31 よくわからない、宴会。

 僕は彼女とは、幾らか懇意になっていた。


 と言うのも、仕事の関係で彼女が幼い頃からよく上司の 南城 浄 の家には世話になっていたからだ。


 僕以外の、社員もよく、この南城家で仕事の打ち合わせは、打ち上げをしたものだ。


 その時から、あの頃、南城 景子は中学一年生だったから、実質、六年の月日が流れていた。


 「景子ちゃんも、もう大学生か。」


 「はい。」


 「頑張ってねえ。」


 「はい。」


 「□□の大学だって、遠いねえ。」


 「はい。もう、なかなか帰っては来られません。」


 「寂しくなるねえ。」 


 父の部下の恭一郎さんは、そういって、口惜しがっていた。


 「おいおい。うちの娘を誘惑か。」


 父はそう言って話に割って入ってきた。


 「景子ちゃんが、居なくなるんで寂しくなるねえと話をしていたんだ。」


 「そうかい。まあ。でも、御前達には景子が幼い頃よく世話になっていたなあ。」


 「そうですっちゃ。」


 「こんな、可愛くなっちゃって。景子ちゃん!!!。」


 女性社員も、大喜びで景子を祝福した。


 其れだけこの、南城 浄の人望が厚いという事だろうか。


 将又この、景子が、人を引き付ける能力を持っているからだろうか。


 其れは分からない。


 景子の驚くべきエピソードにこういうのがある。


 彼女が未だ、幼稚園だったころ。


 誕生日や、クリスマス、正月ごとに、部屋の一室が埋まるほどの贈り物をもらっていたという。


 そんな彼女だから、ただ、この街を離れるといっただけで、こんなまるで、祭りのような、式が、また選別会が催されるのだろう。


 彼女はこの後も、ようようの人と、何度も、お別れの会をした。


 別に永遠の別れに成る訳でもないのに、彼女は、多くの人間と、この街に別れを告げた。


 まるで、此れが、決まっていたかのようだった。


 友達も、この街から離れていった、街にの残る友達は殆どいなかった。


 「この、街も、随分廃れてきたねえ。」


 「若いのは、都会に出ていくんでねえ。」


 「かえって来ないのかえ。」


 「都会の方がメリットがあるんでしょうやい。」


 「そりゃあねえ。疲れたら還ってくるといいよ。」


 「此処あ、都会みたいに人に騒々しくは無いから、のんびりしちょるしのう。」

 其れが、この街の衰退ではないのか。と思い


ながら、自然溢れるこの街にもいい処はあるものだと思った。都会にこの様な自然はないものだ。綺麗な海も、山も、あの商店街も、ずっと近かったのに、遠い者に成っていくように感じられた。


 「私はもう田舎に帰ってくる事はないでしょうな。」


 しょんぼりした様子だった。


 「都会で活躍するんでねえ。」


 「死ぬ手前にちょっと寄るとか、道に迷った時に、原点回帰で来るくらいでしょうな。」


 「その位でも、この街の事を忘れてくれなければ、良いんだよ。この街の事を、覚えていてあげてほしいんだよ。」


 この街は、孰れ消えるだろう。


 過疎化が進んでいる。


 けれども、この街にあった自然が無くなる訳ではないのだ。


 「海水浴にきてね。夏には泳ぎに来るといいよ。」


 「食べ物もおいしいしねえ。」


 「其れに、都会のよりも安い。」


 「何かあった時は、実家があった方が強いだろう。」


 其れは、もう、いつ無くなってもおかしくない弱弱しい声で、場所で、そういった関係だったが、確かに繋がっていたのである。


 「此れで、若いもんは、消えてしまったわい。」


 「寂しいのう。」


 といって、テレビを見たり、新聞を読んだり、海の音を聞いていた。


 扇風機の音が、風が風鈴を揺らして、何処か幻想的で、s対夏の中にある涼が、心地良かった。水がこうもおいしいのは、夏のこの暑い季節位なのもだろう。


 自分の小説が誰かに見られるのが、厭だった、特に、親しい友達に見られるのは怖かった。僕のイメージが大きく覆されるだろうからである。


 僕は、自身の創作物を隠していた。クローゼットの中に隠していた。


 恥ずかしくて、見られたら死んでしまう、そんな作品群が隠されていた。


 こんな事をしていると周りに知られたらと思うと恥ずかしくなった。


 其れは、やはり恥ずかしいものであった。


 仕事にしている人も居るが、其れは普段の自分からは考えも出来ない考えで、其れは決して見られていいものでは無かった。


 親戚も従妹も、鳩子も、従弟も、従兄も決して見てはならない彼の実態であった。

 そう、此れは罠である。


 そういった罠で、罪なのだ。


 海が汚染された事も、町がメルトダウンでめちゃくちゃになった事も、経済不況が、怒った事も、パンデミックが、流行した事も、そうなのだ。


 世界が、私を。おいて進んでいくのだ。


 私の存在は、邪魔なのだろう。


 私は居ない方がいいのだろう。


 嫌われているし、殺意を向けられている。


 そう。


 殺意である。


 不満である。


 正に、不満。


 私は、もう邪魔なのだ。


 こうして、ご飯を囲って食べたのも此れが最後だろう。


 もう無いだろう。


 此れは、最後なのだ。


 餞別会、送り会。


 さようならの会。


 娘も、息子も、さぞこうした事を面倒臭がった事だろう。


 厭だったことだろう。


 それでも、こういった事をしないと気が済まないわけだ、なんと、愚かな華族かな。


 こんな事でよかったのだろうか。


 重要な人生の節目なのである。


 そう節目。


 此れは、彼女の重要なポイント。座標。


 料金を支払うのは当然の事だろう。


 彼女にとっては、こういった事はもう二度とないのだから。


 大人になる。


 そう、大人になるのだ。


 此れは大事な儀式。


 こうやって、この居酒屋で、ご飯を囲って食べる事が、もう酷く大切な事で、其処にいるのが、全員揃っていなければならなくて、其れは必要な事なのである。


 お兄ちゃんが有名になった時には、びっくりしたし、自分も負けては居られないなと思った。


 金周りもよくて、もう凄かった。

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