異常性癖恋愛短編「ケダモノの傷」

西城文岳

生への痕跡(火傷痕、噛み痕)

「ねぇーねー亮ちゃん」

「ん?何だみそぎ?」

「本当にあたしで良かったの?」

「またその話か。何度も言ってるだろう」


 俺の自宅のソファーの背もたれの上で猫のように寝そべりながら彼女、琴浦禊はその下で寝そべる俺に問いかけてくる。


「こんなのなのに?」


 そう言って彼女が下げたふくらみの無いシャツの下。

 胸の小さい女だと言いたのかと、普通は思うだろう。

 実際スポーツブラにそれは隠されている。


 だがそれよりも目立つのはその下の大半を覆う赤白い痕。普通の人間なら思わず目を背けてしまいしまいそうな大きな火傷。その中にいくつか切傷や点のように続く傷跡も目立つ。

 禊のスベスベした肌に混じるその異様な紋様が彼女に纏わり着く。


「こんな傷があるのに」


 そう言う顔は自分のこの傷を嫌っていると言うよりも、その次の言葉を求めて待ちかねてだらしなく興奮している顔だ。


「それは何であれ、禊の生きた証じゃないか」


 彼女の服の隙間に手を伸ばし傷を擦る。

 自分を肯定できないから、不安を感じた時に俺にそうしてもらう。

 いつもの日課だ。

 

「どんな傷を受けてもお前は生きてる。禊の持つ生命の力強さの表れ。俺はそれを凄いと思うけどな」


 上にいた彼女を引き吊り下し、ソファーの上で仰向けの俺に乗せる。


「なんでみんなそれを嫌がるか、俺にはわからんね」


そう言って首筋の火傷痕に口付けする。


 傷の何が怖いのか俺には解らない。俺にはそれがタトゥーやピアスと同じようににしか見えていない。ただそれは望まず出来たか、望んだデザインではないものだが。

 だが、だからこそ、自然の猛威や理不尽な事態に抗った証拠だからこそ、それらよりは美しく映る。俺にとってそれはその人間の生にしがみつく意思、生命のタトゥーなのだ。


「……もういいから」


赤くそっぽを向いて俺を引き離そうと彼女はか細い声で静止して来る。


「待って」


離れようとする彼女の背に手を回し、そのまま彼女の首筋に嚙みつく。


「………!」


その痛みに顔を顰める彼女に俺は新たな傷を加えた。


「亮ちゃん……またなの?」

「ああ」


禊の傷、火傷と大きな切傷以外は全て俺が付けた。と言っても殆ど嚙み傷だが。


「キスじゃダメなの?」

「そんなんじゃ、残らない」


 この女は俺のモノだと、俺だけの形を残したい。俺の嚙み傷タトゥーを刻みたいと言うのはそれ程間違っているのだろうか?


「もう、意地悪なんだから……」


そう言うと彼女は俺の首元に嚙みついてきた。

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