第2章 その心に気付き、惹かれていく───

第10話

「よし!」

雪乃から紹介された美容師さんに、髪を少しカットし、整えてもらった湊は、いつもと別人になっていた。その容姿は、いつも隠れていた瞳をあらわにさせ、前髪がきれいにあげられている。誰が見ても、雪乃の隣にいてもおかしくない男とみられるだろう。

それでも、いつもと違う自分の姿に湊は、緊張する。

「あと少しだったよな…」

待ち合わせの場所にしていた公園の噴水。

ここは、この町のデートスポットとされているが、当然、湊と雪乃はそのことを知らない。


「ねえ、ちょっとでいいからさ」

「退屈させないよ?俺たち」

明らかにガラの悪そうな大学生らしき男三人組が、雪乃をかこっていた。だが人を見かけで判断してはならない。一応、いまにも殴りそうになる心を静めて、冷静に話しかける。

いつもは、コミュ障だ。と言っているが、それは、勝手に自分が無意識に線を引いているだけで、こうやって本当にイラついたときはそのことを忘れてしまう。

「あなたたちは、その子を困らせていますか?」

「あぁ?なんだお前、途中からのこのこと来やがってよぉ?」

「月城君…たす…けて…」

今にも消えかかりそうな声で、湊に助けを求めた。

(見た目だけじゃなく中身も腐ってやがる…)

どう処理するか、迷った湊だが、暴力は苦手なほうなので、暴力に持ってこられると勝ち目はない。

湊は、その中心的な人物に近づき、冷淡に言葉を放った。

「今の、言動このスマホで撮りましたよ。これを、あなたの通っている大学、インターネットでもいいですけどばらまいたら…わかりますよね?」

「あ?何言ってんだそんなこと…」

「あーあ。せっかくチャンスを与えたのに。もう、めんどくさいから警察に連絡しちゃいました。」

110と書かれた、通話状態のスマホを男の目の前に出す。

すると、「こいつ、ほんとに警察に通報しやがったぞ!?」と、残りの2人に伝え、あわてて3人組は去っていった。


(もっとかっこよく撃退したかったな…まあ、俺にはそんな特技ないし。まあいっか。)

スマホに映し出された、『緊急の時に使う:110番』というアプリを、スワイプし閉じた。このアプリはまるで、警察に通報したかのように見せるアプリで、湊は、自分がヤンキーに絡まれたとき使おうと思っていたが、雪乃のために使うとは、思いもしなかった。

「ありがと…」

「無事でよかった。浅倉さん可愛いからさ、こうやって絡まれることを注意してればよかったよ」

「っ!?かわ…」

(絡まれたほうに集中しすぎて、いつにないことを言ってしまった…)

「そういうのは反則だって…」

ボソッと湊に届かないように呟く。

「あの…その…月城君もかっこよかったよ…?」

「え?あ…うん」

(きっっまず!)

「それじゃあまず向かおっか」

「また、絡まれるかもしれないし、はぐれてもだめだからこうしてもいい…?」

きゅっと湊の裾を雪乃が引っ張った。

(なんでこんなに、可愛いと思ってしまうんだろう)

それは、湊が今まで向けていた“可愛い”とは、変わらないように見えて全く違う“可愛い”だった。その違いは自分自身にしかわからないほど、繊細な気持ち。


この時からだったかもしれない。彼女を、浅倉雪乃を、恋愛対象としてみてしまっていたことに気づいたのは。

でも、その気持ちは今の関係を引き裂いてしまうきっかけになることを知っているので、その気持ちは、無理やりにでも心の奥に閉ざしておかなければいけない。

だが、そんな気持ちも忘れてしまうほど楽しいお出かけが始まってしまう────

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