第6話伯爵家長男side


 ジャスティ・ヤルコポル。

 それが僕の名前だ。


 伯爵家の長男として生を受け、下に3人の弟がいる。

 父であるヤルコポル伯爵は若くして法務大臣にまでなった出世頭。母は子爵家の次女から王妃殿下付きの女官になり、更には王太子殿下の乳母にまでなった。子供がある程度大きくなると再び王宮に出仕し女官長に任命された才女。


 家柄以上に両親の功績が偉大過ぎる。

 お陰で幼い頃から多大な期待を寄せられてきた。

 僕がプレッシャーで潰れなかったのは常に双子の弟が傍にいてくれたからだ。そうでなければとうの昔に押し潰されていただろう。


 僕の半身。

 もう一人の僕。


 ウォーリ・ヤルコポル。


 僕達は二卵性双生児だった。

 僕は母親似、ウォーリは父親似の容姿を受け継いだ。共通点は、赤い髪に青い目だ。これはヤルコポル伯爵家の特徴といってもいい。父も同じ色彩だ。肖像画の先祖も殆ど赤毛だった。


 幼い頃は今よりもベッタリだった。

 勉学の時も剣術の稽古の時も、それこそ朝から晩までずっと一緒だ。7歳頃になると王太子殿下のご学友側近候補として王宮に行く事になった。王太子殿下とはその前から親しくしていた。何しろ、母が殿下の乳母だ。僕達兄弟は他のご学友側近候補よりも殿下と親しかった。


 成長するにつれ僕達双子にも変化が起きた。


 僕は学問に精通し、ウォーリは剣術の方に才能があった。特に長剣を得意とした。大人でも扱いに難しい長剣を軽々と使いこなしていたのだ。


「長剣に関しては、ウォーリ・ヤルコポルの右に出る者はいない」


 近衛騎士団団長に絶賛される程だ。


 僕は文官として、ウォーリは騎士として、王太子殿下を支える事を期待された。

 自分で言うのもなんだが、僕達兄弟は将来有望だ。王太子殿下の側近になるという事は、即位した暁には国王陛下の側近になるという事。当然、貴族からの婚約話が出た。両親が美形だったお陰で貴族令嬢から老婦人まで幅広く受けが良かった。僕が中性的な美貌なら、ウォーリは精悍な美丈夫といった処だろう。


 婚約が決まったのは13歳の時。


 僕の相手は、名門侯爵家の令嬢。

 ウォーリの婚約者は近衛騎士団団長の令嬢。近衛騎士団団長は娘が一人だけ。ウォーリは近衛騎士団団長の跡取りとし婿入りと同時に養子縁組をする事が決定した。爵位と財産の全てがウォーリのものになるのだ。

 

 王家も僕達兄弟を王太子殿下の側近にする気満々なのだ。この婚約は王家の意向でもあった。婚約者との仲も良好で全てが順風満帆。未来は希望に満ち溢れていた。


 それが……。


 まさか、ヴィランの婚約解消によって頓挫とんざしてしまうなど夢にも思わなかった。

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