26 部屋でうんこをする孫を注意する、おばあちゃん。

 娘が大学に進学する。


 四流大学らしい。


 私は娘とは生まれてこの方あったこともない。


 只、こんな仕事をしているのが父親だと知られたくなかっただけだ、だから私は娘を置いてこの国に来た。


 この国で闇の世界に入った。


 息子は、大学受験に落ちて引きこもっているらしい。


 息子と娘、妻の事が心配だが、もう償い切れないほどの重い罪を重ねてきた私は、死ななくてはならない。


 御金を配って死ぬのだ。


 此れ迄の罪を告白しながら、その犯罪行為で得た金を被害者にばら撒きながら死ぬのだ。其れが唯一の贖罪。


 如何して、僕はこんなに小さな其れこそ些細な事で、こんなにも、苦しんでいるんだろう、こんなにも必死になっているんだろう、一体何が彼の身に起こったのだろう。


 話は遡って、枯野父親、黒池 野風が、鉄砲で彼の被害者の女から殺された時、そのときである、其の女は言ったのである。


 「あんたに恨みなんてないんだ。私は、あんたのどこの誰だか知らない部下にいいように使われた事が憎くて、そいつ等を全員処刑台に送って殺したいくらいさ。」


 そして、言ったのである。


 あの、禁断の言葉を。 


 「黒池 財閥の皆様。 私はあなた達に二十年間 中学校の頃から延々と子供を産まされ続けて、もう地獄を味わった。あの、馬渕 佳鈴です。」


 「政府の皆様。国民の皆様。私は悲劇のヒロインです。悲しいのです。怒り狂ってもうおかしくなっているのです。」


 「奴らをとっちめてやってください。」


 この、発言は全国メディアで報道された。


 世界にも特集されてしまった。


 その悪の実態が、特集されてしまったのだ。


 多くの保護団体は、激怒し、彼女や、彼女のような被害者を保護し、この様な事が二度と行われないように、徹底して、排除する運動が広まった。


 其れはまるで死んだ黒池 車の霊が、息子を宥める様に諭す様に、気味が悪い光景だった。 


 「うんこの臭いがする。」 


 彼女はそう言って、うんこの臭いが隣の部屋から臭って来るのを、じっと嗅いでいた。


 臭い。


 敵わない臭い、その悪臭が隣の部屋からするのでした。


 「何と。臭い事か。」


 大丈夫な臭いでは無い。


 かなり、いや、相当やばい便所の臭いがしていた。


 トイレを部屋でしているのでは無いのか。


 もしや、あの男。


 大便と小便を、部屋でしているのでは無いのか。


 其れは、恐怖だった。


 笑い事では済まされない異常性、中世のヨーロッパじゃあるまいし、此れは危険な行為だ。うんこを、しっこを、部屋でするのは、危なすぎる。


 「トイレの時くらい、部屋から出てきて、しなよ。」


 つい、そう言ってしまいました。其れは、助言のつもりでした。


 トイレも部屋で済ませる困った住人への助言。


 しかし、彼は其れを決して聞き入れず、部屋から一歩も出ず、腐った食事の食べ残しの腐臭と、大便の臭いの籠った部屋で暮らしているのでした。


 「うんこさん」


 何時の頃からかそんな仇名で呼ばれる様になって居ました。


 「イライラする。」


 そのストレスで、トイレを、部屋で済ませているのである。


 外部の人間へのストレス。


 正常な人間への狂気が、もはや、枯野精神を蝕み続けた。


 如何してこんな・・・。


 隣の部屋からっは煩い無遠慮なカラオケの音が聞こえる、こんな夜にはた迷惑な奴だ、喧しい歌声が、漏れてきている。煩い、煩い、煩い。


 喧しいいい。


 防音室にでもしてくれないか。


 下手で、喧しい音声が隣の部屋まで響いているんだ。まるで祭り騒ぎだよ。


 殺してしまいかねない、環境騒音だ。


 喧しい。


 「殺すか。あの女。」


 隣人の、煩い女。


 迷惑な女。


 あの愛想のいい。


 女は飛んだ迷惑人だった。


 この様に夜になると人知れず下手糞な歌を歌い始めるのである。


 「ああ。なんて煩いんだろう。如何して自分がうるさくて迷惑している事に気が付かないんだろう。音楽をやる奴はこういった事に気を遣えないものかな。ああああ。困った婆さんだ。」


 聞こえる声で、言いつけてやった。


 頑なに部屋から出てこようとしない隣人の便所の様な臭いのする部屋に、苦情を言いつけた。


 「あのう。大変失礼なのですが・・・。少し、いいやかなりきつい強烈なにおいが、するのです。」


 「ああ。其れはトイレを部屋でしているからですねえ。」


 「其れは、いけませんよ。」


 「どうしてですかい?。」


 「臭いし、迷惑じゃ無いですか。」


 「臭いですかい。臭いねえ。週ににに二三回程度、貯まった便を、ゴミ箱に棄てているのですが・・・。」


 「其れもおかしいですよ。ダンプカーに収集させている訳でもないんでしょう?。」


 「そうですなあ。トイレはしない、廃棄物は、部屋の紙の上に放置してあります、基本的に燃えるごみの中に入れてますが・・・。」


 「其れはあああ、犯罪ですよ。うんこは燃えるゴミでは無いですよ。あれはしっこも違います。あれは、ゴミですが、違うゴミです。違う業者が処理しているものですよ。」


 「下水道を流れるものどもですよ。」


 はあ。困ったものだ。


 と、大変困った様子で、トイレをトイレでしろと教えつけているのであった。


 「まるで犬に、トイレを教えつけている気分だよ。恥ずかしくないのかい?。」


 「トイレは、紙の上にして、溜まったらナイロン袋に入れて燃えるゴミに出すんですよ。何言ってるんですか。トイレ何て行きませんよ。僕のトイレは紙の上です。」


 此奴は駄目だ。


 常識の通用しない、逝かれた奇人、変人。


 こうなってしまうと収拾がつかない。


 「駄目ですよ。トイレは此処にありますからね、ちゃんと、此処でトイレはしましょうね。」


 こう言って、私は注意した。


 「はい。分かりました。次からはなるべく、トイレは、便所でします。其れも、便利な流せるトイレで水洗トイレでします。」


 「よろしい。」


 「トイレ位、自分でちゃんとするんだよ。」


 此れが、私と彼女の最期の会話でした。


 翌日、彼女は遺体で発見されました。死因は、衰弱死。老衰でした。

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