第4話 人相の悪い男は…実はとんでも無い人物だった

 僕の目の前には…体格が大きく、髭面で人相が悪い人に睨まれていました。

 この威圧感…魔物と対面した時でも感じた事が無い。

 僕はこの人相の悪い男に捕まってこれから酷い目に遭う…という最悪な未来を予測した。


 1.このまま奴隷として売られる。

 2.娼館に売られて、子供好きで男もOKな変態に…

 3.魔物の囮の餌として扱われる。


 「どの未来も最悪だ~! 生き残れる未来なら、せめて1が良い!」

 「何をごちゃごちゃ言ってやがるんだ!」


 人相の悪い男の一言で我に返った。

 そして僕はポケットから、帰りにパンを買う為の銅貨5枚を差し出して言った。


 「ごめんなさい、貧乏でこれしかありません!」

 「おい…何の真似だ⁉」


 人相の悪い男は、更に怒り出した。

 やっぱり銅貨5枚では足りなかったか…?

 僕はその場で何度か飛び跳ねた。

 するとお尻のポケットからジャラジャラと音が鳴ったので、ポケットから取り出すと…へそくり用の銅貨5枚を合わせて銅貨10枚にして差し出した。

 

 「隠していた事は謝ります! 本当にこれが全財産です! だから見逃して下さい‼」

 

 すると人相の悪い男は、顔を真っ赤にして目を閉じて震えていた。

 やはりこの程度じゃ足りなかったか…

 僕は覚悟を決めて、ダガーを抜いて構えた。


 「僕は死ぬ訳にはいかないんだ‼ 来い悪党! 勝てないまでも抵抗位してやる‼」

 

 すると、ギルド内で笑い声が上がった。

 僕は辺りを見渡していると、頭に強烈な一撃が入って僕はそのまま倒れた。

 そして意識が朦朧としている間に、担がれて何処かに運ばれている感じがした。

 暫くして目を醒ますと、そこは部屋の中だった。

 その部屋のソファーで僕は寝かされていた。

 そして向かいには、先程の人相の悪い男が座って睨んでいるのだった。


 「目ぇ…醒めたか?」

 

 僕のダガーは、人相の悪い男が持っていた。

 これで僕は丸腰だった…あとは、スキル調味料しかないと思って構えようとした。


 「初めに言っておくが…俺を何と勘違いしている?」

 「盗賊か…凶悪犯、犯罪者ですか?」

 「どれもちっがーう‼ お前な…久々に会ったのにその言い草は何だ⁉」

 「うぇ? 久々に…?」


 僕がこの人相の悪い男に出逢った事がある⁉

 おかしいなぁ…?

 これだけ強烈なインパクトある顔を見忘れる事があるかな?

 この街にも娼館や奴隷商はある。

 僕の住む地域とは別だし、危険な場所なので行ったりした事は無い。

 なので、そんな場所とかではない限り…こんな人相の悪い男とは出遭わない筈だ!

 

 「すいません、記憶にないのですが…何処でお会いしましたか?」

 「お前の家で会った事があっただろう!」


 僕の家で?

 この人相が悪い男と?

 誰だろう…父さんの知り合いだよな?

 両親が生きている頃は、かなりの人が出入りしていたから、誰が誰までかは覚えてはいない。

 ただ…こんな人相が悪い男が出入りしていたらすぐに気づく筈なんだけど?

