040 買い物を頼む

「んー。あのガキ………。味方なのか?」

 便利屋は呟いた。

 突然現れた二人目のクオリア使い。

 万事休すか、と思われた状況は便利屋の目の前で意外な展開を見せた。

「それにしても……。何やってんだ? あのバカコウモリは」

 ニワトリ女と、新手のクオリア使いがモメている──。

 逃げ出すにはもってこいの状況のはずだ。

「なんで飛ばねえんだよ……」

 コウモリ女は、顔を隠しながら新手の少年の背後でモタモタしている。


「くそっ! バカコウモリ! 飛べ!」


――――しまった。思ったより大きな声が出てしまった。

 後悔しても遅い。自分から鉄床雲に突っ込んでしまった。

「やべえ、こっちに来やがる!」



『だから捕まるな! 飛んでくれ!』

 そうだ──

 まだ、ゲームは終わっていない。佳穂は再び甲板を走りだした。コルク弾を躱し、スピードを上げる。

 その時だ────

「バカコウモリ! 飛べ!」

 岸の方で、雨粒の水色が輝いた。

────便利屋だ!

 犬上とニワトリ女は激しく撃ち込み合っている。

 今なら──!

 佳穂は、大きく翼をひろげてジャンプした。

 ワンストローク、ツーストローク。

 一掻き毎にスピードを上げ、張られる弾幕を躱していく。

 向かうは便利屋。

 しかし、その便利屋は背中を向けて早くも走り始めていた。

 その先には、例のオープンカー。

 また──!?

 佳穂はひときわ力強く羽撃き、走り出したオープンカーのバックシートに転がり込んだ。


「っくそ! 昨日と同じ乗り方をするな! シートが痛む!」

「また、逃げましたね!?」

「うるさい! 降りろ! まだ修理代増やしてぇのか!?」

「用が済んだら、すぐ降ります!」

「ハア!? 何だよ用って!?」

「何か顔を隠す物。持ってませんか!?」

「ハア!? 何だって!?」

 エンジンの唸りに、聞き間違えをしたのかと便利屋は思った。

「顔を隠すもの!! マスクとか! 正体を隠せれば何でもいいんです!」

「ハア!? そんなモンねえぞ! 何で要るんだよ!?」

「後から来た追撃者、あの家の同級生なんです!」

「ハア!?」

 便利屋はハンドルに頭を打ち付けた。

 追う者と追われる者が同じ屋根の下にいる。捕まえてくださいと言わんばかりの状況だ。おまけに正体を知られれば、さらに不利になる。

「なんで、お前はそんなに面倒事を抱えて来んだよ!?」

「何でか、わかれば苦労しません!」

「…………」

「修理代欲しくないんですか!?」

「───

 ──

 ─クソっタレ!

 5分後だ! この先の橋の下の茂みで待ってろ! わかったな!?」

「はい!」

「じゃ、踏ん張れ!」

 言うが早いが、便利屋は急ハンドルを切った。

「ぅわっ!?」

 佳穂は後部座席から放り出された。

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