第12話 軌道エレベーターがもうすぐ着工!? 生きてる間に完成!?

「!! た、大変だ!」


 学校帰りにそれを見つけた竜一りゅういちが帰宅するなり竜二りゅうじの部屋に飛び込んできた。竜二は仕事も終わり一息ついた所で起きた突然の出来事だった。


「兄貴、どうした? そんなに騒いで」

「竜二! これ見てくれ! ついに2年後に軌道エレベーターの建設が着工されるそうだぞ! 2050年、つまりは俺やお前が生きている間に完成なんだとよ!」


 とんでもない物を見つけて大声を出して騒ぐ竜一のスマホにはとある建設会社が発表した軌道エレベーター建設計画のページが映っていた。


 軌道エレベーター……。

 宇宙エレベーターとも呼ばれるそれは簡単に言えば宇宙から地上までロープをたらし、そのロープを昇降する電気の力だけで宇宙にいけるという施設だ。

 現在の宇宙へ行く手段であるロケットを使うよりもけた外れに低コストでなおかつ安全に宇宙まで行くことができるが、

 建設場所はどうするのか? 建設後の維持管理は誰がどうするのか? 昇降機の技術開発は? などという問題があり2023年現在でも空想SFの域を出ないモノである。




「あああれか。確か『大森組』がぶち上げた奴だろ? 誰も本気にしていないって。今時出来もしないことを大ぼら吹いてぶち上げて注目してもらう、ってのはもう当たり前の事なんだから。

 よく言う「炎上商法」の一種でとにかく注目されたいだけの連中がやらかす常とう手段だよ。こんな事で驚いて真に受けるなんてそのうち騙されるぜ兄貴。

 それに2年後着工って言っても地球部分アースポートだろ? 肝心のケーブル部分をどうするかはまだ研究段階で本当に着工できるなんて誰も信じてないよ。

 みんな「ポーズをとってるだけ」だと思ってまともに信じちゃいないさ」


 竜二はSFの世界にしかなかった軌道エレベーターの実現に大興奮する竜一をある種冷ややかな視線を投げかけながら軽くいなした。

「炎上商法」とまではいかないが注目を浴びるために企業から個人までやる「ぶち上げ」の一種だと2023年に住む人間は誰も真剣に聞こうとはしなかったのだ。

 当然、竜二も例外ではない。それに対し、彼の兄は不満げだ。


「竜二、お前夢を見なくなったな。昔は科学が見せてくれる素晴らしい未来を一緒に見ていたけど、その弟がそんな冷たい奴に育つなんて思わなかったぞ。

 世間の荒波って奴にもまれてスレちまったのか?」

「兄貴、兄貴からしたら文句たれてるようにしか聞こえないと思うが俺はもう44歳だぜ?30年前から何も変わってない兄貴と違って、いい悪い両方含めていろいろ体験したからな。

 それに俺は竜也たつやの父親だ。親としてそれなりに世渡りしてきたし仕事もやっているからな。だから兄貴からしたら「冷めた大人」に見えるだろうが、ある程度は仕方ないと割り切ってくれ」

「……そういう事か。お前にもセンスオブワンダーを知ってもらいたかったけど結局できなかったかー。俺の教育不足だな」


 竜一は残念そうにそう言う。本当は竜二も自分のように清く正しいSFファンとして成長してくれるのを期待していたのだが、その夢はかなわなかった。

 30年も経てば世間にもまれていわゆる「大人」になるのだろうとは思っていたのだが、正直言って寂しかった。




「兄貴、話はこれだけか?」

「ああ。あまりにもスゲェ事だったんで竜二に見せてやろうと思ってな……」


 そこまで言ったところで、部屋に咲夜さくやが入ってくる。


「竜一君どうしたの? なんかすごい大声出してたけど何かあったの?」


 竜一が何か騒いでいる、と思って自分の部屋から出てきた咲夜を見ると再び例の話が始まった。


「おお! 咲夜さんか! 聞いてくれよ、ついに軌道エレベーターの着工が2年後に決まったそうなんだ! 俺や竜二がまだ生きている2050年頃に完成するそうで……」

「ハァ~ア。まーた始まったよ」


 竜二は兄の「SFに関する発作」がまた始まったのかと、半分呆れた様子で見ていた。残りの半分は兄貴はいい意味でも悪い意味でも変わらないなぁ、とも思っていたそうだ。




【次回予告】

「SFが好きなら「ヨムカク」は知ってるか?」

 竜也たつやの知り合いからそんな声をかけられた。調べてみるとタダでSF小説が読み放題というとんでもない場所らしい。


 第13話 「WEB小説投稿サイトはSF」

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