ナツカの忘れ物

羽音衣織

第1話図書室の幽霊

校舎と少し離れたところに、図書室だけの館があった。レトロな雰囲気で、僕は好きだけど、皆は幽霊が出ると言う言い伝えに、慄いで近寄る生徒はいなかった。


そのおかげで、僕は図書室がここが唯一の居場所となった。


影が薄い。

いてもいなくてもわからない。


それが自分の学校での立ち位置。

いても仲間にいれても支障はないし、いなくても、寂しいと言う人もいない。


深入りせずに、日常を過ごしていた。


僕は夏休みの間も図書室へ通った。

特にやることもなく、運動場で部活動の声が図書室にもこだまする。


静寂した中、ふと、今日はいつもと違った。


晴れているのに翳る時間が多々あった。

電気をみても、消えかけている電球もない。


「カタッ」


「バサッ」


誰もいない図書室で、本が落ちる音が静寂の部屋に響く。


トラップ現象?


流石に、不気味に思い本を置いて当たりを見渡しながら動き出した。


「誰がいますか?」


誰もくるはずのない図書室に、誰かいる保証もないのに声かけをしてしまう自分が滑稽に思う。


誰もいないと思って、振り向こうとした瞬間、


「ドドドッ」


と、大きな音を立てて、本が落ちる音に肩をビクッとしながら振り返ると、見慣れない女の子が本に埋もれて座っていた。


「だ、大丈夫?」


いつからこの子はいたのだろう?

制服を着ているから、この高校の生徒に間違いはない。


それにしても、顔色が悪すぎる。


「大丈夫?顔色悪いよ?夏休みだから保健室は誰もいないと思うけど、親御さん呼べるなら呼んだ方が…」


「…見えるの?」


彼女は僕の言葉を遮るように言った。


「えっ?」


質問が理解できなくて、僕はあっけらかんと彼女をみた。


「私のこと、見えるの?って聞いてるの!」


「み、見えるよ…」


「そりゃそうか、私の言葉を聞き返すくらいだもんね」


彼女は勝手に何か納得したらしい。


「でも、なんで急に私のこと見えるようになったの?私はずーっと、あなたのこと見てても気づかなかったじゃない」


僕を見てた?

そのなれない言葉に、僕はドキッとして頬が急に熱くなる。


「で、でも、いつもここは僕しかいないはず。誰か入ってきたら流石に気づくよ」


「あっ、もしかして、気付いてない?」


「何を?」


彼女と真っ直ぐ目が合う。

そして、その瞳はなんの嘘もつかない目だと僕もわかった。


「私、死んでるの」


「えっ?」


僕は呆然と彼女を見つめてしまった。


自分に今、何が起こっているかもわからないまま、ただ、死んでるのと言われても、恐怖も起こらないこの自分の状況をどう処理したらいいのだろう?




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