第4話 禁断

「ねぇ、秘密の話なんだけど」


 そう言って嬉しそうに私を見ているのは、友達の香織だ。

「私、恋人が出来たんだぁ」

 たぶん、そんなところだろうと思っていた。今日の香織は全身で恋してるっていうオーラが出ていたから。

「良かったね」

「うん、ありがと。でね、ほんとに内緒の話なんだけど」

 なんだなんだ、急に声のトーンが変わったぞ。

「相手がね」

 と言って、ふふっと笑った。

「何、もったいぶって」

「誰にも言わないでよ」

 そんなにコソコソして、まさか不倫か?

「言わないよ」

「瑠衣さんなんだ」

「えっ」

「瞳には言っておかなきゃって思ってさ」

「そ、そう」

「応援してくれるよね?」

「え、あぁ、もちろん」


 心の中では、大きくため息をついた。

 なんで、よりによってお姉ちゃんなんだ?


 瑠衣は、私の実の姉だ。二歳差で現在は大学一年だ。

 去年までは、同じ高校に通っていたため香織とも面識はある。

 というか、部活の先輩後輩なのだ。

「読書部」という小さな部で、二人ともほぼ幽霊部員だったけれど。


「瞳、おかえり〜」

 家へ帰ると、姉の瑠衣がいた。

「お姉ちゃん、来てたんだ」

 大学入学と同時に家を出て一人暮らしを始めた姉は、それでもたまに実家へ帰ってきてはご飯を食べて、そして戻って行く。

「うん、一緒にご飯食べよ」

「私、宿題やっちゃうから後で」

「え〜、お姉ちゃん振られちゃった」なんて、茶化すように言うから。

「あら、反抗期かしら?」のんきな声でキッチンから母が顔を出す。

「ママ、反抗期は親に対して使う言葉でしょ」

「あら、あなたたち仲良しだったじゃない? それこそずっと一緒にいたのに、喧嘩? ではなさそうね」

 母が言うように、私たち姉妹は仲が良かった--あの時までは。

 私は姉の事を--


 コンコン、というノック音が私の思考を止めた。



「瞳、入っていい?」

 私が何も言わなかったら、姉は勝手に入ってきてベッドの上に座った。

「ほんとに反抗期?」

 笑いを含んだ口調で言う。

「違うし。勉強してるだけ」

「ふぅん、そういえば香織ちゃんと付き合うことにしたから」

「--香織から聞いた」

「そっか、それで?」

「は?」

「それで怒ってるの?」

「別に怒ってないし--でも」

「ん?」

「香織を泣かせたら許さないから」

「わかってるよ」

 胸がチクリと痛んだ。


「もう誰も泣かせたくないから」

 ノートにペンを走らせていると、真面目な声音が聞こえた。

 思わず振り向いて顔を見たのがいけなかった。

 私を見つめるその瞳が、私の心を騒つかせる。


「私は泣いてないから」

「そう?」

「もう、何とも思ってないから」

「なら、いいんだけど。瞳には幸せになって欲しいの」


 なんだそれ、その使い古された言い回し。

 幸せになって欲しいって?

 じゃ、幸せって何?

 姉妹だから幸せになれないの?

 私が香織の立場だったら受け入れてくれたの?


 そんな、どうにもならない思いが頭をよぎるけれど。

 もう終わったこと。

 今は、何とも思ってない。


 そう、何とも思ってない

 ただーーあの夜の--


※※※


 半年ほど前の夜。


 私たちは、はしゃいでいた。

 姉の合格発表の日だったから。

「おめでとう! お姉ちゃん」

「ありがとう、瞳」

「私も早く大学生になりたいな、絶対お姉ちゃんと同じとこ行くから」

「瞳なら、もっと良い大学行けるでしょ? 成績いいんだから」

「やだよ、お姉ちゃんとずっと一緒にいたいもん」

「可愛いこと言ってくれるね、嬉しいなぁ。新生活楽しみだ! あぁでも、瞳と離れて暮らすのは寂しいなぁ」

「え! なに? 離れてって、どういうこと?」

「あれ聞いてない? 私、一人暮らしするんだ」

 これでもかって言う笑顔の姉を見て、私は目の前が暗くなるのを感じた。



「ウソ! だって隣の市でしょ、うちから通えるのに」

「そうだけど、いろいろやりたい事あるし、家にいたら自由がないでしょ」

「やりたい事って?」

「ん? バイトとか、サークルとか、まぁいろいろよ」

 一人暮らしして、そんなことしたら、いろんな出会いがあるんじゃない?

