第46話 田村の決意

「結構な人手ですね」

「良くも悪くも山崎さんの影響ね」


 カラオケ店の一階は大会会場の為にパーテーションは取り除かれ、特設ステージが作られている。ざっと見渡しても百人近くは集まっていた。


 中にはピンクのハッピを着て、ピンクのハチマキをしている集団もいた。背中に書かれている文字から山崎さんの追っかけって事がわかる。


 壁際に俺と美琴、受付の神谷さんが立ち会場を見渡していた。大会の参加人数は二十人。正確には俺たちみたいなペアーもいるからもう少し多い。


「それじゃ、私は準備があるから」と神谷さんはステージ裏へと走っていった。


 大会の流れはまず曲の一番を全員が歌い、その中の上位五人が決勝戦へと進出する。神谷さん曰く、九五点が一つの目安らしい。


 そして決勝戦では予選と違う曲を歌わないといけない。俺たちも予選は『星屑のナイトメア』のアニメオープニング曲を歌い、決勝戦はエンディング曲と決めている。どちらも九五点を超えられるように練習してきた。



「東山!」


 名前を呼ばれて見てみれば、クラスメイトの田村がだった。


「か、神無月さんもいたんだね! 私服の神無月さんも可愛いです!」


 田村はやけに洒落た服を着ている。って事は……。


「田村もカラオケ大会に出るのか?」

「ああ、毎年出てるんだぜ。今年こそは決勝戦に残ってみせるぜ。てか東山も出るのか?」

「うん、出るよ!」


 答えたのは美琴だった。


「なら東山はライバルだな」

「そうだね、田中くんには負けないよ!」


 また答えたのは美琴だった。しかしだな……。


「美琴、田中じゃなく、田村だ」

「あれ? 田中くんだよね?」


 田村は涙目で「田村だよ、田村、神無月さん」と訂正していたが、以前に田村が「神無月さんの彼氏ポジション、俺にもワンチャン有るかもしんねえ」とか言っていたが、田村には無さそうだな。


「もしかして、神無月さんも出るの?」

「うん! 倭人くんと一緒に歌うから応援してね!」


 指をチョキにしてブイサインをする美琴だが、田村は俺を見てまた涙目になっていた。


「東山、お前……神無月さんと二人で歌の練習してたのか?」

「そりゃそうだが、何か?」


「二人だけでカラオケに来てたんだよな!?」

「まあそうだが、何か?」


「……俺はな……一人でずっと歌ってたんだぞ……」

「……よくある事だろ?」


「……うううう、リア充なんて嫌いだぁぁぁ」


 何故か田村は「うわ〜ん」と泣きながら走り去ってしまった。


 ヒトカラは練習の基本だろ?



【ある男の咆哮】


「チクショ〜! 俺が優勝しちゃるぅぅぅ! リア充滅殺ァァァツ!!」


 

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