第14話 新宿猫はSF

「まもなく、新宿、新宿です。お出口は右側です」


 電車内にアナウンスが響く。

 せっかくのゴールデンウィークというのもあって、竜一りゅういち竜也たつやは電車に乗っておよそ30分ほどかけて新宿へと出かけることにした。

 1年前から始まったブースター接種が功を奏したのか、あれだけ猛威を振るった新型コロナウイルスが何とか収束して観光への人出も戻りつつあった。




「新宿かー。来たのは初めてだな」

「へー、伯父おじさんも初めてなんだ」

「? 伯父さん『も』って事は竜也、お前も新宿に来たことは無かったのか?」

「うん。今日が初めてなんだ」


 2人とも初めて来ることになった新宿、その東口を出てすぐの場所に竜一と竜也とでは別なものだったがお目当てのモノがあった。


「おお! ここが噂のアルタ前か! 『笑っていいとも!』の発信地だなー」


 竜一のお目当ては「アルタ前」だった。


「? 伯父さん『笑っていいとも!』って何?」

「えー? 竜也、お前『笑っていいとも!』知らないのか? 「お昼休みはウキウキウォッチン♪ あっちそっちこっちどっちいいとも♪」って聞いたことあるだろ?」

「ごめん、知らない」


 そう言いながら竜也は持っていたスマホで検索する。5分ほどして……。


「あー分かった。昔あったTV番組の事だよね? もう10年近く前に終わってるよ」

「!? な、なにぃ!? 『笑っていいとも!』はもう放送してないの!?」

「うん。タモリが司会やってた番組でしょ? 俺は見た記憶はないなー」

「そうか……にしても令和じゃみんなスマホが標準装備かー。何でもその場でパパっと検索か、俺の時代では考えられない事だなー」


 竜一は「分からない事はスマホで検索」という令和のスタイルに感心していた。昭和から平成初期にかけては分からない事があったら辞書を開く程度しかなかったころとは大違いだ。


 ちなみに、『笑っていいとも!』の番組はもちろんの事、その収録が行われていた放送スタジオであるスタジオアルタそのものすら、既に過去のものとなっていたのをこの時の竜一は知らなかった。




「そういえば竜也、お前も新宿東口で見たいものがあるって言ってたな?」

「うん。アレだよアレ」


 竜也の指さした先にある彼のお目当てのモノはアルタ前同様、新宿の東口を出てすぐの場所にあった。ビルの屋上に作られた巨大なモニターだった。

 そのモニターに、あるものが映し出された。画面からはみ出そうな動きをする巨大な三毛猫だった。


「な、何だこりゃあ!?」


 想像以上に飛び出して見える、巨大な猫の動画が映っていた。竜也同様、これを目当てに来て待機していた人たちが歓声を上げて一斉にスマホを向けて写真や動画を撮る。


「ど、どうなってんだコレ!? ホログラフじゃなさそうだけどすごく「飛び出している」ように見えるぞ!? スゲェ! こんなの見たことが無いぞ!」

「モニターが湾曲しててそれを利用して3Dに見えるように作ってあるんだって。

 俺も動画では見てたけど生で見るのは初めてだな。やっぱり動画と違って実物は動きが滑らかだなー」

「スゲェ! もう3Dメガネをかけなくても裸眼でここまで立体的な表現ができるのか! SFみてえだ!」

「3Dメガネ? なんなのそれ?」

「竜也、お前3Dメガネ知らないのか? じゃあ教えるよ」


 竜一は竜也に対し教える。

 左右異なる角度から撮影した映像をそれぞれ赤と青の光で重ね、それを赤と青のカラーフィルタの付いた眼鏡で見るというものだ。

 映像だけでなくイラストにもよく使われ、竜一が小学生の頃は3Dと言ったらもっぱらこれだった。


「へぇ。昔はメガネかけないと3D映像は見れなかったのか、不便だったね。今では裸眼で3D映像見れるのは当たり前なんだけどなぁ」

「はぁ~、今は裸眼で3D映像が見れるのか、すげえ時代になったな。SFでもなかなか無いぞこれは」

「この新宿猫とは別の技術だけど、昔3D映像がブームになってたとは聞いたことあるね。俺が物心つく頃にはもうブームは下火になってたそうだけど」


 竜一は技術の進歩にただただ感心していた。

 新宿東口でお互い見たいものを見た後は2人で新宿各地の観光地を巡る事にした。




【次回予告】

 新宿に出かけた竜一と竜也は観光を終えて帰ろうとしていた。

 その帰り道で竜一は奇妙なものを見つけた。それは大豆ミートなるものの物産展。

 大豆と肉……? 今一つ接点が無さそうな組み合わせだった。


 第15話 「大豆ミートはSF」

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