最終話 リニアはSF

 8月31日……それは学生にとっては夏休みの最終日。

 宿題を土壇場どたんばでまとめて片付ける連中からすれば修羅場の1日だが、竜一りゅういち竜也たつやも計画的に宿題をこなして既に完了しており、明日の2学期の始業式を待つだけだ。


 家族そろって夕食を取っていると、TVのニュースがリニア工事の難航ぶりを報じていた。何でもルートを決めるのに揉めに揉めているらしく、まだ結論が出せない状態になっているそうだ。

 竜一にとっては「ルート」はあまり関係なく、ただ「リニア」にばかり意識が集中していた。


「なぁ竜二りゅうじ。リニアって、あのリニア? リニアモーターカーの事?」

「ああ、そうだよ。兄貴の言う「リニア」であってると思う」


 竜二は兄に対して大体はあっているだろうとそう伝えた。


「……!」


 その時、竜一の身体に衝撃が走った。


 リニア新幹線。

 それは磁力の力で車体を浮かせて走行する未来の乗り物。70年代から80年代においては「夢の乗り物」だったが、それが現実のものになろうとしていた。


「ス、スゲェ! つ、ついにリニア鉄道が現実のものになるのか! あのリニアが実用化されるだなんて! 凄すぎるぞこれは!」


 TVのニュースを見た瞬間、スマホをフル稼働させてリニアについて調べ始めた。しばらくして……。


「なるほどねぇ。開業は2027年目標って事は……今から4年後か? へぇ、リニアが4年後にはもう開業するのかスゲェな!

 進学するとしたら俺が大学生の頃に実用化されるのか! あのリニアが現実のものになるとはなぁ! でも何で神奈川県はリニアに難色してるんだ?」

「自然環境の破壊につながる、とか言ってて反対してるらしいよ。だから神奈川県を迂回する工事案も出されているそうだ」

「そうかぁ、俺には分からんなぁ。リニアモーターカーが実用化されるんだぜ? だったら手放しで喜ぶべき案件だろ? 何で反対するのか俺にはさっぱりわからんな」

「神奈川県の偉い人は兄貴みたいなSFマニアってわけじゃないから、環境の事まで考えているだろうよ」

「ふーむそうか……。SFファンならリニアが現実になるってだけで両手を挙げて大賛成するはずなのに、神奈川県の偉い人は分かってないなぁ」


 竜一はそう文句を垂れるが、埼玉県民である竜一には神奈川県の行政に介入することは出来ず、何もできなかった。

 結局その日は文句を垂れるだけで、明日は学校だから早く寝ろと言われ、眠りについた。




 翌朝……9月1日が来た。学生にとっては2学期が始まる日だった。


「あーあ。学校かぁ」


 朝からダウナーな竜也がそうぼやく。


「竜也、初日からそれか? ちっとは目標でも持ったらどうだ? 俺は2学期からはもう少しまじめに勉強して、特に英語は何とかテストで80点くらいは取るつもりでいるぞ」

「へぇ。ずいぶんでっかい目標だねぇ。1学期は38点だったのに。34点の俺が言うのも説得力ないけど」

「宇宙産業に就くには英語必須だろ? そのためさ。俺が大学を出る頃には宇宙産業ももう少し盛り上がっているだろうから、そういう仕事に就くために今から準備しないとな」

「へぇ、将来の目標か。良いなぁそういうのがあると」


 2人は自転車をこぎだし、家を出発した。




 1993年から30年後の世界にやってきた竜一にとって、未来はまだまだ輝いていた。

 SFの中だけにしか無かった物やSFの世界ですら描かれていなかったものが次々と現実のものへとなり、今はまだ学生だけど大人になったらもっと凄い事が現実になりそうだ。

 センスオブワンダーを感じさせる出来事にまだまだ会えるかもと思うと、竜一はワクワクした気持ちで軽い足取りをしながら学校へと向かっていった。



― 終 ―

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