第13話 教会荒らし



「クソッ!!サイッッアクだっ!」


エドガーくんは帰ってくるなりイライラした様子でぼんっとソファに座った。自分の隣に外套を放り投げる。

すると、私の隣に座ってたエリックくんが嫌そうな顔をする。


「うわ、もうなんなんですかっ」


「制服シワになるよエド」


そう言いながらコルネさんはエドガーくんの前に紅茶を置いた。


「クソ兄貴に会っちまった」


「クソ兄貴?」


エドガーくんの言葉に私は首を傾げる。


「エドガーお兄さんと仲悪いんだよ。…会っちゃったの?」


「親父に呼ばれて偶然来てたみてえ。クソ気分悪い」


コルネさんは困り顔で、エドガーくんはため息をつく。エドガーくんはお兄さんが相当嫌いらしい。


「どんな人なの?」


「あー…ロバートさんって言うんだけどね、まあ冷たくてなんていうか…プライドエベレスト級っていうか……」


「すっげえイヤミなやつ!!!」


エドガーくんがコルネさんの言葉を遮って叫んだ。なんかすごく怒ってる。

もしかして、何か言われたのかなあ……?

エドガーくんがちらっとエリックくんを見た。


「なんか収穫あったのかよ」


「ああ、いえ。今日は何も…。書庫にはそれらしき本はなかったですし、母さんに聞いてみたんですが、悪魔のかけた呪いを解いた前例は無くて…もっと知ってる人がいるかもって言われたんですけど…ちょっと事情があって最終手段にしたいんです」


「?ふーん?よくわかんねーけどあんま悠長なこと言ってられねーぞ」


「エドは?」


腕を組みながら背もたれに寄りかかるエドガーくんにコルネさんが尋ねる。


「クソ兄貴が書斎行きやがったから見ずに帰ってきた。手ぶらじゃなんだから親父に話聞いたり、色んな教会回ってみたけど収穫はねえ。明日もっかい行く」


「うーん…そっかー…」


「おまえらは今日何してたんだ」


今度はエドガーくんが私達に尋ねる。


「自由市場だよ。エルちゃんの生活費稼ぎにね」


「ああ、アレか。なるほどな…」


「あとは人気のお店でお昼を食べてきたんだけど…、そういえば店員さんが不穏なこと言ってて…」


「不穏なこと?」


あ、小さい店員さんが言っていたことのことかな、と私は思い出した。


「あ、あの、フロスト神父のいる町外れの教会には悪魔が住んでるって…」


「悪魔…?」


私の言葉にギンくんがピクリとする。


「そういやおまえ教会調べたいとか言ってたな」


あ、そういえばそうだった。ギンくんは教会が気になるって言っていたんだ。


「…ああ、午前中は寝ていたから午後、街で聞きこみして少し調べてみた。あのシンクって男が前神父の実の息子なのは間違いないらしいが……、まあ気になるところといえば、『昔と名前が違う』って言っている人がいたくらいか」


「名前が違う?」


エドガーくんが怪訝そうな顔でギンくんの話に首を傾げる。


「あそこの息子はシトロン・ヴルームだったはずだと…しかし、見た目も性格も何から何までそっくり同じだから息子なのは間違いないらしい。何故か改名している」


「ええ…?なんでだろう…」


コルネさんが困惑した。私やエリックくんも首を傾げた。

名前を改名って、何でだろう…?


「それから前神父だが…、惨殺されたらしい…教会もぼろぼろに壊されて孤児も何人か殺された。前神父は爪や皮を剥がされたり骨を折られたり目を潰されたり…酷い有り様だったようだ」


「うえっ…なんですかそれぇ…気持ち悪い…字面だけでヤバすぎません?酷い話ですね…」


エリックくんが口を手に当てて顔を歪めた。私もちょっと想像してしまって嫌な気分になる。

そんな死に方酷すぎる。私が来たときにはシンク神父だったから私が来るよりもう少し前の話だろうか。

前神父は確か、シンク神父の父親だったはずだ。


「前神父の惨殺に息子の改名…なんか、全く何もないわけではなさそうだね…」


……、誰がそんな酷いこと……。


「単純に父親の最期を見てしまって、父親につけて貰った名前を呼ばれると思い出すとかじゃないですか?…、自分の父親が惨殺とかトラウマでしかないでしょう…」


エリックくんが目を伏せる。それにコルネさんが頷いた。


「うん、疑う理由にはならないよね…」


「それさぁ、教会荒らしじゃねえ?」


「教会荒らし?」


エドガーくんの言葉にギンくんが眉をひそめる。


「今日教会回って聞き込みしてるとき聞いたんだよ。教会狙って神父やシスター殺して聖堂ぶち壊す頭のおかしい奴がいるって。数年前に出て、居なくなったと思ったら最近またちらほら話を聞くってよ」


「罰当たりなやつがいたもんですね」


エリックくんは宗教家ではないけど罰当たりとか思うんだ。まあ無宗教でも神様を信じてる人はいるよね。


「魔法使ってる様子はねえから魔術師とかじゃなくて一般人みてえだけど…教会に何か恨みでもあんのかな」


「恨みにしては派手なことするねえ…、今の今まで捕まってないのも不思議だな…」


コルネさんがそう言ってため息を吐いた。不思議だし、まだ犯人が野放しなんてとても怖い。


「わかった。それについても調べてみよう。何が出てくるかも知れない。俺は明日はまた教会に行ってくる。他の教会も確かめてくる」


「おう頼む」


ギンくんとエドガーくんこういう時は息が合っている気がする。

コルネさん除く三人は喧嘩ばっかりしてるけど、チームとしては相性やバランスがいいのかも。

話が纏まるとさて、とエリックくんが立ち上がった。


「今日の夜番は僕がしますね~、準備してきます」


「ありがとう、トイくん。あ、でもその前に先ずは晩御飯だね!今煮てるからもう直ぐできるよ。そしたら持ってくるね」


「あ、私も手伝うよ」


「ありがとう、エルちゃん」


お礼を言われるほど大したことじゃないのに。


私のためにみんな色々考えて頑張ってくれてる。

でも、私に出来ることってこれくらいしかないから。


もう少し、みんなの役に立ちたいなあ…。

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