自分のスキルが【逃げるが勝ち】なので、異世界に来たのに戦えない。 〜個性ありすぎる仲間を連れて〜

しろいろ。

女神と共に


 俺は、何もなさ過ぎて不気味な白い空間で目が覚める。どこだよここ。


「あ、起きました?」


 何故かグーパン喰らわしたくなる顔の女が、俺の目の前にいた。顔の特徴?だからグーパン食らわしたくなる感じの綺麗な顔だって。


「? ここは?」


 どうにかその気持ちを堪え、なるべく感情を殺して喋る。


「あなたは……えーっと、あれです。病死だか事故死だか何かで死にました。」


「そこって具体的に言うとこじゃないんですか。」


俺も気になるんだけど。家にいたはずなんだけどな、俺。


「いちいちそんなもの覚えてる馬鹿がありますか。とりあえずあなた、えーっと、異世界転移とか転生とか興味あります?」


「ここって名前すら呼んでくれないんすか。」


 興味はあるけど、あなたって呼ばれて俺の名前呼ばないとかおかしくない?


「あーもう注文が多いですね!面倒なのはわかりました、そのまま転移して下さぁい!特典スキルは……えーっと、なんでもいいや!これ!」


 ただ、目の前にいたやつは適当だった。非常に、適当だった。


「向こう着いたら一日だけガイドしてあげます。ガイド終わったら私帰るんで、その後はどう生きようが、というかいつ死のうがどうでもいいです。じゃ、ちょっと待っててくださいね。」










 やあ。俺は篠崎しのざき晴也はるや。ブラック企業勤めの社畜(同僚談)。突然のことだが森の中でドラゴンに追われている。しかも付き添いの女神様と。


「なんで倒せないんですか!?死にますよこのままじゃ!私が適当にスキル選んでこっちに放り出したってバレるじゃないですか!」


「全部お前のせいだ!全部な!この服もな!責任取って時間稼ぎに食われてろッ!」


特典スキル。こういうのってたいていチートとかいうやつなんじゃねえの?ねえ。


なんなん?【逃げるが勝ち】って。


 スキルが発動したら一目散に敵のいる位置と反対方向に動き出す足。なんか地球にいた頃よりは足早いけど。


しかも、服。スーツですやん。もしかして俺、家に着くなりスーツのまま爆睡でもしてたんか。


「女神に対して食われてろですって!?もう怒りましたよ!【閃天翔】!」


 彼女が持つスキルが発動した。後ろを振り向けば、ドラゴンを目の前にして結構ジャンプしてた女がいた。……もうこの際『神』も『様』もいらねえ。あんな適当な奴が神な訳あるか!……あったらごめんなさい。絶ッッッッッッッッッッッ対ねえけどな!


 ジャンプしたと思ったら今度は落ちてくる。


「せぇぇぇい!」


 掛け声と共に発動した技は。踵が光り輝くカカト落としだった。そして決まらなかった。


「いったあああああああああああああい!!!」


 盛大に地面に踵を打ち付けた。クレーターができた。









 彼女が痛い痛いと喚き続けていると。


「あっ。ハルヤ。助け……。」


 ぱくっと。女はドラゴンの口の中へ消えた。









 あの女食われやがった!


 でも、助けに行って喰われてたまるか。どうせあいつも神だろ。また天界に戻るだけだろ。それが今回は、ドラゴンの口経由なだけだ。


彼女が食われている間に大体100メートルほど差が開いた。そして、まだ逃げ——




 止まった。足はしっかり止まった。そして、振り向くと。


『ズドォォォォォォォン!』


 後ろで、ドラゴンが倒れる音がした。口のあたりがモゾモゾして、中から無駄に神々し非常にウザい存在が出てきた。


「う、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!怖かったぁぁぁぁぁぁっ!」


 口の中から這い出てくるなり、女(神様)は泣き喚いた。神様っぽくなくて、しかもなんかスカッとしたので、手を差し伸べてやった。


「だいじょぶか?」


「うぅ……。」


 手を取り立ち上がらせる。


「ハルヤ。抱っこ。」


 何やらパーっと明るくなって、唾液がない綺麗な状態で泣き崩れた女神がそこにいた。それは綺麗なのだろうか。否、綺麗ではない。しかもわがままである。


「はいはい。ほら、行くぞ。」


ただまあ、ショックは大きいだろうから、今は言うこと聞いてやるけど。


「うん……。」


「街、探すか。」


「お金なら少しあげるから、ちょっと休みたい。」


「ああ。どこか宿にでも入ろうな。」


「うん……。」


泣き疲れたのか寝た。……ったく、子供かよ。








一時間ほど歩き森を出ると、俺たちはフリユールという名の町へ到着する。


「おい。街、ついたぞ。」


「うん。あい、これ。」


金貨10枚。相場はコイツから教えてもらったから、これだけあれば泊まれる。


一応思い出しておこうかな。えー………金貨1枚=銀貨10枚=銅貨100枚だったはず。銅貨一枚=100円と考えていいと。まあ金貨一枚一万円ってとこだ。10万は貰いすぎな気もするが……もらっといて損はねえ。…‥見たところ、俺が金を稼げそうな仕事も見つからねえし。


そこらへんにあった宿に転がり込んで、金貨一枚を出す。


「部屋空いてるか?今これしかないから、釣りは多くなるだろうがすまんな。」


「はいはーい。何名さまです……か……。金貨!?銀貨ないんですか!?」


「え……?ああ、金貨しかないけど。」


一万円程度ならそんなに驚くことじゃない気がするが、価値的にはあってるはず。


「1ヶ月は泊まれますよ……?それでもいいんですか?」


「え!?あー、じゃあ一ヶ月分先に払っとくよ。2部屋借りたいんだけど、部屋に行けばいいかな?」


「も、もももももちろん2階の角部屋とその真横です!そこに行ってください!」


角部屋って高いんじゃなかったっけ?地球のマンションとかだとそうだと思うんだけど。一万弱で二部屋借りられるのも変だけどな。


「ありがと。」


礼を言って階段を上がる。女神をベッドに下ろして、布団をかぶせる。


「今日は災難だったな、女神様。しっかり寝ろよ。」


部屋の明かりを消して、俺は隣の部屋に入る。スキル補正ありきで走っていたとは言え、疲れたので俺も寝てしまった。結局起きたのは、朝に受付の子がドアを叩く音で、だった。





——後書き———

どうも、はじめしての方ははじめまして。しろいろ。でございます。新作ですが、どうぞ応援のほどよろしくお願いいたします。

そう———この、突発性やる気失せる病の僕を。

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