第三話:戦闘職と一般職

「さて、次は冒険者の職について話しましょうか」

「はい。あ、そういえば、和人お兄ちゃんって刀も使えるし、魔法も使ってますよね。皆さんあんな感じで色々できるんですか?」

「あれは完全にカズト故の例外ね。まあ一応、そういう事もできる冒険者もいるにはいるけれど。まずはこの辺について話をしていきましょうか」

「はい!」


───


「まず、この世界には戦闘職と一般職があるの」

「戦闘職と一般職、ですか?」

「ええ。戦闘職というのはその名の通り、剣や魔法を使って戦闘を熟す力を持つ職業。一般職はそれとは別に、普段の生活の中で用いられる職業なの」

「例えば、戦士や魔術師といったものは戦闘職となり、商人や大工、農夫といったものは一般職となります」

「あー、何となくその辺はわかります。ということは、冒険者は戦闘職を、その他の人は一般職を覚えて生活しているんですか?」

「いいえ。実はこの戦闘職と一般職は、冒険者に限らずどちらの職に就く事ができるものなのですよ」

「え? そうなんですか?」

「ええ。例えば王国に所属する騎士などがいい例ね。彼らは冒険者ではないけれど、ちゃんと騎士という戦闘職に就いているわ」

「他にも、私の職業である暗殺者も戦闘職ではございますが、むしろ正規冒険者となっている方は少数にございます」

「え!? アンナさんそんな怖い職業だったんですか!?」

「ミサキ。彼女もまた色々あるのよ。そんな言い方はダメよ」

「あ……ごめんなさい」

「構いませんよ。きっとミサキ様は、わたくしのこの格好からメイドだと思っておられるかと思いましたし」

「はい。あ、ちなみにメイドさんは戦闘職なんですか?」

「いいえ。これは一般職の『従者』にございます。メイドは女性従者の総称としてよく口にされるため、皆様そちらのほうが馴染みがあるかもしれませんね」


───


「職には複数就いたりできるんですか?」

「一般職であれば制限はないわ。田舎町なんかでは、一人で大工と農夫、山師なんかを熟す人も多いわね」

「戦闘職はそうじゃないんですか?」

「はい。例外的な方もおられますが、戦闘職は基本何かの職に就くと、上位職を目指すことはできても、まったく別種類の職に転職したり、新たな職を覚えることはできないのです」

「どうしてですか?」

「仕組みが解明しているわけではないのだけど。一節では、戦闘職に就く際に『才能の消費をしている』と言われているわ」

「『才能の消費』ですか?」

「ええ。例えば私が魔術師としての職に就くと、私の中の才能が魔術師に隔たってしまって、そこから目指せる上位職以外の才能を失ってしまうと言われているわ」

「へー。何か不思議ですね。あ、でも例外もあるって言ってましたよね? 和人お兄ちゃんなんかがそうなんですか?」

「あのお方は例外中の例外ですね。普通の方の場合、よく『二職持ち』と呼ばれておりますね」

「『二職持ち』……」

「ちょっと分かりにくいかもしれないわね。この世界で剣と魔法を同時に使う職はあるけれど、それは基本、何かの職の上位職のみなの。でも、例えば精霊術師の上位職は万霊術師や精霊弓師しかないのだけれど、極稀に、精霊術師でありながら、戦士としての職を同時に別に手にする人もいるの。これが『二職持ち』と呼ばれているわ」

「本来持てない職の組み合わせができるって感じですか?」

「そうね。勿論、魔術師と剣士の上位職、魔術剣士と似た、魔術師と剣士の職を同時に持つ人もいるけれど」

「それの違いってあるんですか?」

「はい。例えば魔術剣士は、確かに魔術師と剣士の上位職にございます。ただ、ひとつの職とでございますので、魔術も剣技も使える装備制限は、魔術剣士に準じます。ですが、魔術師と剣士の『二職持ち』の場合、同時にこれらを使い熟す為には、両方の装備制限を加味した装備しかできないのです」

「あれ? それじゃ、『二職持ち』ってメリットはないんじゃないですか?」

「必ずしもそうでもないわ。例えば魔術剣士は魔術師の上位職だけれど、使える術は魔術師より限られてしまうし、装備も本来の剣士より軽装になってしまうわ。でも『二職持ち』の場合、魔術師として全魔術を駆使できるし、敢えて装備を剣士寄りにして、魔術は使えないけれど重装の剣士として力を発揮する事もできるの」

「つまり、適材適所に活躍が見込めるって事なんですね」

「テキザイテキショ、にございますか?」

「あ。ええっと、要所要所に合った活躍ができるって意味です」

「確かに、うまく状況に合わせて職を選べれば、より活躍しやすいという意味で、汎用性は高いし、その才能自体が注目されるからこそ、『二職持ちは』強いと言われているわ」

「でも、お兄ちゃんは例外なんですか?」

「そうね。まあそこはカズトに直接聞いてご覧なさい」


───


「職業に就くのはどうすればいいんですか?」

「一般職は基本的に、その職に就いている人に師事して必要な技術を習得し、その人に認められれば大丈夫よ。戦闘職に関してはそれだけじゃなく、必ず冒険者ギルドでその戦闘職としての技術を得ていると認められなければいけないけれど」

「え? それって冒険者にならないとその職業に就けないって事じゃ?」

「いえ。職業の認定は冒険者ギルドで行うことができますが、別段それは冒険者ギルドに加入せずともできるのですよ」

「へー。それって試験か何かするんですか?」

「いえ。職業を判別する真贋板しんがんばんという付与具エンチャンターがあるの。それでその戦闘職となれる才能となっているかを確認していればよいわ。でないと、魔術師は最高位の魔術を使えないと魔術師になれない、なんてことになっちゃうもの」

「あ、確かにそうなっちゃったら皆凄いランクの冒険者位の力が要るようになっちゃいますもんね」

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