第43話 遺伝子組み換え作物はSF

 その日、門河かどかわ家の家族4人が一緒に夕食であるいなり寿司とそうめんという組み合わせの料理を食べていた。

 いなり寿司は他所と比べてかなり薄味に仕上げているのか、竜一りゅういち竜二りゅうじ竜也たつやはしょうゆを付けて食べていた。


「? 何だ? しょうゆが出てこないぞ? 切れたのか?」


 竜一はしょうゆ差しを振るが、中身が出てこない。空になったのだろう。


「しょうゆのボトルは冷蔵庫にあるから注いで来てちょうだい」


 咲夜さくやからそう言われた竜一は特に抵抗する様子もなくすんなりと立ち上がり、空のしょうゆ差しを持って冷蔵庫のあるキッチンへと向かった。


 竜一が冷蔵庫のドアを開けると、確かにしょうゆのペットボトルが入っていた。30年以上昔から変わらない姿だがまぁいいか。と思い

 ふたを開けて問題なく中身をしょうゆ差しに注いていき、終えた。その際、偶然ではあるがしょうゆのボトルに目が行った。そこの原材料の部分に


「大豆(遺伝子組み換えでない)」


 と書かれていた。遺伝子組み換え……? どういうことだ? 気になった竜一はしょうゆのボトルごとリビングに持って行って話を聞くことにした。


「咲夜さん、この「大豆(遺伝子組み換えでない)」って何なんですか? っていうか遺伝子組み換えって、どういう事ですか?」


「遺伝子組み換え作物ねぇ……ごめん、私はあまり詳しくないわ」

「ああ、遺伝子組み換え作物か。俺は少し知ってるから教えるよ」


 話を聞いていた竜二が割り込む形で話を始めた。




「遺伝子組み換え作物ってのは遺伝子を組み替えたり意図的に発現させたりして、除草剤や害虫への耐性を付けたり特定の栄養素を増やしたりすることなんだ。

 21世紀に入った時点でもう結構普及していて、今じゃ世界中で当たり前のように栽培されているぞ」

「な、何ぃ!? そんなことが出来る世の中になっているのか!? ス、スゲェ! 遺伝子組み換え技術がもう実用化されてるのか!?

 それで既に組み替えられた作物が流通してるのか!? とんでもないことだぞこれは! だったら強化人間とかキメラ動物とかも作れるんじゃないのか!?」

「理論上はそうだけど倫理的にそれが許せない、許してはいけない、ってなってて植物に関する研究が主だとは聞いてるよ」

「いやぁスゲェなぁ、もう遺伝子組み換え技術はそこまで行って商業路線に乗せているのか。SFでも中々無いというか、あったら間違いなく人体改造に舵を切るだろうけど」


 遺伝子組み換え技術が既にここまで発達している。SFでは速攻で遺伝子強化人間作りに使われそうな技術だ。黒い噂では既に「遺伝子強化人間」が実在するとかしないとか……。


「ところでわざわざ「遺伝子組み換えでない」って書くことは「遺伝子組み換え作物は何かしら引っかかる部分」もあるってわけか?」


「へぇ、今日の兄貴は鋭いじゃないか。

 日本じゃ「遺伝子組み換え作物を食った害虫がコロリと死ぬ」映像を見せて「危険だ!」って思わせることで普及はしてないけどね。

 メンデルの法則を知ってりゃ怖がらなくてもいいのになぁ、って俺は思うんだがな」


 メンデルの法則は竜一も竜也も学校の生物の授業で学んでいた。学校の授業って実生活の役に立つんだな。と、今まで学校を散々馬鹿にしていた竜一は内心少し反省した。


「……学校の授業って、役に立つんだなぁ」

「そうだぞ兄貴、一見無駄に見えるけど役に立つんだぞ? 他にも数学がわからないからクレジットカードのリボ払いがお得だと考えるようになっちまうんだよ。

 こんなに使ったのに月々の支払いはたったの1万円で良いんですか? ってなっちまう。どっちも学校の授業で学んだ程度の知識でも十分わかる物なんだとは俺は思うけどな」


 竜二は実の兄に対し少しだけ説教する意味を込めて語った。

 それを聞いた竜一は「2学期が始まったらもう少しまじめに授業を受けよう」と思った。




【次回予告】

「出前」それは昭和の頃にもあったもので町の中華屋のオヤジやせがれが「おかもち」で運んできたものだが、

 令和の出前は30年分のアップデートが施されていた。


 第44話 「出前はSF」

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