「やだっ」

「ちょっと瞳、なんで泣くの?」

「お姉ちゃんが、どこか行っちゃう」

「大丈夫だよ、時々帰ってくるから」

 そういう意味じゃない。

「好き、お姉ちゃんが好きなの」

「ん、私も瞳が好きだよ、可愛い妹だも--」

 キスをした。

「私のは、こういう好きだから」

「えっ、ちょっと待って、一回落ち着こう」

 私は冷静だ。妹にキスされてパニクってる姉を見て、冷静に判断してる。

 今まで本当に仲良しだったから、もしかしたら両思いなんじゃないかと思ってた。お姉ちゃんも私と同じ気持ちだって信じたかった。

 違うのかな? いや、自分の気持ちに気付いてないだけかも。

 もう一度キスしようと距離を詰めた。

「瞳、ダメ。姉妹でこんなこと」

「なんで? 好きなのに」

「瞳のために言ってるの。瞳には幸せになって欲しいから」

 嘘ばっかり。

 自分のためでしょ?

 自分が自由に遊びたいために、私も家も捨てるんだ。

 裏切られた気分になっていた。

「わかった、でも一つだけお願い聞いて」

「いいよ、なぁに?」

「一度でいいから。これを思い出にして、お姉ちゃんの事を諦めるから。ね、一度だけ」

 そう言いながら、ベッドへ押し倒した。

「え、ちょっと、瞳……んっ」

 押しに弱い姉のことだから。

 案の定、押したら、強い拒否はなくなっていた。

 押し付けた唇を離し、ついばむように何度も口づけて、そっと舌を滑り込ませる。

「ンンッ……ふはぁ」

 何度か舌を絡め取った後、息継ぎをすれば、目がトロンとしている。ほら、気持ちいいんでしょ、お姉ちゃん。



 ブラウスのボタンに手をかける。

 ハッとして私の手を止めようとするが力は弱く、耳元で「優しくするから」と囁いてついでにペロっと舐めれば完全に力は抜けた。

 さっさと服を脱がせ、自分も脱ぐ。

 何度も温泉やお風呂に一緒に入っているから見慣れている。お姉ちゃんは、そんな気持ちで見ていなかったかもしれないが、私はずっと思っていた。触ってみたい舐めてみたいと。

 私よりも大きく張っている乳房がむにゅっと歪んだ。あぁ、思った通り柔らかい。思わず頬ずりをする。揉んでいるうちに形を変えたソレは綺麗なピンク色で、口に含むとビクっとなった。

