【短編】【焼却炉の魔術師】と呼ばれ、バカにされながらもごみ焼却のバイトをこなしていたら、嫌がらせでバイトを首になり、何故か王子と仲良くなりパーティーに出席する事になった

ぐうのすけ

学園を辞めさせられ、バイトも首になった

「フレイア、学園を辞めて欲しいの」

 私はランチを食べながら対面に座るアクアに言われた。


 アクア・マリンは、淡いブルーの瞳とブルーの髪の男爵令嬢だ。

 アクアは汗をかきながらハンカチで何度も汗を拭う。

 学園では珍しいショートカットの髪を何度もいじる。

 短い髪は他の貴族にいじめられないよう配慮しているのかもしれない。

 その顔は優しそうで、いじめをするようには見えない。


 私の名前はフレイア。

 灰のようなグレーの髪と、グレーの瞳で、もうすぐ学園の2年生になる。

 髪は他の貴族令嬢たちの長い髪と違い、肩までかかる程度の長さにしている。


 貴族とお金持ちばかりの学園に通いつつ、平民の16才で、バイトをしながら生活している。

 私が学園に通うことが出来ているのは、国の方針で学園の学費が免除されているからだ。


 アクアは何度も拭ったハンカチをテーブルに置いて、ハンカチのバラの刺繡を何度かとんとんと指で叩いた。


 その動作で私はすべてを察した。

 アクアは侯爵令嬢のマリー・ブラックローズに脅され、私に学園を辞めるようにと言わされているのだと。

 そして、私が学園を辞める以外の選択肢が無い事も悟った。


 アクアから目線を外さず、周囲を観察すると、マリー・ブラックローズと2人の取り巻きが私を横目で見てくすくすと意地の悪そうな笑みを浮かべている。

 マリーは金髪の髪を腰の近くまで伸ばし、ブルーの瞳で顔立ちは整っているがどこか威圧感を覚える凄味があった。


 アクアは男爵令嬢で、マリーは公爵令嬢。

 アクアが逆らえるはずもない。






 思えばマリーには虐められてきた。


 他の生徒が居なくなるとマリーの取り巻きが私を呼び出し、取り巻きが私に悪口を言うが、マリーは決して自分から悪口を言わない。

 取り巻きだけが私に悪口を言うのだ。


「平民風情がこの学園に通うのはふさわしくありませんわ」


「また今日もバイトですの?焼却炉の魔術師さん?」


「その瞳も髪の色も焼却炉の灰を被ったから汚い灰色に染まったのではありませんの?」


「炎魔術しか使えない落ちこぼれがよくこの学園に入園出来ましたわね。まさに奇跡ですわ。1つの属性魔術しか使えないのはあなただけではなくて?」


 何度も言われ続けるが、マリー自身は決して悪口を言わず、他の生徒がいる前では絶対に取り巻きも悪口を言わない。


 マリーは陰で私をいじめ、しかも取り巻きに言いたいことを言わせている。

 マリーの顔を見て私は前からそれを察していた。


 今回の事ではっきりした。


 私はマリーに目をつけられている。


 マリーやその取り巻きが舞踏会に行く前も毎回嫌味を言われた。

「舞踏会が楽しみですわ、最も、毎日灰まみれのあなたには関係ないのでしょうけど」


 と、見せつけるようにドレスで着飾り舞踏会へと出かけて行く。


 他のみんなが舞踏会に行く間、私は焼却炉のバイトをこなす。


 惨めだ。


 でも、貧民の私に舞踏会は縁の無い話。


 一生行くことは無いのだろう。



 



 私はアクアの呼びかけで現実に引き戻される。


「わ、分かったわ。学園を辞めるわ」


「そ、そう、ありがとう」


 アクアはそう言って何度も髪をいじる。

 落ち着かずそわそわしっぱなしで見ているこっちが可愛そうになってくるほどである。

 縋るように私を見つめるその目は捨てられた子犬のようにも見える。


「すぐに学園長に伝えてここを出ていくわ」


 マリーとその取り巻きは更に口角を釣り上げるように邪悪な笑みを浮かべた。

 私はその日、学園を辞め、逃げるように学園の門をくぐって外に出る。


 学園の門を出る時、クラフアイス王子に睨まれた。

 王子が近づいてくるが、私は逃げるように距離を取る。


 たまに睨まれていたけど、もう悪意はたくさんよ!


 私は走って逃げだした。




 


 学園を出ると涙が出てくる。


「まだ1年しか通って無いわ」


 もう学園には通えないだろう。


 私は貧民街に住み、早くに両親を亡くしたが近くに住むおばあちゃんが私を拾って育ててくれた。

 コレットおばあちゃんにもっとまともな生活を送ってもらいたい。

 学園を卒業出来ればまともな職に就ける。


 そう思って頑張って来たのに。


 おばあちゃんを思い出すと更に涙が出てくる。


 弱気になっちゃ駄目!まだ焼却炉のバイトが残っている!


 私は涙を腕でごしごしと拭いて焼却炉のバイトに向かう。







 私が焼却炉に着くと、おじさんに声をかける。

「おじさん、今日もよろしくお願いします」


「あ、ああ、そうだね。よろしく頼むよ」


 おじさんに元気が無い。


 私は嫌な予感がしたが、不安をかき消すように炎の魔術でゴミを燃やした。


「ファイア」


 私は1つの属性魔術しか使えない落ちこぼれ。


 でも私の炎魔術には変わった特性があった。


【炎がしばらく燃え続ける】という特性だ。


 マリーの取り巻きには馬鹿にされたけど、この特性は焼却炉のバイトと相性が良かった。


 炎が一定時間消えない為、たくさんのゴミを燃やすことが出来た。


 焼却炉に運ばれてくるゴミは魔物の死骸が多く、中々燃えないので、私の炎が役に立った。


「ファイア!ファイア1ファイア!これで今日のゴミは終わりですね」


「フレイア、すまないがここのバイトは今日で終わりだよ」


「え!」


 おじさんが苦しそうに声を張り上げた。

「今日でフレイアは首だ!」


「ど、どうしてですか!」


 本当は分かってる。


「それは……」


 マリーが手を回したって分かってる。


 ここはブラックローズ家が管理する焼却炉。


 本当は分かっていた。


「と、とにかく、もう今日で終わりなんだ」


「わ、分かりました」


 私は泣きながら家に帰った。






 私は泣きながら家に帰る。


「フレイア、おかえ、どうしたんだい?」


「学園を辞めさせられて、焼却炉のバイトも首に、首に、ううう、はあ、ああううあ」


 「泣かないでおくれ。いいんだよ。貧乏でもいいんだ。わたしゃ、フレイアが元気ならそれでいいんだよ」


 2人で抱き合って泣いた。


 その日2人は絶望し、その後希望を見出す事をまだ知らない。

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