第3話 ドラゴンの錬金術

 調理する連中に何を言っても無駄だな。ならば次は肉の方をどうにかするしかない、取り敢えず肉の保管場所を聞いた私はそこに向かった。


 食糧庫には信頼されて海賊の見張りが2人立っていた。賊でしかない海賊は腹を空かすと自分の事だけを考えた行動しかしないので船長側も見張り役くらい用意するのだ。


「お?お前は新入りか、こんな所に来ても食料は分けてやれねぇぞ」


「分かったらさっさと帰りな、持ち場を勝手に離れたりすると怒られるぜ?」


 モブ海賊に気づかわれるのは変な気分である、この船の海賊はその辺り意識高い系の海賊だ。きっとアルビス船長の人徳かなにかなんだろう。


「今日の食事の肉の腐臭が気になってしまって食べられません、どうにかしようとここに来ました」


「オイオイ、海賊が肉が腐ってるから食べられないってか?そんな繊細なヤツが海賊なんてやってられねぇぞ?」


「確かに海賊は私には合っていないのかも知れませんね。しかしこのまま何もしないと言うのも気分が悪い、一応下っ端でもやれる事があるのでしにきたんですよ」


「…………ほうっ」


 私の言葉に見張り番海賊が反応した。


「なんとかって、お前なら腐った肉をなんとか出来るってのか?ハハッ!そりゃあ傑作だ!」


「それではなんとかしてみせるので入れてくれませんか?」


「!………お前」

「入れてやろうぜ、但し、盗み食いなんてしたら……分かるよな?」


 見張り番には帯刀が許可されている、海賊のルールではその時点で粛正の許可も下りたことと同義だ。見張り番海賊の1人は腰の曲剣を見せつけてきた。


 本当ならドラゴンの私にんな真似をした時点で瞬殺なのだが、今はそれより肉の改善である。

 私は無言で頷く、すると見張り番がドアを開けた。


 中に入ると……くっムワァ~っと匂った。完全にアウトな匂いだ。一応樽に入れてあるが既に異臭がこの部屋全体を、これは早急に対応しなければ。


 私はアイテムボックスから使えそうなアイテムを出す、それは茶釜みたいな物だった。


「……なぁあの釜、どっから出て来たんだ?」

「俺に聞かれても…」


「魔法です、気にしないで下さい」


 これは錬金ポッドである、これの中に入れた物を分子にまで分解して再構成出来るマジックアイテムである。


 これさえあればなんとか出来る。何故ならこの世界の錬金術はファンタジーだからだ、道具さえあれば鉄くずを本物の黄金に出来るし腐った肉を新鮮な肉にも出来る。


 この錬金ポッドは以前私を討伐しにきた雑魚の1人である錬金術師の女が使っていた物だ。


 当時全自動レベルアップにより錬金術のスキル、つまり錬金術の知識やらなんやらを覚えた私はその錬金術師の装備やら持ち物を全て没収……いやっ錬金術師からのドロップアイテムとしてこれをゲットしていた。


 使い方は簡単だ、このポッドの中に腐った肉を適当に入れて蓋をする……そして魔力を送る。

 この錬金ポッドは錬金のスキルを持つ物にしか扱えない魔道具である。


 すると錬金ポッドが微かに輝く、その光が消えるたので中を見ると。


 ────新鮮な肉に戻っていた。


「よしっ成功したか」


「なっ!?まっマジか!?」

「どっどうすんだよこれっ!副船長に言いに行くか!?」

「そっそうだな、行くぞ!」


 見張り番共が何処かに行った、取り敢えず私はこの肉が本気に食えるのかを確認する。何しろ錬金ポッドも初めて使ったからな。


 実際に食えるようになった分からないからな。私は魔法で小さなファイアーボールを出現させる、そしてアイテムボックスからフライパンを出して肉を敷く、そしてファイアーボールの上にフライパンを持っていく。


 しばらくすると肉が焼ける匂いがし出した、ファイアーボールを消してフライパンの上の肉をアイテムボックスから出したフォークで切り分けて食べる。


「うんっまあ胡椒も使ってないしこんなもんだな」


 肉は確かに新鮮な美味い肉になっていたので一安心だ、これなら他の連中が食べても腹痛を起こす事はないだろう。


「…………ん?」


 後ろを見るとモブ海賊達が沢山こちらを見ていた、どうやら新鮮な肉の焼ける匂いが腐った肉で空腹を満たそうとしていたヤツらの鼻を刺激したらしい。仕方ないな。


「腐った肉を残してる人はこっちに持ってきて下さい。新鮮な肉にして焼き直しますから!」


 するとみんな取り分け皿の上の腐った肉を見せてきた、やはり腐った肉とか食いたくはなかったらしいな。人間なのだ仕方ないむしろ当然だ。


 その後は新鮮な肉のステーキを手に入れたモブ海賊達は嬉しそうに船内の船員室に戻っていった。ヤツらは学も碌にない連中なので錬金ポッドを見ても特に何の感想も持たなかったようだ。


 そして私も昼ご飯を済ませて休んでいると、声をかけられた。

 相手は副船長のボークだ。


「おいっ新入り!」


「はいっ何ですか?」


 もうへいっ!とか言うのも飽きたので普通の口調で行くことにした私である。


「話がある、俺の部屋にまでついてこい」


「────分かりました」


 ボークに呼び出しか。何か面倒な事が起こりそうなイメージしかないな。



◇◇◇◇◇◇



 そしてボークの部屋に移動する。私達下っ端海賊が4人で狭い部屋を使っているのに、コイツは1人で広めの部屋に机やソファーまであるのか。


 異世界の格差問題も深刻である。ドラゴンキレる5分前だな。


 ボークはソファーに腰掛け、私は立たされたまま話が始まった。


「部下から聞いた、あの食糧庫で見張り番をしていた2人だ」


 ああそう言えば、コイツに何か言いに行くと言っていたような……成る程、だから私の元に来たのか。


「何でも……腐った肉を新鮮な肉にする事が出来る釜だとか、魔道具か?どこでそんな物を手に入れたんだ」


「船に乗る前から持っていた私の私物です」


 私の返事にボークはイヤラシイ笑みを浮かべた。


「私物?分かっていないな、この船にいる者はその持ち物から命にいたるまで全てアルビス船長とオレ、ボーク副船長の物なんだよ」


「…………」


 本当に人間ってこう言う事を言い出す阿呆は嫌いだ。私の所有物が貴様の物になる道理が何処にあるこのど阿呆が。


「フンッそのマジックアイテムとやらを見せろ」


「何故ですか?」


 ボークは懐から銃を取り出して私に向けた。


「オレは馬鹿と雑魚が嫌いだ。1度言えば理解しろっ貴様の私物はオレの物なんだよ、その魔道具や他にも何か持ってるなら………全てオレに差し出せ」


 異世界のパワハラ、ここに極まれりだな。


 このオッサン、実に海賊らしい物欲の塊みたいな男だ。まああの錬金ポッドも私だって奪った物だ。コイツのやり方を私は非難出来ないし、そもそもする気もない。


 何故なら………私はドラゴンだからだ。


 ゲームや神話でもドラゴンって溜め込んだお宝に執着して護る存在として描かれる事は多い。

 そんなドラゴンな私の物に手を付けようと言うのだ、むしろこのオッサン勇者を心の中で賞賛する。


 

 しかし賞賛はするが分別はつけるべきだろう、どれっ竜の所有物ものを奪おうなんてしたらどうなるか、教えてやるとするか。





 


 





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