第48話 「男の友情……?」
「はーーい! じゃあ、鈴木さんと陽葵ちゃんの新たな門出を祝って乾杯しましょう!」
本日の夕食は、庭でバーベキューパーティーだった。
ここに来たから実に三回目だった。
一ヶ月もしないうちにこんなにバーベキューをやることになるとは……!
美味しいし、いかにも山奥でやること! って感じで全然嫌いではないので俺的にはいつでも歓迎だけど!
「今日はいっぱい奮発しちゃいましたので、どーんと食べてくださいね」
食材を見ると、確かに前回二回に比べて食材が豪華になっていた。
ホタテやエビなどの海産物はあるし、お肉も少しいいやつを使ってそうだった。
「じゃ、かんぱーい!!」
「「かんぱーーい!!」」
大家さんの掛け声で、みんなが一斉にお酒を飲みだす。
「ふー、やっとリア充どもがいなくなると思うと
省吾くんが缶ビールを飲みながら、俺にそう声をかけてきた。
「少しは寂しがってくださいよ!」
「なんでだよ」
ぐびぐびと省吾くんがお酒を飲み干す。
いつもよりペースが早いような気がした。
「あの……省吾さん、あんまりそんなこと言わずに春斗くんと仲良くしてあげてくださいね」
陽葵が肉を焼きながら省吾くんに声をかけていた。
「最後の別れみたいに仲良くするとかしないとか意味わかんねーつーの。別にこれで最後じゃねーだろ、二人とも何言ってんだか」
省吾くんにつくづくお前はバカだなと飽きれた顔をされてしまった。
省吾くん的には、これで最後じゃないからと普通にしてたらしい。
「じゃ、連絡先交換してくださいよ!」
「なんで男にここまで熱烈にアタックされないといけないのか……。まさかお前そっち?」
「陽葵がいるからそんなわけないですよね!! 大体、省吾くんと雅文さんにその疑惑は言われたくないです!!」
「よし分かった。お前ここで死ね」
省吾くんに思いっきり羽交い絞めにされる。
普通に痛い!!
「ねーねー、そっちって何?」
「陽葵は知らなくていいの!」
陽葵も陽葵で聞かなくていいことをつっこんできた。
「雅文さーん、何とかしてくださいよ」
「……知らん」
雅文さんは雅文さんで、黙々と肉を食べていた。
脂身のとこは避けて食べているようだった、身体づくりのためだろうか。
……!!
雅文さんのその様子を見てあることが思いつく!
「雅文さん! 俺、雅文さんの試合絶対に見に行くんで連絡先教えてくださいよ! あとで日程とか教えてください!」
我ながらナイスアイデア!
試合を見に行きたかったのも本当だし、雅文さんの連絡先も聞けて一石二鳥!!
今日の俺は冴えてるのだ!
「見に来なくていいよ」
「ひどいっ!」
あっさり撃沈。
ダメだこりゃ、このままでは二人の連絡先を教えてくれそうにはなかった。
ここに来てからいっつもこうだ。
俺のこといじるだけいじって散々おもちゃにして!!
……おもちゃにして?
……いじって?
ある出来事をひとつ思い出してしまう。
ひとつ忘れてたことがあった!
俺的には闇に葬り去ってもいい案件だったのだが、これを材料にもう一度聞いてみてもいいかもしれない。
「雅文さん、何か大切なことを忘れてませんか?」
「大切なこと?」
「俺に罰ゲームやらせなくていいんですか!?」
それは、確か8月の頭だった頃。
俺が早朝の勉強を始めたときに、省吾くんと雅文さんは俺の勉強期間に対して大変失礼な賭けをしていたのだ。
その時の賭けは雅文さんの勝利で終わったのだが、なぜか無理矢理、省吾くんに罰ゲームをなすりつけられたのであった。確か、何でも言うこと聞きますとかそういう罰ゲームだった気がする。
「そんな面白そうなこと俺にやらせなくていいんですか!?」
「お前にはプライドはないんか」
省吾くんが飽きれた顔で笑っていた。
「はぁ、そこまで言うなら交換してやるよ。ほら」
雅文さんがポケットからスマホを取り出して、俺とデータのやり取りをしてくれた。
「ったくしょうがねーな」
省吾くんもそれに続いて、俺と連絡先の交換をしてくれた。
これで、ミッションコンプリート!!
やっとシェアハウス住人の連絡先を聞き出すことができた。
「ところで、雅文。こいつに何をやらせるよ?」
「……そうだなぁ」
「なんで、省吾くんも俺の罰ゲームに混ざってるんですか! 雅文さんだけですからね!!」
何か、とんでもないことやらされそうな気がする……。
この人たちとの男の友情……? って信じていいよね?
すっごく不安だ。
「おーー! 良かったなハルト! ほらショーゴもマサフミも飲め飲め!!」
俺たちをやり取りを見守っていた佳乃さんが突如乱入してきた。
省吾くんのグラスにお酒が並々と注がれる。
あー、こりゃ今日も省吾くんは佳乃さんに潰されるんだろうなぁと思った。
※※※
バーベキューでの食事も大体落ち着き、庭では大家さんが買ってきてくれた花火をまたみんなでやっていた。
佳乃さんは派手なのが好きらしく、打ちあがってパラシュートが出るやつに楽しそうに火をつけていた。
俺と陽葵と紬ちゃんはしんみりと三人で線香花火をやっていた。
「紬ちゃん、誰が一番長くもつか競争ね」
「はい! 負けません!」
陽葵と紬ちゃんは、随分打ち解けた様子で会話をしていた。
じーっと紬ちゃんが真剣な目で線香花火を見ていた。
「明日、帰っちゃうんですね」
紬ちゃんがほんの少し寂しそうに陽葵に声をかけていた。
「うん、また来るからね。そのときはまた一緒に遊ぼうね」
オカン口調で紬ちゃんにそう言う陽葵。
紬ちゃんも「うん」と名残惜しそうに頷いていた。
そんな話をしていたら、ポタっと陽葵の線香花火の火が落ちてしまった。
「ありゃー、私がビリけつだ」
陽葵があーあと言いながら、線香花火の使用後の部分を、ポイっと水の入ったバケツに入れた。
「私ね、紬ちゃんに感謝してるんだ」
「私にですか?」
「うん、あのとき紬ちゃんが春斗くんのことを叱ってくれなかったらこんな風になっていなかったかもしれないから」
「あ、あのときのことは忘れてください!」
「えへへ、あのとき少しだけ私に勇気をくれたのはもしかしたら紬ちゃんかもしれないね」
……俺的にも黒歴史確定の出来事だったが、陽葵はそれすらもいい思い出だと言わんばかりに微笑んでいた。
「あっ、私の線香花火も落っこちちゃいました」
「俺のも」
紬ちゃんとほぼ同時に、俺の線香花火も落ちてしまった。
「まぁ、結局は陽葵の負けだけどなっ!」
「えへへ、そうなのいつも私が負けてるの」
陽葵は負けたのになぜか心底楽しそうにニコニコと笑っていた。
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