第19話 「陽葵ちゃんはみんなのママ」
7月31日
今日は雲がどんよりとした湿度の高い少し気持ちの悪い天気だった。
今日も一緒に
昨日の買い物で冷蔵庫の中身は潤沢になっていて、陽葵も冷蔵庫もご機嫌の様子だ。
「春斗くーん、今日もなめこの味噌汁だよ!」
なめこ選手、まさかの三日連続の登板。
キッチンの陽葵監督による、なめこ選手の酷使が続く。
そ、そういえばうちの母親も一回美味しいって言ったら飽きたっていうまで延々と出続けてたっけ……。そろそろ、なめこ選手の降板を告げるべきか明日の様子を見て考えよう。
「おはよ~、ハルト、ヒマリ」
佳乃お姉さまが起きてきた。昨日に比べて、大分早い朝だった。
「おはようございます佳乃さん!」
元気よくお姉さまに挨拶をする。
パジャマから見えるたわわな胸元がとても目に良くないです!
けどずっと見ていたい! この風景を眺める壁になりたいです!
「春斗くん!」
「ごめんなさい!」
エスパー陽葵による、
何事もスピードは大事なのだ。
「もうっ!」
「あははは! 相変わらず二人は仲良しだなぁ」
佳乃さんがよいしょっと和室の食卓につく。
「あっ、省吾さんと雅文さんが起きてきたらご飯にしますので」
「おー」
佳乃さんと陽葵がそんな会話をする。
時間的にいえば、省吾くんと雅文さんもそろそろ起きてくる時間帯だった。
「うーん」
「どうしたんですか佳乃さん?」
なにやら考え事している様子の佳乃さんに声をかける。
「うーん、どうしようかなあッと思って」
「どうしようかな?」
「おはよ~」
「……おはようございます」
そんな話をしていると、省吾くんと雅文さんが起きてきた。
「あっ、おはようございます!」
「おしっ! 決めた!」
佳乃さんが省吾くんと雅文さんの顔を見ると、きらきらとした表情で俺たちにこう提案してきた。
「今日は山にピクニックに行こう!!」
「「「はぁ?」」」
思わず男三人で声がハモってしまった。
※※※
「なぁ、俺たちってなんでこうも女性陣に逆らえないんだろうな」
「男はそういう生き物だって誰かが言ってました……」
「……深いな」
シェアハウスの住人で、今度は近くの山の登山コースに来ていた。
山奥にいるのに、わざわざ山登りをするのだから相当物好きな集団だ。
この登山コース自体はシェアハウスから徒歩でいけるような距離にあったのでびっくりだ。
佳乃さん曰く、標高も低く道もちゃんと舗装されてるのでピクニックには最適なコースらしい。
確かに今歩いている道も、一般的なごつごつしてる山道というよりはちゃんと道が整備されており、ガチガチの登山というものではなかった。
「皆さん、飲み物いっぱい持ってきてるので脱水になる前に言ってくださいね」
ひと際大きいリュックサックを背負った陽葵が俺たちに声をかける。
「大丈夫か陽葵、そっちの荷物持つか?」
「うん、全然大丈夫だよ」
小柄な陽葵に背負われたリュックサックがゆさゆさと揺れる。
「なんだか、陽葵ちゃんってここのシェアハウスのママみたいな感じになってきたな」
はぁはぁと汗を流しながら省吾くんがそんなことを言ってきた。
……なんだろう、その一言にすごくもやっとしてしまった。
「ちゃんとお前らついて来いよーーー!」
佳乃さんが先頭をぐいぐいと進む。
こっちの歩くペースなんておかいまいなしだ。
「あのっゴリラ! マジで体力半端ねぇ」
省吾くんが佳乃さんに聞こえないように悪態をつく。すごく情けないです……。
「……俺はトレーニングなるからいいけど!」
雅文さんが省吾くんに続いてそんなことを言った。
トレーニング? ちょうどいい機会だから少し話を聞いてみよう!
「雅文さん、雅文さん」
「……どうした春斗」
「雅文さんって何やられてるかたなんですか? 今もトレーニングとか言ってましたし」
「……あれ? 言ってなかったけ?」
「そいつ、プロボクサーだよ」
雅文さんと話をしていたら、省吾くんも会話に参加してきた。
「ぼ、ぼ、ボクサー!? 凄いじゃないですか!」
「……うーん、あんまり勝ててないからなぁ」
雅文さんの長い前髪から少しだけ目が見えた。
どこか遠い目をしていたのが少し気になった。
「……なんでボクサーになろうと思ったんですか?」
興味本位でそんな質問をしてしまっていた。
「……うーん、格闘技とか好きだったからかな。けど、好きだけじゃやっていけないから今バイトとかして食いつないでる」
“好きだけじゃやっていけない”
今の俺には、雅文さんのその言葉重くのしかかってしまった。
※※※
「うぉおおお、やっぱりここは気持ちいいな!」
歩くこと一時間ほど、頂上について佳乃さんがひと際大きな声を出す。
「天気がもうちょっと良ければ最高だったんだけどな!」
今日の曇りの天気ではイマイチ、景色の良さとかそういうのは分からなかったが、頂上に着いたという達成感はやっぱり気持ちが良かった。
「みなさーん、お弁当持ってきてますよー!」
地面にシートを敷きながら、陽葵が俺たちに声をかける。
「うぉおおお、陽葵ちゃんマジ神」
「ヒマリは準備がいいなぁ」
省吾くんと佳乃さんがそれぞれ声を上げる。
「大体、前にあねごと雅文と来たときはただ登って下山するだけだったから地獄だったわ」
「あははは! 私料理できないからな!」
衝撃の事実判明!!
お姉さまは料理ができなかった!!
と、いうことはこのシェアハウスで料理できるのって陽葵だけなのでは。
今までどうしてたんだろこの人たち……。
「省吾さんそっちにはから揚げが入ってます。あっ、佳乃さんお茶どうぞ。雅文さん、そっちに手を拭くフキン入ってますので」
陽葵がテキパキと慌ただしく働く。
「陽葵、俺も手伝…」
「あははは、陽葵ちゃんはみんなのママみたいだなぁ」
「そうだなぁ、ヒマリはいい母親になれるなぁ」
みんなが、陽葵にそんなことを言う。
なんだかすごくもやもやする。
「陽葵は……」
そのもやもやを振り払うことができず、思わず次の言葉が出てしまっていた。
「陽葵は俺の彼女ですから!」
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