お隣に住むクラスメイトになつかれていた件

さーお

第1章 お隣に引っ越してきたクラスメート

第1話  

これは、隣に引っ越してきた浅倉雪乃と月城湊が初めて出会った日のことである。


「なんかいる────」

視線の先にいたのは、一人の少女だった。


湊は一人暮らしを始めて、今、アパートに住んでいる。そのアパートは、都市部から離れていて学校からも遠い。そんなデメリットしかなさそうなアパートに住んでいる湊が選んだ理由は、家賃である。

その、家賃は3万という価格になっており、お金があまりない学生にはうれしい価格となっている。

そんなアパートのしかも、俺の部屋の前にその少女が座っていたのである。


湊は極度のコミュ障──とまではいかないが、人と話すのが少し苦手である。そのせいか初対面の人や、異性とは、話すのには少し抵抗があったのだ。

(ど、どうしよう…)

その少女は湊が苦手な“初対面”と“異性”という二つの条件を見事クリアしてしまっている。おめでたいね!

と、冗談はさておき本格的にやばい状況に湊は頭を悩ませる。

(まず、そこから去ってもらうまで待つというのはムリだろう)

今そこにいる少女はスマホをいじりながら、ドアの前で待っていた。その時点で、だいぶ時間がかかることが予想される。

(よ、よし!ここは勇気を持って…)

「あ、あの…そこ、俺の部屋なんですけど…」

「あ?」

(怖っ!)

「すみません何でもないです。」

すっとその場から逃げようとした湊だが、そこで腕をつかまれた。

「同じクラスの月城君でしょ」

「同じクラス?もしかして、浅倉さん?」


浅倉雪乃────皆がその名前を聞いたら、学年一の美女と答えるだろう。風が吹けば、ふわりと髪が浮く茅色のサラサラなストレートヘアー。透明のまくが張っているかのような透き通った肌は少し触れただけで壊れてしまいそうだ。

極めつけに、大きな瞳も併せ持ち、茅色を輝かせている。

ただ、彼女は容姿だけに問わず、ユーモアのある性格から、第70期生徒会生徒会長を務め、テストでは毎回学年一位を取っている。

まさに、生徒会の鏡である彼女の弱点は先生ですら見つけることはできない。

俺はそんな彼女と運よく同じクラスになることができたが、「目の保養になるわ~」という感じで、いつも彼女を観賞用としてみていた。だから、かかわることもないし、できるだけかかわりたくないと思っていた。

女の人と話すと、話しにくくて変な目で見られるし…


「覚えててくれたんだ」

(制服じゃないから全く気付かなかった…ってか何でここに)

「それで…何でここに?」

「言い忘れてたんだけど、隣に引っ越してきたんだ!ってか、こんな遠いところに月城君住んでいてびっくり」

「え?隣ってこのアパートの?」

「うん」

「まじか…」

(あれ?なんか話しやすい…かも?気のせいでは…ないよな?)

なぜ、こんなに話しやすいのか…?と考えていたいところだが、そんな湊を待たずに話は進んでいく。

「それでさ…いきなりで申し訳ないんだけどさ、料理作るの手伝ってくれない?」

「へ?料理?」

「月城君の弁当いつもおいしそうじゃん?それで、一人暮らししてるって聞いたら自分で作ってんのかなーっておもって」

「まあ、一応自分で作ってるけど…」

(俺の弁当そんなみられてたの!?)

湊は、いつも教室の隅で2,3人で食べていたのだ。それなのに、見られていたという事実に変な弁当ではなかったかと、思い浮かべる。やはり、それを遮るかのように、雪乃は話を続ける。

「それで、一人暮らしをするなら料理ができないとダメ。って言われて、その時強がって、しっかりできるもん!って言ったら『毎日、料理の写真送ってね』って言われて…」

(あの浅倉さんの弱点をさっそく発見してしまった…というか、「できるもん!」って小学生かよ)

さっきから湊の頭の中は、あっちこっちと行き来して混乱している。とりあえず、ほおっておくのは可哀想なので救いの手を差し伸べる。

「あっ、もし無理だったら全然良いんだけどさ…」

「別にいいよ。せっかく一人暮らし出来たのに一日目で終わりってのはさすがにね」

「いいの!?ありがと~」

「それじゃあ、少し早いけど作っちゃおうか」

湊は、雪乃の部屋に入ろうとしたが、そこで「いきなり女子の部屋に入るのは失礼じゃないのか?」ということに気づく。

「あーごめん急には迷惑だよね。それじゃあ、30分後に」

「気を使わせちゃってごめんねー」

「俺のほうこそごめんね」

「それじゃあ」

「うん」


バタンとドアが閉まる。

いろいろと疑問が、残る湊だが雪乃の弱点を見つけたという謎の達成感に小さく、ガッツポーズをした。

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