第16話 「え…えっちする?」
「もう最悪ですよ省吾くん!」
「だから、悪かったって! 何度も謝ってんじゃん」
びしょ濡れの服のまま5人でシェアハウスへ帰っているところだった。
服からびたびたと垂れる水がアスファルトを黒く染めていく。
着替えがないので肌に服が張り付いていて気持ちが悪い。
「あはは……、でも具合悪いのは仕方のないことですし」
省吾くんが川に嘔吐物をリバースするものだから、川で水浴びしていた俺たちは地獄をみた。
水に浮かび拡散されていく省吾くんの恐怖の攻撃に、俺たちは命からがら退避して今にいたるわけだ。
「あははははは! ショーゴは情けないなぁ!」
佳乃さんが豪快に笑う。あんまり大きな声で笑うものだから、佳乃さんの笑い声がやまびこになって帰ってきそうだった。
「半分はあんたのせいだからな! 酒はしこたま飲ませるし、川には無理矢理連れて行くし!」
省吾くんが額に青筋を立てて、佳乃さんに反論する。
省吾くんの口調がガチトーンだったので、本当に喧嘩にならないかと少しだけ心配になる。
「ま、雅文さん、間に入らなくて大丈夫なんですか?」
「……いつもああだから大丈夫」
心配になって、雅文さんに声をかけたがいつものことだからと流されてしまった。
まぁ、この人が言うならそんなに問題ないのだろう。
「だからあんたが戻ってくると嫌なんだ!」
「あははは! そんなこと言うなよ~」
しょ、省吾くんあんまり相手にされてなくない……?
佳乃さんと出会ってまだ二日目だったが、ここのシェアハウスの力関係がはっきり分かってしまった。
※※※
つ、疲れた……。
夜になり、ようやく布団に寝っ転がることができた。
昨日のバーベキューから連続の川遊びだったものだから体はくたくただ。
今日の夜はさすがに何もやらないみたいで、夕食後は各々が部屋に戻り休憩しているようだった。
陽葵は今は風呂に行っているので部屋には不在だ。
部屋の真ん中に俺と陽葵の布団が並べて敷いてある。
ごろんと布団の上で、あおむけになって天井を眺める。
——思えば、こんな風に何も考えずにくたくた疲れるまで遊ぶのは久しぶりだった。
多少のハプニングはあったが、こういう遊び方がしたくてここに来たのだから佳乃さんには感謝しなければいけないのかもしれない。
雅文さんのあの鍛えられた体はなんだったんだろう。今度聞けるときがあったら、話聞いてみようかな。
省吾くんは相変わらずアホだったなぁ……。
そんなことを考えていたら、うとうとと睡魔がやってきた。
「あーーっ! 春斗くん寝そうになってる!」
お風呂から陽葵が戻ってきた。
急に声をかけるものだから少しびっくりして少し目が覚めてしまった。
パジャマに身を包んで、陽葵も寝る準備はばっちりの様子だった。
「陽葵、電気消してー」
「もー!」
陽葵は文句を言いながらもパチッと電気を消して、もぞもぞっと布団に入る。
「……」
「……」
陽葵の動くたびに衣擦れの音が聞こえる。
……なんだろう、沈黙が重たい。
いつもなら全然気にならないのに。
「ねぇ、春斗くん起きてる?」
少しの沈黙のあと陽葵が声をかけてきた。
「……起きてるよ」
「なんか寝れなくて、お話しない?」
「……いいけど」
陽葵のほうに顔をむけると、陽葵も既に体ごとこちらに向けていた。
「陽葵、全然寝る気ないじゃん」
「寝れないんだもん」
「なんか、子供のときもこういうことあったよなぁ。いっつも陽葵が全然寝なくてさ」
「あはは、それで大体春斗くん先に寝ちゃうんだよね」
昔もよく夜は陽葵と一緒に寝ていたなぁと思い出す。
その度に陽葵が話しかけてきて、中々寝付かせてくれなかったんだっけ。
あの時は同じ布団だったけど、今はお互い大人になったので別々の布団だ。
「……はぁ、今日は疲れたなぁ」
「うん、あんな風に遊んだのすごく久しぶり」
「省吾くんのゲロ爆弾さえなければなぁ」
「あんまり言うと省吾さん可哀想だよ」
そんな今日の出来事の他愛のない会話をする。
「春斗くん、そっち行っちゃダメ?」
「ダメだって、子供じゃないんだから」
「知ってるよ、今は大人で恋人同士だよ」
「……そんなこと言われるといいよって言いたくなるじゃん」
「じゃ行っちゃうよ?」
陽葵が向こうからもぞもぞとこっちの布団にもぐり込んでくる。
「えへへ、到着~」
陽葵の顔が俺の顔のすぐ近くにくる。
陽葵の髪からはシャンプーのいい匂いがした。
「なんだかドキドキするね、あっ」
つい陽葵のことを抱き寄せてしまっていた。
陽葵もそれに答えるように俺の背中に手を回してきた。
「……春斗くん、体大きくなったね」
「そう?」
「うん、ごつごつしてる」
「陽葵はなんか柔らかくなった」
「……えっち」
「……否定できません」
「あははは」
少しだけ沈黙が流れる。
「……は、春斗くん。え、えっちする?」
「……あのなぁ、無理しなくていいんだぞ」
「け、けど省吾さんが彼氏彼女がすることだって言ってたし」
「あんまりあの人言うことはアテにしないほうがいいと思うけどなぁ」
「け、けど私、ずっとそうなれたらいいなって思ってたし……ってあれ? な、何言ってるんだろ私」
ホントにこの子は何言ってんだ。そんなことを言われたら止まらなくなってしまう。
「……陽葵」
「——んっ」
陽葵の唇にキスをしていた。
最初にしたキスとは違い、ちょっとだけ舌と舌が触れる大人のキスだった。
「はぁはぁ、何か熱い……」
「離れる?」
「やだっ、意地悪しないでよ」
駄々っ子のように言われてしまった。
今度は陽葵から俺の唇に自分の唇を重ねてくる。
「わ、私ちゅー好きかも……」
「陽葵……」
「——あっ」
陽葵の右のふくらみに手が伸びていた。
手のひらに丁度収まるサイズで、少し硬めのような気がしたがふにふにと指を動かすとやっぱり頭がくらくらするほど柔らかかった。
「んっんぅ……は、春斗くん。くすぐったいよぉ」
指を動かすたびに陽葵が身をよじる。
潤んだ瞳ががやたら色っぽく見えた。
――もっと陽葵のこと触りたい。
ドォォォン!!
そんな気分が最高潮になっていたら、急に隣の部屋から大きな音が聞こえた……。
えっなに? 壁ドン?
思わず陽葵と顔を見合わせる。
「……わ、私そんな声出てた?」
「ぜ、全然」
思いもしない音を出されて、二人で軽くちょっとパニックになる。
「きょ、今日はここまでかなぁ」
「えーーー」
俺がそう言うと陽葵が少し不満そうな声を出した。
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