戦場のフラウ

桜子 さくら

第1話 戦地に咲く花達

1941年7月1日午前10時。

我らフラウ隊、味方装甲師団の後方を追従す。

我らの心は晴やかなり。

戦局ますますドイツ優勢なり。

           ハイルヒトラー




「ランゼーツェ、電文は送れたか?」

「はい。しっかり暗号を付与して送りましたよアンナ中佐。」


我らの部隊を指揮するアンナ中佐は冷静沈着な軍人気質な女性だ。

様々な地域、人種から選別された女性のみで編成された部隊、通称"フラウ隊"の一員に私は今いる。



木の上で一面に広がる草原を見渡しているゾルゲ中尉はフラウ隊1のスナイパーだ。

スコープ付きKar98を扱い、敵兵を狙撃する。

「中佐、一匹敗残兵が此方に向かってきます。」

彼女の報告にアンナ中佐が小さな声で問う。

「詳細を。」

「女性のソ連兵です。スカーフで作った白旗を持って歩いて来ます。武器は.....所持していません。」

「そうか ...」

「殺しますか?」


アンナ中佐は私に命令する。

「フィーナ、奴をここへ。」

「情報を吐かせるぞ。決して殺すな。」

私は背中にかけているMP18短機関銃を地面に置き、身を屈める。


件のソ連兵後ろに回り込み、捕縛の機会を伺う。

歳は20前後だろうか、身の丈にあってない軍服、暫く洗ってないであろうブロンド色の髪はボロボロになっている。

「ワタシヲウタナイデ!」

「コウサンシマス!」

拙いドイツ語で彼女は叫んでいる。


注意が前方にある今が好機だ、一気に近づく。

口を塞ぎ、喉元にナイフを突きつける。

「動くな、叫ぶな、抵抗するな。」




「よくやったフィーナ」

アンナ中佐から何かが投げられた。

これは煙草か....吸えないんだよな。


アンナ少佐は咳払いを一つして、怯えている捕虜に話しかける。

「名前と出身、年齢、階級を答えろ」

捕虜は怯えながらも話す。

「フ、フィーナ ロマネヤコフ....」

「出身はモスクワの郊外.....18歳... です。」

「階級はありません...。2週間前に徴兵されたばかりで....」


隊の皆が私を見る。

「フィーナってお前と同じ名前!?」

「年も同じじゃないか!!」


ランゼーツェが捕虜と私を交互に見て呟く。

「国を違えば境遇も同じとはいかないのか。」


「こ、殺さないで! ドイツに協力します!」

少佐が同時通訳し、ランゼーツェが軍隊手帳に記す。

「私はモスクワで大学生で...! 共産主義なんか知りません!」

アンナ中佐が彼女を訝しげに見る。

彼女は必死に声を上げる。

「は、ハイルヒトラー! スターリンくたばれ!」

「中佐、捕虜はどうします?」

「......。」


「敵は何処にいる? 戦車や航空機の展開地域を教えろ。」

彼女は驚いた顔をしたあと、意を決して申し出た。

「せ、戦車は50両ほどのBTと10両のT-34が...北東10KM地点に!」

「飛行機はわかりません! 私は陸軍所属で...!ですが、赤軍全体の被害は聞きました! 政治将校が話してました!」


「やはりあてにならんな。」

中佐はルガーの銃口を彼女に向ける。

その時、傍観していたマイコが中佐に異議を唱えた。

「中佐! 彼女は捕虜です! 条約で命の保証はされてるはずです!!」

「.....」

「このような蛮行が赤軍に知られたら、我らドイツ兵も同じ目に....!」

「.....我らドイツ兵は降伏などしない。」

答えたのは中佐ではなく、若年14歳のイリゼ少尉だった。

「我らドイツ兵は総統フューラーの命を受け攻勢す。」

総統フューラーの命に降伏の文字があるか?」

彼女は熱心なヒトラー信奉者で、一度火がつくと手に負えなくなる。

「マイコ、あんたの父親は日本人だったな?」

「それが...何よ....」

「お前はドイツか日本どちらの人間だ?」

「わ、私は!!」


「はいはい。そこまで、そこまで。」

「そう喧嘩しなさんな。ここは戦場、仲間割れをする場所じゃないよ。」

二人をランゼーツェが仲裁に入り、一先ず彼女らを分けることが出来た。

「ユダヤ人の分際で私に口出しするな」


アンナ中佐が私を一瞥して、皆に命令を発する。

「明日の1000に此処を発つ。」

「フィーナは捕虜の監視を。」

「他の者は交代で周囲警戒をせよ。」


私はMP18短機関銃を手に取り、ソ連のフィーナの元へ足を進めた。



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