「ふぁっ」声を出さないように手を口に当てて、ギュッと目を閉じている顔が私を昂らせる。

 揉んで、摘んで、舐めて、吸ってを繰り返すうちに表情が歪んだり喘いだり。

「お姉ちゃん、どう? 気持ちいい?」

「ぃや」

「よくない? やめる?」

「あぁ……ん」

 首を横に振りながら、脚を摺り合わせている。

 お姉ちゃんも感じてるのを確信した。

 手を胸から太ももへと滑らせるが、ギュッと閉じて内股への侵入を拒もうとしている。

 私は再びキスを落とし口内を犯す。

「はっ、ぁぁ」

 脚の力が抜けた瞬間、膝を割ってお姉ちゃんの秘所に到達する。

「ぁん、だめ」

 しっかり潤っている。

「お姉ちゃん、初めてだよね」

 まだ誰にも触れられていないはずだ。

 私たちは四六時中一緒にいたのだから、私が知らないはずはない。

 お姉ちゃんは、怯えた目をこちらに向けた。処女であっても何をされるかはわかっているのだろう。ただ、怯えの中にも少しの期待があるように思うのは気のせいだろうか。

「お姉ちゃん、自分でしたことはある?」

 首を横に、ぶんぶん振る。

「私はあるよ、お姉ちゃんを想ってしてたよ、一緒に気持ちよくなろ」

 指に愛液をたっぷり付けて蕾をそっとさする。

「あっ……あぁっ」

 喘ぎ声がだんだん大きくなっていく。

「お姉ちゃんのよがってる顔、可愛いよ」

「やっ、みな…いで」

 そんな潤んだ目で言われてもなぁ、ますますイジメたくなるんだよ。

「わかったよ」

 もう一度チュッとキスをして、私はお姉ちゃんの膝を大きく開いて、その間に入る。

「ひゃっ」

「きれい」

 お姉ちゃんの言葉を信じるなら未開発なソコは、愛液でキラキラ輝いていた。

 私がお姉ちゃんの初めてを。

 いただきまーす!

「じゅ…るるっ」

「あんっ、ひとみ……だめっ……はっ、きもちぃぃ」

 次々に溢れてくる液を思う存分舐め上げる。

 ずっとこのまま、触れ合っていたい。

 この時間が永遠に続けばいい。


 

 いつの間にか、お姉ちゃんは自ら腰を動かすようになっていた。

「うっ、あっ……もう、だめぇ」

 そろそろ限界なの? 私の舌で指で、イって欲しいな。

 秘所を舐め上げながら少し強めに蕾を指でさすれば、一段と嬌声があがり、お姉ちゃんは背筋をのけ反らせた。


 ぐったりとしたお姉ちゃんを優しく抱き寄せ撫でた。

「大丈夫?」

 恍惚とした表情で私を見つめる。

 あぁ、これだ。お姉ちゃんのこの顔を、私だけのものにしたい。

「お姉ちゃん、好きだよ」

「瞳--私もほんとは--でもダメ--こんなこと」

 一瞬で舞い上がった。

 やっぱりそうだった、お姉ちゃんも私の事を好きなんだ。

「大丈夫だよ、秘密にするから。ずっと二人で生きていこうよ」

「瞳--」

 お姉ちゃんは首を横に振る。

「ダメだよ、そんなの二人とも不幸になる」

 そんな事を言う口をキスで塞ぐ。

 まだまだ体でわからせるしかないみたいだ。

 舌を滑り込ませば、すぐに応じて絡み合う。溶け合うように唾液を交換する。

 口づけをしたまま、まだ潤いを帯びたままの隠部の刺激を再開すれば、驚いたように目を開けたが、それも一瞬ですぐにトロンとした表情になる。

 唇を離し、少し汗ばんだ首筋にキスを落としていく。あぁ、お姉ちゃんの匂いだ。

 耳を舐め、耳たぶを甘噛みする。

「ひゃっ、はふっ」

「お姉ちゃん、愛してるから」

 耳元で囁いて、指を一本お姉ちゃんの中に入れた。

 あぁ暖かい、指がお姉ちゃんに包まれていて安心する。

「痛くない?」

 コクリと頷いて、潤んだ目で訴えている。

 ゆっくり出し入れしてみる。

 お姉ちゃんは目を閉じて、感じているようだ。

 指を二本に増やした時は、眉間に皺が寄ったけどゆっくりゆっくりほぐすように動かした。

 もう一本増やす時は、さすがにキツくて。

「お姉ちゃん、力抜いて。口で息をして」

 なかなか入らなかったけれど。

「うっ」

「ごめん、痛かった?」

「ん……少し」

 私の指に付いた鮮血が愛しくてたまらない。

「お姉ちゃん……」




 あの夜、私たちは愛を確かめ合った。


 それなのにお姉ちゃんは、その後早々に家を出ていった。

 大学生になって、遊びまわっているらしい。まだ半年だというのに、すでに何人かと付き合ったり別れたり。ついには私の友達とまで?


 一度だけ、と言ったのは私だ。

 諦める、と言ったのも私だ。


 今は、何とも思ってない。

 そう、何とも思ってない。

 ただーーあの夜の--


 愛しい人と一つに溶け合った。


 そんな思い出が今でも心臓を刺すのだ。


【了】

※ひばりのお話は「ねぇ、秘密の話なんだけど」という台詞で始まり「そんな思い出が今でも心臓を刺すのだ」で終わります。

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