〈間奏曲〉今から約30年前の、ある生放送のTV番組

深層Webに眠る『規制前最後のテレビ局による生放送』


「今制定されようとしているORCAオルカ法案ですけどね、私は非常に危険な事だと思っています。」

「教授は以前からそういった主張をネット上でされていますが、それはなぜか、詳しくご説明いただけますか?」

「知性イルカにとって都合が良すぎるんですよ。公共の場でのアバターのヒューマノイド率について、イルカ、人間問わずに下限を設けるのは一見筋が通っています。ただ、相手がイルカなのか、人間なのかはID情報を参照しないとわからない。ID情報の開示はお互いの同意が必要ですから、つまりこれは、街を歩く人間が、本当はイルカなのか人間なのか、わからない状態を作り出します。」

「そこが、良いところではないのですか?平等な見た目で、純粋に中身でコミュニケーションする。人間同士でも人種差別の問題は根強かった。アバターを使ったAR拡張現実コミュニケーションは、実際に差別問題の改善に貢献している、というデータが出ています。」

「あなた達はわかっていない!いいですか、単純に知性イルカは頭が良すぎるんです。社会に気づかないうちに紛れ込んで、何をするかわからない。システムの根幹は全部知性イルカの技術だ。人間換算の見た目に制限するといっても、その換算式は非公開でしょう? 政府要人になりすまして……」


 映像はここで暗転


「ただいま生放送中に不適切な表現がありましたことをお詫び申し上げます。」

「この時間は予定を変更して、『プロジェクトD イルカ界のエジソン、ウィリレヒトシャポニト博士 量子通信の夜明け』をお送りいたします。」

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