六話

「い、たた……」


 ライゴウの鉄球を受けて吹き飛ばされ、地面に倒れているソルジャーのコックピットの中でワールは苦しそうな声を漏らしながら目を開いた。さっきの攻撃で一瞬だけ意識を失っていた彼女は、首を振って意識をはっきりさせるとすぐに機体の状況を確認する。


「左肩のモーターが完全に潰されている……。チッ! 全く、どんな馬鹿力なのさ?」


 左腕が動かなくなり左手で持っているマシンガンが使えないことにワールが舌打ちしていると、そこにルルとリルが乗る二体のソルジャーがやって来た。


「姉さん。大丈夫?」


「お姉ちゃん、生きてる?」


「ええ、私は大丈夫。それよりヤツが来るよ!」


 ワールは機体を立たせ自分の心配をしてくれる姉妹に返事をしてから、こちらへと向かって来る鎧武者の巨人、轟音蜘蛛を睨みつける。


「小型機だからって甘く見たのは私のミスね……。ここからは三人で行くわよ!」


「分かったわ!」


「うん!」


 ワールの言葉にルルとリルが頷き、それぞれのソルジャーが武器を構える。


 ワール達が乗るソルジャーは、ワールの機体が刀身が高熱となる斧とマシンガン、ルルの機体がバズーカとマシンガン、リルの機体が刀身がチェーンソーの剣と大型の盾を装備している。


 そしてワールのマシンガンはライゴウの攻撃により使用できなくなったので、唯一遠距離攻撃ができるルルが前に出て右肩に担いだバズーカを轟音蜘蛛に向ける。


「まずは私が……えっ!?」


 ルルがバズーカの狙いを定めて引き金を引こうとした瞬間、轟音蜘蛛が背中にある昆虫の脚のような部品の先端から大量の蒸気を勢い良く噴出させ、まるでジェット機の噴出音のような激しい音を立てながら空高く跳躍する。


「使わせない!」


「しまっ……きゃああっ!?」


 ここでバズーカやマシンガンを使われたら、距離を取ったとはいえトウマ達の所まで被害が出るかもしれない。それを防ぐための空高く跳んだ轟音蜘蛛は両腕から鉄球を発射して、ルルのソルジャーが持つバズーカとマシンガンを叩き落とした。


「ルル姉!? よくも……ひっ!?」


「くっ!」


 ルルのソルジャーが攻撃されたのを見て、リルとワールは轟音蜘蛛が着地した瞬間に攻撃を仕掛けようとしたのだが、二人の考えを読んでいた轟音蜘蛛を背中にある大砲を地面に放った。それによってワールとリルの動きが止まっている隙にライゴウは轟音蜘蛛を着地させると、一度ワール達のソルジャー三体から距離を取った。


(さて、これからどうしようか? ロボットとは戦いたいけど、彼女達は殺したくないんだよな)


 アニメではトウマ達とワール達は地球軍の新型機動兵器を巡って戦っていたが、ここは地球軍も宇宙軍もない異世界で戦い合う理由はない。そしてアニメの観ていたライゴウはできることならトウマ達だけでなく、ワール達とも実際に顔を合わせて話をしてみたいと思っていた。


 そのためライゴウがワール達を殺さずに無力化する方法を考えていると、背後から機械が駆動する音が聞こえた。


 ライゴウが後ろを振り返ると、そこにはオレンジ色の人型兵器と白の人型兵器、トウマ達と一緒に異世界からやって来た二体の人型兵器が、地面に両膝をついた体勢からゆっくりと立ち上がろうとしていた。


「よし! 起動完了! 坊主、『ドラグーン』の調子はどうだ?」


「は、はい。大丈夫です」


 オレンジ色の人型兵器、ソルジャーのコックピットの中でアレックスが通信機に話しかけると、通信機から白の人型兵器、ドラグーンに乗っているトウマの声が聞こえてくる。


 ドラグーン。


 地球軍が開発した新型機動兵器、正確には新型の操縦システムと兵器の実験機。


 催眠装置の一種を使い操縦士に機体の動かし方を初めとする機体の情報を与え、更には操縦士の脳波を読み取って機体に伝える特殊な操縦システムを積んでおり、この操縦システムのお陰で操縦訓練を受けていない普通の学生であったトウマでもある程度機体を動かすことができた。


 しかし操縦士の脳波を読み取るという操縦システムの設定上、最初に乗った操縦者以外動かすことができなくなる。そのため自分と友人達を守るためにドラグーンに乗って戦ったトウマは、それからもドラグーンから降りることができず、今もこうしてドラグーンの操縦士として戦っているのである。


 そして今もトウマはこうしてドラグーンに乗って戦おうとしていて、そんなアニメの主人公機を見てライゴウは瞳を輝かせていた。


(おお……! アニメの主人公が乗るロボット……やっぱりカッコいいなぁ!)

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