第46話 意外な来客
月日がたつのは早いもので、ルルーシュ僻地に来てから二度目の騎士団来訪となった。
よく知ったツンツン頭を発見し、一直線に駆け寄る。
「レオおおお!」
「どうしたんだ、いきなり? 凄まじい村の発展にこっちが叫びたいくらいなんだけど」
「村の西側、来るときに見たよね? 見たよね?」
「見たが、危険はないと判断してそのまま進んだぞ」
危険はない。確かにレオの言う通り。
家畜を育てることができるように村の西側の整備は済んでいる。
有翼族から家畜を仕入れたのだけど、あれは家畜なんじゃない、断じて違う!
私の想像する家畜というのは牛、羊、鶏……といった愛らしい動物たちなのよ。
「ルチル様あ。速すぎですう」
「お、エミリー。ルチルが動転しているみたいだけど、なんかあったのか?」
「はあはあ。何かあったんですか?」
「あったのよ。あったじゃないのよお!」
エミリーはレオとの話を聞いていないから察しがつかないのかしら?
でも、私は何度も何度も彼女の前で愚痴をこぼしていたんだよ。きっと彼女も認識してくれてると思うのだけど……。
「家畜よ。家畜!」
「家畜か。ちゃんと連れて来てるぜ。その分食糧無しで良かったんだよな?」
「やったあ。家畜が来たわよ。エミリー!」
「新しいもふもふさん! あの子たちも悪くはないですよお」
首をフルフルとしたエミリーの頬が緩む。
彼女は生物だったら何でもござれみたいだから、いくら説明しても私の気持ちが伝わることがなさそう。
ひょっとして私だけ? ジェットさんも特に嫌がっている様子がなかったの。むしろ、「育て易くでかくなるのが早いんだったらいいんじゃねえか」と歓迎ムード。
「来て、レオ!」
彼の手を取りズンズンと村の西側にある牧場へと向かおうとする。
「来る時に見たから、わざわざ見に行かなくても分かるって。あれが家畜なのか?」
「そうですよお。なかなか美味しいんです。えへへ」
「そ、そうか。俺もルチルと同じで少し苦手かもしれん……」
「そうよ、そうよ!」
ようやく同士を発見したわ。その名はレオ。彼が村にいてくれたら、二人で愚痴をぶつくさと言えたのに。
「どうしてですかあ。イモムシさん、見た目も可愛いし、美味しいですよ」
「あ、味はともかく、あれの見た目が可愛いとかないって! ね、レオ」
「見た目は別に何とも思ってねえ。ただ、口にするとなると中々タフだなとな」
ちゃんと見たんだよね、レオ。
エミリーは頬を染めてご機嫌そのもの。
ライトグリーンのイモムシは成長すると2メートルくらいになるのよ!
蛹になったりもしない。イモムシのまま大きくなって、卵を産む。産まれてきたイモムシは僅か一ヶ月で2メートル近くまで成長するの!
餌は雑草でも何でも草なら大丈夫。私の魔法を使えば餌に不足することはない。
使いたくないけど……みんなのたんぱく源のため、仕方なく魔法を使っているわ。南の蜘蛛といい、どうしてこうおぞましいのばかりなのよお。
「ひゃ」
お尻をペロンと触られ小さな悲鳴が出る。
この感じ、何だか懐かしい。
「よお、ルチルー」
「ヘリオドール王子! どうしてここに?」
「兄様もいるぞ」
壁の外にまだ少年であるヘリオドール王子がいらっしゃるなんて!
しかも、ギベオン王子まで? 一体全体どうなっているのかしら。
大混乱中の私の目にギベオン王子の華やかな笑顔が映る。
「ギベオン王子!」
「元気そうだね。ルチル。王都はちょっとした騒ぎになっていてね」
「御身に何かあったのですか? 僻地で静養されるよりは他のところの方が……」
「僕もヘリオドールも至って健康さ。君も変わりなく何よりだ」
もう何が何だか。
両王子に会えた嬉しさ懐かしさよりも、何故という気持ちが先に立ち頭が上手く動かない。
「ルチル。教えてくれ」
ヘリオドール王子が唐突にのたまい、私のスカートを引っ張る。
ぬ、脱げちゃわないかな。さりげなく引っ張り上げたけど、特にスカートがズレた様子はなかったわ。
王子ったら力加減まで調整しているのかしら。子供ながらにやるわね。
「は、はは。健康であることは確かなのだけど、少し困った事態になってしまってね。少し話をさせてくれないか」
「もちろんです! 騎士団の方から頂いたお屋敷がございます。そちらでもよろしいですか?」
「悪いね」
「いえ! エミリー」
「はいい!」
そんなこんなで王子たちとレオを連れてお屋敷に向かうことになった。
家畜を見てみたいという気持ちは完全に吹き飛んでいたわ。王子たちのまさかの来訪にもう全てを持っていかれちゃった。
◇◇◇
「え、えええ……。マリーがそんなことをするはずが。きっと、私のためを思って」
「ルチルのためを思って……というのは状況的に考え辛い。君のためを思ってなら、エミリーを巻き込むことはない。貴重な秘薬なのだからね」
「グゲッゲゲ」
相も変わらずのクレセントビークの汚い鳴き声が無情にもこだまする。
ヘリオドール王子がクレセントビークの鳴き声に目を輝かせ、エミリーと盛り上がっていた。
私はといえば……信じられないことをギベオン王子から告げられ茫然自失よ……。彼が嘘をつくなんてことは有り得ない。
それに、嘘をつくとすぐ顔に出るレオが神妙な顔でギベオン王子の後ろに立っているのだから。
ギベオン王子の告げた事実は衝撃的だった。
愛する妹ローズマリーが私とカラン公子の婚約を解消させるために暗躍したというのよ。
彼女が母の人脈を使ってとある魔術研究の第一人者から秘薬を入手した。その秘薬は一時的に魔力を失くすもの。
それだけだと只の毒薬なのだけど、秘薬と呼ばれるのはその後の効果があるからなの。
一時的に魔力を失うけど、魔力を枯渇させることによって魔力量を増やしたり以前より魔力回復量が増したりする効果があるんだって。
個人差はあるけど、概ね魔力量か魔力回復量が増大する。
「し、しかしギベオン王子。マリーは貴重な秘薬を使って私の魔力を増やそうとしてくれたんですよね」
「残念ながら、善意ではないと先ほど君に伝えた通りだよ。一時的に魔力を失わせ、資格なしとし公子との婚約を解消させる目的さ。君の魔力が戻らなかった時に公子の態度はおかしくなかったかい?」
「お会いしてくださらなかったり、お別れの時も青い顔をなさってました。体調が優れないとおっしゃっておりましたので、無理されたのかと」
「あはは。違うよ。小心者のカランは君の魔力が戻らぬことに恐怖していたんだよ。とまあ、事の顛末は分かったかい?」
「う、うう……」
華やかに笑うギベオン王子だったけど、目がすうっと細まり少し怖い……。
※いろいろ滞っており、、、すいませぬ!
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