第7話 眠れないよ!

 真っ暗な部屋の中。


 少し甘い匂いのするベッドの中。


 もう普通なら寝る時間。

 明日の学校に向けて、もうそろそろ眠らないといけない時間。


 でも、でも……

「あんなことあって、眠れるわけないじゃん! あんなことして、あんな顔見せちゃって……眠れるわけないじゃん! お姉さんのバカ!」


 お姉さんの部屋の隣の僕の部屋。

 一人用のベッドの上で、僕はそう叫んだ。



 あの後、真っ赤になった僕の顔をぬへぬへ楽しそうに鑑賞したお姉さんは、しばらくした後に「もう満足~、ごろ~ん」と言ってベッドに寝転んで、僕を解放した。



 解放された僕は、恥ずかしさとか色々混ざった感情を整理するために「おやすみなさい!」と即座にお姉さんの部屋を出て、お風呂に入って、ベッドに入って数時間。


 僕の目はまだぱっちりしてて、一人になった身体は興奮を続けて、もう全然眠れる状態ではなくなっていた……どうすんの、これ!


 触れた背中のぷにぷにせすべすべの感覚とかいい匂いとか、触れられたひんやりとした指とか、笑ったお姉さんの顔とかが頭でぐるぐる回って、混ざって、ぱわぱわして……むーん!


「もう全部お姉さんが悪いんだから! 顔が可愛くてスタイル良くて、いつも無防備でエッチで目のやり場に困って、無邪気でおバカで可愛くて、距離感近くて嬉しくて、ありがとうの笑顔がステキで、たまにお礼とか嬉しいことしてくれて、僕の事信頼してくれてて! 赤ちゃんみたいに駄々こねるのも、ビールいっぱい飲んですぐに部屋汚すのも、何もできなくてお世話して! って言ってくれるのも全然嫌じゃなくて! 今日も今日も! お料理させたり、マッサージさせたり、顔見て『可愛い』って……もう、バカ! お姉さんのバカ! バカバカバカ……ばかぁ……」


 本当にお姉さんは、本当に! 


 理不尽な怒りをぺちぺち枕君にぶつけながら、電球で温かく光る天井を眺める。



 ……お姉さんのお世話、本当に嫌じゃないんだよな。


 そりゃめんどくさいし、お姉さんもわがままだし、お酒しか飲まないダメな人だけど……でもやっぱりそういう所も含めて好きって言うか。


 そういう所も含めてお姉さんだから、そういう所がないとお姉さんじゃないから……だから好き。


 だからお手伝いさんは別にそれ自体は嫌じゃない。


 お手伝いさんでも今の関係は変わらないだろうし……ずっとお姉さんはビール飲んでだらだらして僕がため息をつきながら掃除とかお料理とかして。

 たまにお姉さんが色々してくれて、僕が照れてからかわれて。


 そんな関係は、多分壊れないから。

 そんな関係も楽しいから。



 ……でも僕は、そんな関係じゃ嫌だから。


 お手伝いさんなんて、そんな曖昧でぬるま湯みたいな関係じゃ嫌だから。


 もう一歩進んで、お姉さんの横じゃなくて、隣にステップして。


 お姉さんの隣で、特別な関係で笑っていたいから。


 お姉さんの隣でため息ついて、文句を言って、でも色々してあげて。


 お姉さんの隣で「ありがとう」って、その笑顔が見たいから。

 どんな感情も、どんな言葉も……全部隣で見たいから。


 ビールを飲んでへにょへにょになるお姉さんを、ピーマンに怒るお姉さんを、落ち込んでいるお姉さんを、楽しそうに笑うお姉さんを……全部全部隣で見ていたいから。


 僕だけに見せてほしいから。



 ……でも、そんな勇気なんて出ないよね。


 今の関係が壊れて、もしダメになってしまったら……もうずっと会えないかもしれないから。

 隣に住んでいるのに、もう一生会えないかもしれないから。


 だから隣に踏み出す、あと一歩のステップを僕は踏み出せないんだ。



 それに……お姉さん、絶対僕の事男として見てないし。


 いつも距離感近くて、べたべたしてくれて、色々ボディタッチも多くて、僕の事すごく信頼してくれてて……それ自体は嬉しいんだけど、絶対に男として見てくれてないから。


 弟とか、仲のいい友達とか……そんな風にしか絶対に見てくれていないから。


 それはそれで嬉しいですけど……でも、なんか違うって言うか。


 今日だって、あき君なら安心だって……僕だって男なんですよ?


 僕も男ですから、その好きな人と、お姉さんと……そう言う事するのに興味あるし。


 だから、その……安心なんてしないで欲しいです。


 ……いや、その警戒してほしいとかじゃなくて、これまで通りで良いですけど、でももっと僕の子と意識してほしいって言うか、僕だって男だってことをわかってほしいって言うか、でも、だけど、でも……だから、その……がおー、です!


「……がおー、って何だよ、僕のバカ! バカバカ!」

 色々考えて、結局まとまらなくて、悶々とする考えだけがふわふわと頭の中に残って。


 考えちゃった妄想は、手に触れて触れられた感覚と相まって現実みたいになって、だから止められなくて、広がっていって。


「むむむー……むむむ!!!」

 結局無限にベッドの上でコロコロと転がり続けることしかできなくて。



 あー、今日も……今日も全然、眠れないのかなぁ……




 「ん~、ぷかぷか~かぷかぷ~ふ~んふ~ん、ふふふ~ん、ファジ~ネ~ブル♪」



 ★★★

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