 僕は人相の悪い男の顔を良く見た。

 すると、目には見覚えがある…そして髭を手で隠したから見ていると…思い出した。


 「もしかして…テスタおじさん?」

 「やっと思い出したか…それにしても、誰が凶悪犯だゴルラァ!」

 「いや…その髭だと解らないですよ! なんで髭なんか生やしたりしたんですか?」

 「髭があると威厳がある様に見えるだろ?」

 「人を脅すのにですか?」

 「いい加減、凶悪犯から離れろよ‼」

 「なら、今は何の仕事をしているんですか? それにこの部屋は⁉」


 テスタおじさんは溜息を吐いた。

 そして僕に言った。


 「テッド…お前は俺が何をしているのか知らなかったのか?」

 「いえ全く…父さんが死んでから、テスタおじさんが尋ねて来なくなったので…」

 「ギルマス! ちょっと良いですか?」


 ライラさんが資料を持って部屋に入って来た。

 そしてテスタおじさんと話をしてい…って、ギルマス⁉

 そういえば僕は…この冒険者ギルドで1年近く仕事をしていたけど、ギルマスが誰かなのは見た事なかった。

 まぁ、低ランクの冒険者如きがギルマスに会える訳がない。

 あ、だからか…僕が悪党と叫んだ時に冒険者達が笑ったのは…


 「話の最中にごめんね…テスタおじさんって、冒険者ギルドのギルドマスターだったんだ?」

 「そうよ…って、ギルマス! テッド君に説明してなかったんですか? いきなり背後に立たれたら盗賊と勘違いされますよ!」

 「わぁーってるよ! さっきもテッドに、盗賊だの、凶悪犯だの、犯罪者だのと間違えられたからな…」


 あの、テスタおじさんがギルドマスターだったとは!

 そういえば、両親のパーティーが解散してから…皆も冒険者を辞めたって言っていたっけ?

 でもまさか、ギルマスをしているとは思わなかった。

 だとすると…?

 僕に用事って何だろう?

 まさか、懐かしむ為に昔話でもする為かな?

 僕は思い切って聞いてみた。


 「ところで…テスタおじさんは僕に何か用事ですか?」

 「あぁ…実はな、テッドが冒険者になったのは知っていたんだが、討伐系を全くやっていなかったから必要ないと思ったんだが、昨日…討伐を行ったと聞いてな! それで渡す物があるのでお前が来るのを待っていたんだ。」

 「渡す物…ですか?」


 なんだろう?

 お小遣いでもくれるのかな?

 するとテスタおじ…ギルマスは、椅子の横にある袋をテーブルに出した。

 その中には、ショートソードよりも長く、ロングソードよりも短い…ミドルソードがあった。

 それと、冒険者が良く持っているバッグの2つだった。


 「これは…?」

 「これはな、お前がもしも討伐依頼をする様になったら渡して欲しいとバットンから預かった物だ。」

 「父さんは僕が冒険者になるって解っていたのかな?」

 「バットンは、テッドなら冒険者に憧れてなるだろうと言ってな…まさか成人前に来るとは思わなかったが。」

 「申し訳ないけど…ミドルソードは無理ですね。 ダガーですら重さを感じる位ですから、ミドルソードなんて扱えません!」

 「その点は問題ない! このミドルソードは、強度は鋼と同等だが、軽さはミスリルよりも軽いという…バットンが遺跡探査で見付けた金属を加工して武器に替えた物だからな。」


 僕はミドルソードを持ってから、鞘から抜いてみた。

 すると、本当に軽く…その重さはダガーより軽く感じた。


 「これ…何の金属だろう? 本当にダガーより軽い…⁉」

 「確かハルモニアという金属らしい…金属には詳しくないから解らんが。 それと、テッド…指を貸せ!」

 

 僕はギルマスに言われた通りに人差し指を出した。

 ギルマスは僕の指先をダガーで切ってから、バッグの札に血を垂らした。

 すると、札が光りだした。

 

 「あの、ギルマス…今のは一体⁉」

 「これで登録は済んだ! このバッグはな…空間魔法を利用したマジックバッグだ。」

 「マジックバッグって…確か広さにもよるけど、普通に金貨で取引される物ですよね?」

 「そうだ! これは元々、カノンが使用していたマジックバッグだったんだ。」

 「それなら…売ってお金にした方が生活の足しになるのではないかと…?」

 「そうさせない為に先に登録をしたんだ。 登録もせずに渡したら、お前…売るつもりだったろ?」

 「う…」


 考えを見透かされていた。

 マジックバッグ何て…僕の生活、いや?

 僕の経済力ではどんなに欲しくても買える値段ではない。

 だから売った方が生活の足しになると思っていた。


 「解除方法は…教えてはくれませんよね?」

 「誰が教えるか! 教えたら絶対に売るだろ?」

 「う…売りませんよ~~~」

 「こっちを見て言え! それにお前にこのバッグを渡すには理由があるんだ。」

 「理由ですか?」


 何だろう?

 僕にバッグが必要な理由って?


