第2話 幼なじみ

「こう言う時のためにスマホのマップがあるんだな!」


 何とかスマホでこれから住む家に到着出来そうだな…うん!


 そう言う彼はハチ公前で倒れているヤバい人を跨いで何事も無かったかの様に歩き始めた。


「ここか…って前にも住んでた家なんですけどね」


 数年前、諸々の事情で引越ししてからはや10年…意外と変わってない?

 7階建てのマンションの3階。

 305号室が今日から俺の家だ。


「さて、荷解きやりますか…」


 鍵を開けて部屋へ入ると、懐かしい景色が広がっていた。

 あの頃より少し低く感じるキッチン。窓から入る日射し。何故か寝っ転がりたくなる和室。

 色々懐かしいけど…俺1人には広くね?


「はぁ、とりあえずコンビニでも言って飯買うか」


 ある程度の荷解きを終わらせて、お腹が空いたので近くにあるコンビニへと行こうとした。

 しかし、ドアを開けるとこれまた懐かしい顔に会ったのだ。


「あれ?龍ちゃん?」


「ん?…あッ!琴美ことみちゃん!お久しぶり〜」


 10年前、よく遊んで貰っていた年上のお姉さんこと琴美ちゃんに玄関先で出くわした。

 おい、やめろ桜!ここで綺麗に舞うとなんか運命的な何かを感じちゃうでしょ!?


 みなみ琴美ことみ

 年齢 18歳(大学一年生)

 身長 158cm

 体重 Secret

 龍太の幼なじみであり、美人なお姉さん。

 赤いショートボブの髪が特徴的な成績優秀、運動神経抜群、スタイル抜群の完璧美少女。


「どうしたの!?急に!久しぶりじゃん!」


 琴美ちゃんは綺麗な髪をなびかせ、俺の手を握ってブンブン上下に振り回してそう言った。


「4月からこっちの学校なんだ〜」


「ってことはまた龍ちゃんとお隣さんだねぇ!ってかおっきくなったねぇ!」


 まだ両手ブンブンは収まらず、興奮している様子だ。

 イカン、俺の両手が上下に揺れる度に琴美ちゃんの兵器もブンブンと上下に揺れる。いやプルンプルンと言った方が適切か。


「琴美ちゃんも、おっきくなったね…」


 その時琴美ちゃんの拳は俺の頭に落とされた。


「痛ッぇ!」


「ちょっと!どこ見て言ってんの!殴るよ!」


「仕方ない、男は皆…万乳引力には逆らえんのだよ」


「やかましい!」


 実はこの会話、と言うより似たようなやり取りをするのがこの2人の日常であった。


「そう言えば虎は?」


 もう1人いたはずの幼なじみの姿が見当たらないので聞いてみる事にしたが、琴美ちゃんの顔は少し暗くなった。


「虎ちゃんはね…忙しいみたい」


「…そっか」


 俺はあえて何も聞かないことにした。

 聞きたくないと言うのもあるが、何より琴美ちゃん、もとい全ての美少女の暗い顔を見ていたくない。


「ところで龍ちゃん今からどこ行くの?」


「あぁ、荷解き終わったから今からご飯を買いにコンビニへ向かおうとしていたのだよ」


「それじゃあ家で食べてく?」


「おっとぉ?これは綺麗なお姉さんからのお誘いか?」


 ふむ、シチュエーション的には素晴らしい。ここから徐々にいやらしい展開が…ムフフ。


「やかましい童貞」


「はぁ!?どこで俺があれで理由が童貞だよ!?」


「図星突かれ過ぎて文法がめちゃくちゃじゃない」


「ちくしょう!そんなに俺が憎いか…世界!」


「世界に恨まれてるんじゃなくて龍ちゃんがヘタレなだけでしょ?」


 くそぅ、大人しく諦めるしかないか…。

 まだ高校一年生だし機会はいくらでも…あると…信じたい。


「とりあえずそんな戯言は置いといて家に入って!」


「今戯言って言った?」


「キノセイダヨ!」


 何故ちょっと棒読みなのだろうか?

 俺は琴美ちゃんに背中を押され、家に連れ込まれた。

 かなりいい匂いだった、そして柔らかかった。


「あれ?琴美ちゃんも今1人暮らしなの?」


 入った南家は随分と静かで家具も少なかった。

 靴も少なかったし。


「そうそう、高校生の時からね…親がちょっと自立してみなさいって言うから…」


 なるほど、つまりここからいやらしい展開になっても誰も文句は言わないと。


「少しでも変な気起こしたら燃やすよ?」


「ヒッ!」


 そう言って彼女は自分の手から炎を出した。

 そう、彼女も超能力の持ち主。

 彼女は精霊を身体に宿し、その力を自由に使える精霊術師。

 彼女の中の精霊は、不死鳥フェニックスだった。

 そんな彼女のランクはS。

 そしてこの街の第2位。


 この街はランクと同時に順位も存在する。

 そのランクは世界、日本とある。

 Sランクの超能力者は世界で100人、その内の10人はここ日本の東京にいる。

 そしてそんなランキングの世界、日本の2位がこの南琴美なのだ。

 まあ、そりゃそうよね…だって細胞全て消されない限り生きてるんだもんな…。

 歳とか取るんかな?


「よく言うね、どうせ私の炎なんか効かないんでしょ?」


「炎が飛んでくる時点で十分怖いし、それに酸素が無くなったらさすがに120分でヤバい」


「2時間は生きれるんかい」


「まあ、それくらいの肺活量はあるさ」


 そして何よりみんなが気になっているであろう彼の順位。

 公式では最下位だ、まあそれは能力を持ってないから仕方ない。

 ただ、これは表向きのランキングであって裏の順位は違う…裏社会の人間や戸籍に無い人間を含めたランキングがある。

 この時代は色々進み過ぎたせいか、余計に犯罪や裏社会的活動が盛んになってきている。

 表の順位なんて正直通用するかどうか怪しいレベルのランキングで彼は0位。

 つまり、測定不能レベルで強かった。


「はい、出来たよ!」


 手際よく琴美が作ってくれた料理が運ばれてくる。

 おかしいな?俺の目にはすっごく美味しそうな冷凍チャーハンとウインナーに見えるんだが?


「お姉さんの手料理をたぁんとお食べ!」


 手料理?うん、まあしょうがない…。

 こう言う所を含め本当に可愛いと思う。

 そして彼女はテーブルの上に置いてある蜂蜜をそれにかけた。


「…新手のイジメですか?」


「え?美味しいじゃん蜂蜜チャーハン」


「この10年であんたに何があった?」


「へ?」


 きっと辛い事があったんだろう…味覚がバグってやがる。

 ヤバい、この調子だと天然ボケに俺のボケが通用しなくなる!


「とりあえず、頂きます」


 俺は意を決してそれを口に運んだ。

 無論味は言うまでもなく死ぬほど不味いが、蜂蜜とチャーハンとウインナーには罪は無い。

 命には命で向き合おう。


「ご馳走…様…でし、た!」


「お粗末さま」


 これ多分明日から琴美ちゃんに俺が料理教えた方がいいな、これはいくらなんでも将来のお婿さんが可哀想だ。


「琴美ちゃん、明日から俺が教えるよ…料理」


「え?あ、うん」


 こうして波乱万丈の1日の内、半日が終わったのだった。

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