかもしれないと思ったけど、たまたま昨晩のスープが普通だっただけで、別段悪いわけではないかもしれない。


 そして翌日も普通に薬草と薬瓶を買ってきて、お水を噴水でんで、ポーションを錬成して、売る。

 実演販売は続行だ。ちょっと恥ずかしいけど、それはしかたがないと諦めよう。


 一日けっこう販売したからお金もそれなりに貯まってきた。王都のポーション価格が高めなのがうれしい誤算かもしれない。


 ちょっとお試しで、フリマのその辺の人に他の宿を聞き込み調査をしてみた。

 そうしたらなんと、今泊まっている風精霊のところが一番人気だった。

 経験は重要なので、一度宿に戻り、部屋に置いてある鉢植えを回収する。


 そして『水鳥のもふもふ巣亭』という宿に泊まってみることにした。


「お嬢さん、こんにちは。何泊していくかい?」

「えっと、とりあえずなので、一泊でいいですか」

「もちろん一泊からでも全然問題ないよ。では二階のお部屋へどうぞ」


 外観は風精霊よりは立派だけど、内装はむしろ質素だ。ちょっと隙間風が入ってきそうなぐらい。古いのだろうか。

 顔を引きつらせつつ、二階へ進む。


 鍵を開けて個室の中へ入る。値段は風精霊よりもちょっと高い。銀貨六枚だった。


「うっ、覚悟してたけど、やっぱり狭いね」

「きゅっきゅっ」


 ポムもポンポン跳ねているけど、ちょっと窮屈そうだ。部屋が風精霊よりも狭い。そして天井が低い。薄くほこりも積もっている。


「まあ、しょうがないよね。贅沢ぜいたくは敵だ。貧乏暇なし、あくせく働く!」


 いつもの標語を言って、そういうことにする。


 というか部屋が狭いだけでなく、ベッドや枕も固い。中身が違う。

 これは安い宿とか特有の干し草を詰めたものだ。別に干し草が悪いということではないけど、風精霊のお宿ではワタの枕だったので、サービスの品質が違うと思う。

 個室でこの品質は、ちょっとよろしくないと思う。


「やっぱり風精霊さんのほうがよかったみたいだね」

「きゅっ」


 ポムもそれには同意してくれているらしい。

 夕ご飯を食べに一階に下りて、食事をいただく。


「いただきます」


 えっと黒パンにスープのみ。まだ飲めないけどお酒、お肉とかは別料金だ。

 宿泊とセットの食事は質素そのもの。

 ほとんど透明なスープをスプーンですくって飲んでみる。


「う、うん?……」


 塩味はするけどそれだけ。なんか旨味とか野菜の出汁とかが足りない。具もあんまり入っていない。干肉を戻したものが入っているけど、スジとかも入ってて固い。


「まあ、そうだよね」

「きゅきゅ」


 ポムはこれがご飯でなくてよかったね。きっと新鮮な薬草のほうが美味しいと思うよ。

 残念な食事を済ませて部屋へ戻った。


「とにかく今日はここで寝るしかないもんね。おやすみなさい」


 ポムとともに就寝する。




 翌朝、起きて準備をして、そして朝ご飯も食べたけどあまり美味しくなかった。

 何が悪いかははっきり言えないんだけど、とにかく美味しくはない。

 なんだろう。ちょっと改良するだけで全然違うんだろうけど、なんだろう。そうだ、胡椒こしょうだ。

 胡椒はちょっと高いんだけど、それがまったく入っていない。胡椒をけちると、味がいまいちなのだ。

 本当に少しの違いではあるけど、塩だけスープはもう少し頑張ってほしい。


 植木鉢を含むすべての荷物を背負って、宿を出る。ここなら風精霊でお世話になったほうがずっと快適だと判明した。

 なあに。何事も経験だよ、ミレーユ君、と誰かに言われそうだ。

 あはは。そうですよね。不味いご飯も経験ですよね。


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