第32話 見逃し配信はSF

「うわしまったぁ!」


 竜一りゅういちが昼寝から目覚めたら「あかしや&マツオ」という彼が好きなTV番組の放送が終わった時間だったのを時計を見て気づいたのだが、もう遅かった。


伯父おじさん、どうしたの?」

「見たい番組を見逃したんだよ。あーあ、寝るんじゃなかった」

「そういう事か……じゃあ伯父さん、見逃し配信やってるかもしれないからそれを見れば大丈夫だと思うよ」

「へ? 見逃し配信? なんだそれ?」


『見逃し配信』なる聞きなれない言葉に竜一はおい竜也たつやに聞く。


「文字通りTVでの本放送を見逃した人向けに、次回の放送まで最新話が見れるサイトがあるんだよ」

「ふーん、そうか。わかった検索してみるわ」


 竜一は竜也からヒントを聞いてスマホを使って検索する。探すこと5分……それらしきサイトへとたどり着いた。動画を再生し始めると……。


「おおお!」


 スマホに竜一が見逃した「あかしや&マツオ」の回が流れだした。


「こりゃいいや! スゲェなー。見逃してもこんなフォローがあるとは思ってもみなかったぜ! 便利になったなー。

 昔はビデオで録画しないと見逃したら一生見れないのが当たり前だったのになー。あ、でもこれだとスポンサーつかないかもしれないけどTV局は大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。地上波でCMに入るのと同じタイミングで広告が挿入されるから」


 そう竜也から言われると、確かに地上波ではCMに入るであろうタイミングでドラマのCMと、とある食品会社のCMが流れ始めた。どうやらこの辺は地上波の放送と同じらしい。


「ふーん、CMが入るのも一緒か。でも放送時間にTVの前で待機してないと見れない。っていうのが無くなればこりゃ視聴率減るかもしれないぜ?」

「あー、そうだよね。でも今のところTVには有利な部分もあるんだよ。そのうち出てくると思うけど……」

「そのうちねぇ……!? 何だこれ!?」


 竜一のスマホで再生されているTV番組の動画には「権利の関係上お見せすることができません」というメッセージと共に黒塗りで潰された画面が流れていた。


「新聞の記事なんかは権利の影響で許可が下りない事があるんだよ。俺も詳しいことは分かんないけどね、TVや新聞社業界の人間じゃないし。その辺は今のところはTVでの本放送を見るしかないんだよね」

「へぇそうなのか。新聞局は頭が固いなー、こういう所もパッパと許可出せばいいのに。何もこれで大損して会社が潰れるわけでも無さそうなのにさぁ」


 竜一は新聞社に「頭の固い奴らだ、だから発行部数が右肩下がりなんだ」というネガティブな感情のこもった言い方をする。




「インターネットが登場して25年くらい経つけど、いまだに理解できない年寄りが多いとは聞いてるからその影響なんじゃないの?

 言っとくけど伯父さんの事じゃないよ。伯父さんは十分ついて行ってるから」

「そうか。め言葉として受け取っていいんだよな?」

「もちろんだとも。けなす意図は一切ないからね」


 今年の春に出会ってもう3ヶ月近く同じ家で暮らしているため、お互いが相手をどう見ているかはもう分っていたことなのだが念のために聞いて、予想通りの物が返ってきた。


「しっかしまぁインターネットって奴は世界を変えたんだなぁ、俺が生きてた90年代では考えられん進歩だよ。

 SF作家でも考えつかなかった事だけど面白くて便利な世の中になったよなぁ」

「へぇ。90年代の人からしたら今はそう映るのか。俺にとっては産まれたときには既にインターネットがあったからその辺はよく分からないんだけどね」


 2023年で高校2年生になる青年はインターネットが誕生した後に産まれ、物心ついた時には既にスマホがあったという世代で、電話をかける真似をするにもバナナを使わず板チョコを使うものだ。

 インターネットの利便性に今一つ気づかないが、竜一の反応にはそういうもんだと割り切っていた。




【次回予告】

「AI」人工知能と訳されるそれは「必ず」そう「必ず」人類に牙をむく存在だ。AIの反乱はSFでは定番中の定番だ。

 それが社会にここまで溶け込んでいて大丈夫なのか!? 竜一は人類の危機を勝手に感じていた。


 第33話 「AIが既に社会に溶け込んでいる!?」

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