 「昨日の様に血の付いた袋を持って街中を歩くというのを回避させる為だ! あんな姿で街の中を歩いたら、色々怪しまれるからな!」


 僕は気にしてはいなかったが、あの後に冒険者ギルドでは苦情があったらしい。

 その為の対処なのだろう。


 「中の広さは…どれ位ですか?」

 「テッドはストレージというのは分かるか?」

 「良くは知りませんが…確か個数の数でしたっけ?」

 「そうだ! これは100種類で入って、1種類につき99個入る。」

 「それって…国宝級では⁉」

 

 そんな物…どうして母さんが持っていたんだろう?

 これを売っていたら、もう少し生活費があったのではないかと思った。

 ミドルソードもそうだけど、このマジックバッグもある意味で言えば両親の形見になる訳なのだが…?

 もう、諦めよう。

 とりあえず、これだけ良い物が手に入ったのだから…狩りをしまくって稼いでやる!


 「そういえば…テッド、お前はレベルが上がって新たな調味料を覚えたという話らしいが?」

 「そうですね…今迄薬草採取だけで経験値を稼ぐという行為をして来なかったので、レベルが上がると調味料を覚えるというのは解らなかったです。」

 「すると…? レベルを上げれば、どんどん調味料を覚えていくという仕組み何だな?」

 「らしいですね? 調味料と言われるくらいだから、いずれは砂糖も覚えるのかな?」

 「砂糖か…もしも手に入れたら、少しくれないか?」

 「別にいいですが…僕から出た物は気持ち悪くないんですか? 売りに出そうと思っても、気持ち悪がって家族以外は使ってくれなかったのですが…」

 「それは…お前自身が売りに出したからだろう? 人伝で渡せば…売れたんじゃないか?」

 「あ、そういう方法があったのか?」


 僕は自分で売りに出す事しか考えてなかった。

 そうか…信用ある人に任せて売れば良かったんだな。

 

 「それにな…塩、酢となると、確かにお前の体から出ている物だと勘違いする者もいるだろう。 まぁ、俺はお前の魔力量が解るから、体内から排出された物ではない事は解っていたけどな。 それに、人間の体は確かに塩分はあるが…壺一杯の量ほどの塩分は体の中には無いから、どこから来る物なのかは分からんが、少なくとも体から排出されていない物くらいは解る。 塩で出来たゴーレムとかなら別だろうが…」

 「僕の魔力量? 僕に魔力があるんですか?」

 「お前の調味料は、魔力から作りだされている物だろう?」

 「あ、それでか…調味料を出すと体に脱力感があるのは…」

 「それが魔力を使用しているという証拠だ! 他のスキルもそうだが…大体はMPを消費するんだよ。」

 

 なるほど…?

 調味料は魔力で生み出された物だったか!

 次からは魔力量を気にして使わないといけないな…


 「ちなみに僕の魔力量っていくつあるんでしょうか?」

 「それは、ギルドカードに書いてあるだろう?」

 「えっと…?」


 僕はギルドカードを確認すると、確かにステータスが書かれていて魔力量も書いてあった。


 「魔力量は…3万ですね。 これって多いのですか?」

 「充分多いわ! 普通のレベル20の魔道士でさえ、2000~3000位で、レベル50の魔道士でも7000~8000だ! それ以上の魔法職系のジョブなら、1万越えもいるだろうけど…3万なんて滅多にいないぞ?」

 「そうか…これは多い部類に入るのか。 これが魔法だったら、どんなに楽だったんだろう…まぁ、無い物を望んでも仕方がないけど。」


 僕は、塩と酢の壺をギルマスに渡してから部屋を出た。

 2種類の調味料は、ギルマスの方で売り物になるかどうかを調べて貰うからだ。

 まだ時間にして昼間だった。

 冒険者ギルドで採取の依頼と討伐の依頼を請けてから冒険者ギルドを出た。

 そしてリットの作ってくれた干し肉をかじりながら、依頼をこなしていくのだった。


 そうして夕方冒険者ギルドに帰ってから依頼の達成の報告をすると、レベルは5まで上がっていた。

 レベル4で覚えたのは射程アップでレベル5で覚えた調味料は油だった。

 油って調味料だった…のか?

 そしてこの油も…意外な使い方が出来る事を知ったのだった。


 「次は、もっと稼げる依頼が欲しいな! お金もだが、経験値も…」


 これがフラグになったのか、次の日にはいつもより経験値を稼ぐ事が出来るのだった。

 だが、それによって僕は…?

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