第4話 ランチビール

 さんざんメニューを睨んで迷ったあげく、みんな本日のランチに決まった。

「お飲み物はどうしますか? コーヒーかグラスビールを選べますけど」

「私ビール」

いち早く返事をしたら結局全員同じ物を頼んでいた。


「かんぱーい」

 グラスを合わせる音が店内に鳴り響き、また他のテーブル席の客の注目を集めていた。

「シーちゃん、まさか未成年なんてことあらへんよね」

「いやー、私そんなに若くないんですよ」


「んじゃ、シーちゃんは、ほんまはいくつなん?」

 誰も嘘の歳なんか言うてへんと思うけど。

 訊きにくいことをズバリ訊く斬り込み隊長ウメ。

 3人の視線がいっせいにシーちゃんに集まった。


「27です」

「へえ、新婚って聞いててたから、もうちょっと若いかと思た」

「私、バツがつくんです」

 シーちゃんは顔の前で割り箸をクロスさせバツを作った。


 掘り下げ隊長でもある、ウメの目が輝くのを見逃さなかった。

「まあ、人生いろいろあるわ。で、ヒロセさんがどないしたん」

 話の方向転換をはかるのはオカンの得意技。

 それともシーちゃん、話を聞いてほしかったのやろか。


「商品の担当替えの話は自分勝手やと思うけど、まあええわ。問題なんは仕事中に私らが大笑いしたことがあって、ヒロセさんのことを笑っていたやろって言うねん。確かに大笑いはしたかもしらんけど、あの人のことを話題にしたこともあらへんのに、頭おかしいんと違う」

「へえ、そんなこと言うてたん、難儀やね」


「あそこの担当は、私らより時給がええのよ、それなのに文句ばっかり言って」

 今まで黙々と鶏の唐揚げをついばんでいたカメが口を開いた。

 へえ、担当の場所によって給料が違うんや、初めて知った。


 そやけど、その話はええってウメが言ってたやろ。

 カメは納得いかんのか知らんけど、何も蒸し返さんでもようない。

 これは一気に飲み干してしもうたグラスビール一杯で聞ける話やない。

 自分の話だけをして、人の話を聞いてはおらん。そんな堂々巡りが始まろうとしていた。

 こないな不毛な時間を過ごすくらいやったら、家で撮りだめした韓国ドラマを観ていたほうがましやった。


「ランチタイムのラストオーダーになりますけど、ご注文はありませんか」

 先ほどの店員が銀色のおトレイを持って佇んでいる。

 かき入れ時に長居する迷惑な客と思われているのやろな。









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