第28話 ア・リシャー(9)

「退けぇっ!」と、ア・リシャーの耳に怒声が聞こえるから。


(えっ!)と彼女は思い。


(何?)とア・リシャーの可愛い耳へと、怒声が聞こえた方へと視線を変えようと試みれば。


「うわぁ、あああっ!」とアレンの口から、彼にしては大変に珍しい、木の抜けたような情けない声音での驚愕が吐かれるから。


 更にア・リシャーは、自身の脳内で(えっ!)と、(何が起きたの?)と思うのだ。


 だってア・リシャ―の目の前で、今迄立っていた筈のアレンが急に地面──。床の上にドン! と大きな音を出し座り込む。


 そう、この構内に居る者達が一斉に彼に注目をするぐらいの尻餅をつき座る。倒れ込むから。


 ア・リシャーは、『アレンさん大丈夫?』ではなく。


「貴方は誰?」と。


「何で、貴方は急にアレンさんの足をかけ、倒すような酷い事をするの?」と。


 ア・リシャーは謎の男……。


 それも大変に汚れた身なり……。自身の顔を見えないようにフードで隠す、背丈の小さな、見知らぬ男へと荒々しく注意しつつ、尋ねるのだった。



 ◇◇◇




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