ソーダのように爽やかな味わいの一作。

――隣の席の男子が、他の人にはない特技を持っていた。
自分だけが偶然それを目撃してしまった。
「もっと見たい」と言ったら、地下にあるお店に連れて行かれて……。
日常の中にチラリと覗く、密やかな非日常の幕開け。
そんなシチュエーションにどきどきする作品です。

マジックを題材とした物語で、ペンやコインが手の上を移動する描写が素晴らしいです。とくに、小鳥が遊ぶようにコインが手の上を移動していく様子が見事でした。
どうやら作者様は「手」フェチのご様子。なるほどと納得。
(っ´ω`c)

印象的だったのは「ソーダがぱちぱちと弾ける」という言葉が3回登場していること。
一回目はエピソードタイトルに。
二回目は本文の中ほど。
三回目はラストの、もう本当に「ここしかないだろう」という絶妙な場所に配置されています。

興味深いのは、三回とも読み味が変わること。
一回目は「おおっ、いい感じの言葉だなあ」
二回目は「ふふっ、いいね~。ここから恋に発展するのかな?」
三回目は「同じソーダなのに、気付いたらいつの間にかレモン味に変わってる!? あ、甘酸っぱい!」

そうなんです。マジックを扱った作品でありながら、文章そのものがマジック。
主人公のクラスメイトである相原くんがペンやコインを鮮やかに扱うように、作者様もまた言葉を鮮やかに扱ってゆく。まさにマジックを見ているかのような不思議な感覚です。

こちらの作品は「5分で読書」短編小説コンテストへの応募作品。
5分でこんなにキラキラした素敵な世界を体験できるなんて素晴らしい。
ぜひ本に収めて欲しい一作です。