襲来

 馬車で移動している商人の一団とギン。商人たちは何やら商売話に精を出しているが、護衛として雇われているギンは話に加わる様子はない。


自らの職務とは専門外だから話に加わらないのか、それとも単に無口なのか、護衛に専念しているのかは分かりづらい様子である。


 商人たちも自分たちの商売を理解できそうにないギンにあえて話をふることはない。やはり護衛に専念して欲しいという考えもあるのだろうか。


 いずれにせよ傍から見ると商人たちとギンには温度差があるように見えることだろう。

 先程まで平原を通っていたが馬車は森に入ろうとしている。この森がコッポ王国の首都ネイムに最も近い道のりなのである。


「なあ、やっぱり森はよさねえか、魔物は森に生息していることが多いんだろう。野盗もいるかもしんねえし」


一人の商人が不安げに言葉を発する。すると覆いかぶせるように別の商人が言葉を発する。


「何を言ってんだ。ここが近道なんだ!あんま悠長にしてっと他の商人やつらに客を取られて、わしらの品物が売れねえかもしんねえんだぞ」

「だ、だがよ…」

「それによ、そんな時の為に、護衛を雇っているんだぜ、このあんちゃんは魔法剣とやらを使いこなすようだし、そんじょそこらの魔物や、野盗なんざ、ちょちょいのちょいよ」


 まるで自分のことかのようにギンの強さを強調する一人の商人に周りの者たちは少しあきれた様子であった。不安と緊張も入り混じっている中若干和やかな雰囲気になるが、そのような時は長くは続かず、ついに事件が起きる。


 突如馬車の車輪をめがけ矢が飛んで来て、馬車の手綱を引いている御者が驚いて馬車を止める。


「お、おいどうした!?」


 驚いた商人は御者に尋ねる。


「や、矢が馬車の車輪の足元に飛んできました。野盗が近くに潜んでいるかも知れません」


 その言葉を聞いてギンが馬車から飛び出し、周りの様子を見渡し、道に落ちている石を投げ込み、その石が何者にか命中した。


「ぎゃーーーーーーーー!!」


石が直撃した男は余りの衝撃に気を失ったが、命までは失ってはいない様子であった。その声に反応した他の仲間たちがギンの前に姿を現す。


「てめえ、なんて正確なコントロールと肩の強さをしてやがるんだ、デコに直撃させて気絶させるなんて」


怒りをギンにぶつけるが、ギンは少しも動じず言葉を返す


「いや、コントロールはともかく、肩はそれほどでもないさ。何故なら俺の肩が強ければそこの男は死んでいたからな」


この言葉は謙遜しているようで自分たちを挑発しているように聞こえた野盗達にとっては怒りをおぼえるには充分であった。


「て、てめえ、許さねえ!!ブチ殺してやる!!」


 そういって野盗達は5、6人ほどで矢を一斉にギンに向けて放つが、ギンの剣さばきによってすべて薙ぎ払われてしまう。


「な、何ぃーーーー!」

野盗達がひるんでいるすきにギンは拳を野盗達の腹に放ち、ある者には膝蹴りを腹に放ち、命は奪わずに戦闘力を奪っていった。


「おーーあんちゃん強えな」


商人たちから、喜びと安堵の声が出るが、ギンは更なる気配を感じていた。


「何者だ?」


 ギンは突如、木の向こう側に声を発し、その声を受け、一人の男が姿を現す。


「ほーっ、俺の気配に気づくとはただ物じゃなさそうだな」


 野盗の親玉らしき男が姿を現すが野盗にしては立派な出で立ちをしている上半身をライトプレートで覆っており、下半身も同じ素材の装備で保護している。さながら騎士のような出で立ちである。


「俺の力を少しみせてやろうそれで荷物を置いて立ち去れば、命だけは助けてやるぞ」


 そう言って男の周りから風が吹きあがった。それを見たギンは思わず呟く。


「風魔法」


この男はなんと風魔法の使い手であるとギンは悟った。果たしてどう立ち向かうのか。

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