アンバランスでテンプレートな学園ラブコメ

ロウ=K=C

一人の男性教師と三人の女生徒



 いつもと変わらない日常。

 いつもと変わらない教室。

 今日もまた、そこで、いつもと変わらない学園ラブコメが行われる。


「よーし、出席を取るぞー」


 俺……西條彰人(さいじょうあきと)は、出席簿を手に持ちつつ、教壇上から教室内を見渡す。

 眼の前の生徒達の視線が、一斉に俺に集まる。もう既に何回も繰り返されてきた光景だ。

 全員揃っている事を確認してから、俺は出席簿を開き、それに視線を落として点呼を始める。


「……高峰碧(たかみねあおい)」

「はい!」


 とても元気の良い、よく通る声が教室内に響くと共に、ガタッと音を立てて、その声の主である女性が立ち上がる。

 その勢いで、窓から差し込む光を受けてきらきらと輝くショートの黒髪がサラリと揺れる。よく整った顔立ちの中でも一際目を惹く、くりっとした大きめの瞳が真っ直ぐに向けられ、俺を射抜く。


「あー、いつも言うけど別に立ち上がらなくていいからな?」

「あ、はい。えへへ、つい……」


 恥かしげに微笑を浮かべながら、ゆっくりと着席する高峰。


「続けるぞ、平内美希(ひらうちみき)」

「はい」


 点呼に、着席したまま少しだけ手を挙げ、静かに返事をする女性。

 彼女は、白髪にも見える位、色素の薄そうな銀髪セミロングで、大体いつも少し眠たげな表情をしているのが特徴だ。


「では次、皇椿樹(すめらぎつばき)」

「は、はい……」


 蚊の鳴くような、とても小さな声が聴こえる。それは他に物音がしていない教室内であっても、注意しないと解らない位の声量だったが、さすがにもう慣れたので俺が聴き逃すことはない。

 声の主は、いつも落ち着いた色合いの着物を着ており、その着物と、彼女の持つ長く伸びた鮮やかな金色の髪の対比が、今日も何とも言えない優雅さを醸し出している。


「今日もちゃんと返事出来たな、偉いぞ?」

「あっ……はい……」


 皇は自分から声を出す事がとても苦手な人なので、しっかり声を出せた時には褒めてあげる事にしている。

 そんな俺の言葉に、若干俯きながら返事をする皇。そんな俺達のやり取りの様子を見た平内が、少しだけ眠そうな眼を開いた平内がジトっとした視線を俺の方に向ける。


「あれ? 碧や椿樹には一言あって、あたしには無し?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「じゃあ、なんか言って? あたしにも」


 責めるような、強請るような、何とも言えない眼を向けてそんな事を言う平内。

 すると高峰が「あーっ!」と、にやにやとした意地悪い笑みを浮かべながら平内の方を向く。


「美希ちゃん、自分だけ何も言われなくて妬いてるんだぁ……かっわいいー!」

「ばっ、ちがっ……そ、そんなんじゃないわ」


 高峰の指摘が図星だったのか、顔を逸らして明後日の方を見る平内。解り易すぎるなぁ、おい。


「あー……平内?」

「……あによ?」


 少し不貞腐れた感を出しながら返事をする。それを受けて俺は、なんだこいつやっぱ可愛いななんて内心思いながら、微笑みを浮かべる。


「今日はちゃんと遅刻しなかったな、偉いぞ?」

「あっ、うっ……何あったりまえの事言ってんのバカ……」


 そんな風に悪態を吐きながらも、表情がニマニマと笑顔の形になっている辺り、やっぱり根は素直なんだよなぁ、こいつ。


「ふふふっ、良かったね美希ちゃん……あ、あれ? でもこれってボクだけ褒められてないんじゃ……」


 気づかれたか。

 これも教師の役割とは言え、色々人を……それも、三人揃って皆美女って言える彼女らを褒めるとか、精神的に結構ハードル高いんだからな?


「ん、高峰もいつも元気で見てて微笑ましいぞ、偉いな」

「う、うん!ありがと!」


 そう言って満面の笑みを浮かべる高峰。彼女を見てると実家で飼ってた人懐っこいチワワを思い出すなぁ。


「ふふふ、碧さんも美希さんも良かったですね」


 高峰と平内の様子を見て、彼女自身も笑顔になりながら、本気で喜ばしい事の様に皇が言う。お前が天使か。

 三人とのそんなやり取りを眺めつつ、視線を教室の壁掛け時計に向けると、既に思った以上に時間が過ぎていた。


「……おっし、時間だし授業始めるぞー」

「「「はーい(はい)」」」


 そんなこんなで、今日も、変わらない日常が始まる。

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