第6話

(そういえば、浅倉さんは何であんなに急いでたんだろう…?)

なぜ雪乃が昨日あんなに急いでいたのか、今になって気になりだした湊は、退屈な朝の、先生が話している時間に考えていた。

「──と!湊!」

「授業始まっちゃうよ~?」

「え?もうそんな時間!?」

「しかも一時間目、移動教室だぞ?」

「マジかっ!急がねーと」

いつの間にか、時間がたっていたらしい。湊は、急いで教科書とノートを机の中から引っ張り出し、教室から出た。


ガララと理科室のドアを開けたその先にいたのは、生徒指導の鬼塚先生だった。名前の通り、鬼のように怖く、生徒指導という権限を持っているため、皆から恐れられている。でも、娘には優しいとか…

だが、今はそんな場合ではない。その鬼塚先生が腕を組んで湊たちを待っていたのだ。

「今、何時なのか分かっているのか?いや、わかってるよな?」

ゴゴゴ…という効果音が出ていそうな、雰囲気に湊たちは怖気ついた。

「ひっ…8時51分です」

「授業が始まるのは8時50分だぞ?」

(たかが一分じゃないか!?)

「たかが一分じゃないか!?なんて、思ってないよな?」

(ひぃっ…)

「まあ、そんなに怖がるな。いつもまじめなお前が、遅れるというのは珍しいし、何かあったんだろう。だが、次はないぞ?」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ授業を始めるぞー」


「はあ…よかった~怒られなくて。湊のおかげだなっ!」

「本当だよ~あの鬼塚先生に怒られたら私泣いちゃうかも…」

「いや~俺の普段の行いがよかったからかな~?」

「そうだ…ん?っていうか、元はといえばお前が悪いんじゃねーか!」

(ば、ばれちまった)

このまま事を、丸く収めようとしたが悠に気づかれてしまった。

「そうだった!もぅ~湊君?」

「許してくれよ…」

「それで?なんか考え事とかしていたのか?」

(『浅倉さんのことを考えてた』なんて事、口が裂けても言えないぞ!?)

もし話してしまったら…

『遂に湊もそんなお年頃か…?』

『私が助けてあげるよ~?』

『取り合えずうわさを流して…』という感じになってしまう。

この展開はどうしても避けたい湊だが、言い訳が思いつかない。

「そ、それは…」

「「そ、それは~?」」

にやにやと、悠と千夢が、湊の顔をのぞいできた。

「お~しえない!」

「俺ら親友だろ?」

「本当の親友は、友情を使って悠みたいに、おねだりはしないぞ?」

「せ、正論だ…」

「ち、畜生!今回だけは見逃してやるー!」

「そうよ!次はないんだから!」

「その毎回主人公にやられる雑魚キャラの真似するのやめてもらえる?」


毎度毎度、息がぴったりの二人であきれるが、少しうらやましいなと思ってしまう湊であった。

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